①《最悪の偶然・・・ 》by 柳川隆一

久しぶりのアルジャーノンの柳川くんです。

《キープ》というお話を覚えてますか?
合コンした所に彼女が来るというお話なんですが・・・・・

細かい設定はしないで(もちろん違うヒロインです)、先輩OLのヒロインちゃんが後輩に呼び出されて行った先に彼氏の柳川くんがいたみたいな感じです。

何ででしょうか? たまにチャラ男でナンパ師の柳川くんが書きたくなります(笑)





『先輩! お店分かりますか? もう揃ってるんで早く来てくださいね〜』
「いやいや、人数揃ってるならさ〜 私居なくてもいいんじゃない?」

『先輩、必ず来てくださいね!』
「はいはい・・・(聞いてよ・・・)」

今日は後輩達と女子会しようと話してたんだけど、私だけ急に仕事を頼まれてしまって・・・・・今も会社なのよね。

そう時間はかからないとふんだ私が、後輩達に先に始めといてって送りだしたんだけどけっこうかかってしまって。。。


残業も終わり連絡をいれれば、レストランやカフェじゃなくてカラオケしてるって話で・・・・・じゃ、私はいっか!

そう言うと来て来て言うから・・・・・・仕方ない、行くか。

カラオケは好きなんだけどね、いつも1人カラオケなんだ・・・・・選曲がマニアックでさ、皆の前で歌っても知らないし、かといって皆が知ってる歌にしてると不完全燃焼しちゃうから・・・・

いつしか私は「音痴なんで」って、断ってたんだよね〜。

それに後輩達みたいに、20代前半の子が知ってる曲って、知らないんだわ。


ま、タンバリン片手に盛り上げ役してますか!

そう覚悟して向かったカラオケルームには・・・・・・・・



「お姉さん、いらっしゃーーい!!!」
「うわっ! スッゲェ〜〜美人なお姉さん! 俺タイプっす! めっちゃタイプ!」
「・・・・・・綺麗だ」

え〜〜っと、このメンズの方々は一体???

私は後輩の1人、リカちゃんを呼んで詰め寄った。

「どういうこと? 男がいるって聞いてないから!」
「いいじゃないですか先輩! 別にカラオケくらい・・・さっき声かけてきて奢ってくれるって言うから」

「いやいやいや、リカちゃん! 男がいるって聞いてないし、女子会って女子だけでするもんよね?」
「先輩、堅いこと言わないで! 盛り上げ上手な人もいて楽しいんですよ?」

それなら私はいらないでしょ!!!
私、彼氏いるからって知ってるでしょ、リカちゃんってば!!!


「じゃ、私は帰るから! 皆、楽しんで?」
「帰らないで下さいよ〜〜・・・何でもいいって言ったの桜先輩ですよ?」

「・・・・・・彼らとカラオケして何時間たったの?」
「まだ1時間ですよ! 3時間コースなんで、さあさあ先輩、行きましょ?」


〜〜〜帰らせてくれよう・・・・・・

今日は後輩達との女子会だからって、彼氏が家に来るの断ったのに・・・・・


「さ、行きますよ先輩!!!」
リカちゃんに背中をグイグイ押されて椅子に座らされた私は、それでも端っこに座って目立たない様にしてたの。

「みんなはOLさんなの?」
黒髪に金のメッシュ君が、リカちゃん達を眺めて言うのに・・・・・おうおう、はにかみながらニッコリ笑って答えてるリカちゃん、さすがだわ。

後輩達は20代前半で、私は30手前・・・・・若いメンズが彼女達に群がるのを横目で見つつ、お腹空いたから何かないかとテーブルの上を物色しても何も無い。

メニューを広げて見てる私の横には年上のメンズが座ってきた。

「俺、鹿内っていいます。 あ、これ! オススメですよ、美味いです!」
彼が指してくれたのは、パスタ・・・・・無難かな?

「そうなんですか、じゃ・・・・ナポリタン頼もうかな?」
「喜んで! おい神田、ナポリタン注文してくれ」

鹿内さんが声をかけた神田さんは、金メッシュの・・・・・可愛い顔してるイケメンだった。

その彼がメニュー片手にチョイチョイ手招きしてるから、側に行ったの・・・・・そしたら飲み物聞かれてメニューに目を落としたの。

「お姉さん、パスタ好きなんだ?」
「こういうとこだと無難かなぁ〜〜ってくらい・・・ ジンジャーエールにしようかな」

「OK!」
パチン!とウィンクした神田くんが、電話で注文してくれるのを見ながら、立ってると耳に入ってくる声がドアの外から聞こえたの。


「トイレの前でキスなんて、恥ずかしぃ〜〜〜」
「そんなこと言って、ノリノリじゃん! 舌まで入れてきたのソッチじゃん!」
この声は、後輩のエリカちゃんだけど・・・・・・・トイレの前でキスですか!?

肉食系のエリカちゃん、きっと相手がタイプだったんだなぁ〜〜・・・・・

ドアが開いて入ってきたエリカちゃんに、後に続いたイケメンは・・・・・・・・はああ???


私の目が、おかしいのかな???

エリカちゃんの後ろから入ってきた男性は、私の彼氏の柳川くんに瓜二つで・・・・・・・はあああ???

凍結した私の脳みそでは、カチン!と固まったまま入ってきた人を見つめるのしかできなくて。
黒の革ジャンに銀のネックレス、彼の勝負服を見つめていた私を、彼もまた固まって見つめていた。


「うっそ、なんでお前が・・・・・・」

そう呟いて固まる柳川くんを、エリカちゃんが引っ張ってソファーに座らせた。

「柳川くんたらエリカがトイレ出たら待っててくれたの〜〜」
(ふぅ〜〜ん、それで盛り上がってキスしたんだ)

エリカちゃんは嬉しそうに、彼の腕に自分の腕を絡ませて胸を押しつけてるし、彼は彼で満更じゃない顔してるし。

少々固まった感じしてるけど、自分の腕に当たるエリカちゃんの胸、見たよね! 今、しっかりと見たよね!


そう・・・・・こうやってナンパして女の子と遊んでたんだ。

出会って1時間足らずでディープキスして、帰りは御二人でラブホでも行くのかしら?

そりゃちょっとチャラいなとか思ってたけど、賑やかなの好きだし、女の子も好きだし・・・・・でもさ、まさかこうやって遊んでるなんて思ってもみなかったよ。

私・・・・・・彼女だよね!?

私達、付き合ってるんだよね!?

なによ、これ!!!

ふつふつと腹の底から湧いてくる怒りのまま、彼を睨んだ私は、ドカッと向かいのソファーに座って真正面から柳川くんを見たのよ。

腕組みして睨みつけてる私は、これから彼にどう怒りをぶつけようかとイライラしながら考えてた。


・・・・・・・その私の耳にエリカちゃんの声が、突き刺さった。。。



「ねぇ〜〜柳川くん! 賄いのオバちゃんとなんて別れて私と付き合おうよ〜〜」

・・・・・・・・え? なに? 今なんて言った?

「4歳も年上で、柳川くんの前に男と付き合った事もないって、面倒くさい彼女なんて止めちゃいなよ〜〜」
「エリカちゃん、な・・・なんの事かなぁ〜〜」

「こうやって遊ぶ時間がないときのキープなんでしょ? 行けばご飯作ってくれるから、賄いのオバちゃんって呼んでるって言ってたじゃん!」
「エリカちゃん、ちょっと黙ろうか? ね? ね?」


・・・・・・・・・賄いの、オバちゃん!?


「それにオバちゃんでもさ、目つぶってればヤレるからって言ってたじゃん!」
「エリカちゃん!!!」

「なによー」
「その話は止めよう!」


・・・・・・・・オロオロとエリカちゃんの口を塞ごうとしてる彼が、何だか可笑しい。。。


「へぇ〜・・・そっちの人の彼女って、賄いのオバちゃんって呼ばれてるんだ」
「そうなんですよ、先輩! そんなつまんない女なんか止めて、私と付き合えばいいのに!」

「じゃあさ、エリカちゃんが奪っちゃえばいいんじゃない? つまんない年上の女から、そっちの彼のこと・・・」
「先輩もそう思います? エリカね、めっちゃタイプだから彼女になってあげてもいいんだけどなぁ〜〜」

上目遣いに彼を見上げるエリカちゃん、小悪魔的で可愛いじゃん!

年上で、影じゃあ賄いのオバちゃんなんて呼ばれてる私より、よっぽどお似合いだよ!!!

私がエリカちゃんを煽れば彼女、その気になっちゃって・・・・・猫みたいに柳川くんにスリスリ擦りよってるし、若い女の子に側に寄られて彼も・・・・・・・



・・・・・・・・恋人だと、思ってた。

・・・・・・・・残業だ、仕事だ、雑用だ、なんだで男性とつきあったことなかった私にできた、初めての人。


調子が良くて、チャらくて、詐欺師みたいに口が達者で・・・・・・でも、優しい人。

好きだよ、柳川くん・・・・・・大好きだよ、柳川くん・・・・・・・・でもね、あんまりじゃない?


ナンパして遊んでるだけでも頭にくるのに、他の人に私のことをそんな風に言ってたなんてね・・・・・・・


「・・・・・・・・クソ野郎が・・・・・・」
「え?」

ボソッと小さく呟いた私に、向かいの柳川くんが反応してるけど・・・・・・もう、いいから! もう、あんたなんか!!!


私は歌を入れた。

ファンクなメロディーの曲は、誰も知らないんだろうけど・・・・・・もう関係ない!!!

胸に湧いてくる怒りのまま、私はマイクを握ったの。






まさかナンパしたのが俺の彼女の後輩だったなんて、丸っきりの偶然だし!



リカちゃんやエリカちゃん達とカラオケしてたら、俺さエリカちゃんとイイ感じになっちゃってさぁ〜〜・・・

トイレ行った彼女が出てくるの待ってたら、向こうからキスしてきてさ、あんまり積極的で俺の方がビックリよ!!!

これがいわゆる “ 肉食系女子 ” ってやつ?

え? え? じゃあさ、もしかして上手いこといったら、ホテルとかでウハウハ♡な展開になっちゃったりなんかして!

もうけ、もうけ〜〜〜・・・・やっぱり据え膳食わぬは男の恥っていうし、彼女いるけど今夜は会えないし〜〜

やっぱ、これはイケイケ・ゴーゴーっしょ!!!



なんて浮れてた俺が部屋に戻ったら、そこには・・・・・・・なんっで、お前がいんだよ!!!


まさかの彼女登場に、頭んなか真っ白になった俺がフリーズしてる間にエリカちゃんが、とんでもないことバラしちゃって、マジ焦るし!


賄いのオバちゃんなんて、そんなの本心なわけねぇーよ!

でもエリカちゃんが次々バラすから、俺は話をそらすことも、口を塞ぐこともできずにオロオロしてるだけ!


そうしたら俺の彼女がエリカちゃんを、煽りだしたんだ。

「奪っちゃえばいいんじゃない? その年上の女からエリカちゃんが・・・」

もしもーし・・・・・意味わかって言ってますかぁーー?
俺の彼女はお前さんで、エリカちゃんを煽ってるのもお前さんで・・・・・・意味わかんねぇーし!


・・・・・・もしかして、俺と別れようとか思ってる?

え? ナンパは言い逃れできねぇーけど、ホテルとか行ってねぇーし、セーフじゃね?

謝れば許してくれるって範囲じゃねぇー???


そう思った俺は、向かいにドカッと座ったお前の目で、アウト!だと感じたんだ。


俺を睨みつけてる目は、初めて見るもので・・・・・・本気で怒ってるのが分かったんだ。


その怒りの目のままマイクを握ったお前が、上着を脱いで、結い上げた髪を・・・・・・解いた。


ゆるくカールがかかった髪は、ツヤツヤと背中まであって一気に色っぽくなってくる。

スーツの上着を脱いだお前がブラウスのボタンをプチプチと外して・・・・・・って外しすぎだろ、胸の谷間が見えてんじゃん!!!

手で髪をワチャワチャにしたお前は、匂い立つようにセクシーで・・・・・・でも、一体どうしたんだ???


ファンクなノリのいい前奏に踊ってるお前は、随分と色気があって俺の連れの男共が生唾飲み込んでるし!

誰かを指差して、手の平を上にしてさ、人差し指でクイクイしてるなんて、なに? 誰かを呼んでんのか?

つっても、俺じゃねぇーし・・・・・・・・神田かっ!?


「呼ばれちった!」
なんて言って神田が寄ってった!

聞いたことない曲を歌いながら、お前・・・・・絡みつくみたいに神田と踊るなんて・・・・・・

神田の頬をなぞる指先に神田がボーッと見惚れてるし、歌いながら背中から抱きついたりしてて、俺の胸の中がモヤモヤし始めた。

曲が終わる頃には神田の目がハートになっちまってるし、マジか???


「はぁ〜〜喉渇いちゃった・・・・・私、ビール欲しいなぁ〜」
「注文します!」

神田が部屋の電話に飛びついて注文してるし、他の男も色めき立ってるし・・・・・・なんだよ、面白くねぇーなー。


届いたビールのジョッキを一気に半分まで飲んだアイツが、ふらりと部屋を出てった。

どこ行くのか聞いた神田の耳に、唇を寄せて何事か囁いてから・・・・・・



トイレから出たら柳川くんが、居た。

「・・・・・・・どういうつもりだよ」
「なぁ〜にが?」

「俺から神田に乗り換えるつもりか?」
「そうね、それもいいわね〜・・・・・」

なんか、もう・・・・・・どうでもいい・・・・・

どうせ愛されてないんだから、利用されてただけの賄いのオバちゃんなんだから、どうなろうと何だろうと関係ないでしょ?

「・・・・・・私達、終わりでしょ? 返してくれるかな?」

私が手を差し出したら柳川くん、キョトンとしてるけど・・・・・返してよ、部屋の合鍵!

「あ? 今持ってねぇーし」
「ブーー! はい、嘘! いつも財布に入れてるでしょ? 出しなさいよ」

「今日は入ってないんですぅ〜」
見え見えの嘘なんかついて、なに? まだ利用したりないの? 残念でした、もう私は柳川くんとは終わってますから!

「なんだよ終わりって・・・・・まだ終わってねぇーし!」
「ガキか! ああーー、もういい! ドアの鍵ごと替えるから、いい!!!」

イライラした私がそう言えば、彼の顔がこわばった。。。



嘘だろ? 合鍵を返せばお前との繋がりが切れるから、スッと呆けたフリしてたら焦れたアイツが、鍵ごと替えるとか言いだした。

「本気か? なあ、謝っからさ・・・・・へそ曲げるなよ、な?」
「・・・・・・・・謝る? 何を謝るの?」

「ナンパしたこと? エリカちゃんとキスしたこと? 私のこと賄いのオバちゃんって呼んでたこと? 」
「おい・・・・・」

「ご飯食べさせてくれて、目をつぶればヤレて、溜まった性欲の処理ができる都合の良い女を、手放すのが惜しい?」
「・・・・・・・」

「黙ってるなんて、その通りだって言ってるものね・・・・・・」
「違う・・・・」

違う! 俺はお前を都合が良いなんて思ってねぇーよ!

「神田くんと私がヤッたら、柳川くん・・・・・どう思う?」
「お前・・・・・」

暗い瞳が俺を見つめてる・・・・・・その目に涙をいっぱい溜めてるお前に、俺は、このとき初めてお前の心を傷つけて、血を流していることに気づいたんだ。

「おい・・・・ お前・・・・・いつからだっけ? 柳川くん私の名前を呼ばなくなったね」
「あ・・・・・」

そうだ、この頃お前の名前、呼んでねぇーや。

週末はお前の部屋で一緒に過ごす、それがすごく馴染んでてさ・・・・・
空気みたいにお前と一緒にいるのが自然でさ、ついついお前とか、おいとか呼んじまってたんだ。

でもさ、それだけ側にいることが自然で、当たり前なんだよ!

飯もお前の作るのが美味くて、帰ってから寮の飯が味気なくて参ってんだぜ、俺?
できればさ、俺・・・・・・お前と暮らしたいって思ってたんだ。

今日もほんとはさ、ナンパじゃなくて不動産屋回って良い物件探そうと思ってたんだ。

それを出がけに班長の鹿内さんに捕まって・・・・・・・無理やり参加させられたんだって!

・・・・・・・そりゃ、エリカちゃんからグイグイこられてキスしちまったけど、これは向こうのが悪いっしょ?

下心満載で、相手してたのは俺が悪いんだけどさ・・・・・・・


「賄いのオバちゃんは、名前で呼んでもらえないんだ」
「まり・・・・・ごめん、ほんとごめん! もうナンパしねぇーし、他の女と遊ばねぇーし、許してくれよ!」

「・・・・・・・・今さら遅いよ」
「え? いやっ、ほんとマジで悪いって思ってっから! もう二度としない! ちゃんと名前で呼ぶ! なあ、本気で謝るからだから・・・・・」

焦った俺が必死で言ってっけどアイツは、暗い目をしたまんま笑うんだ・・・・・涙を浮かべながら、笑うんだ。


「くすくす・・・・・可笑しいね、賄いのオバちゃんなんかもう要らないでしょう? それなのに焦って言い訳して・・・・・」
「・・・・・・おい、お前 大丈夫か?」

「エリカちゃんとお幸せに〜〜・・・ 私と違ってテクニシャンだから、柳川くんの気にいるんじゃない?」
「だから、別れねぇーって言ってんだろ!」

「・・・・・・・・さよなら」

気がつけばさ、くるりと背中向けて去っていくアイツを、黙って見送っちまった。




「リカちゃん、帰るわ・・・・・・これ、私の分ね」
「まだ来たばっかりじゃないですか」

「ごめんね・・・・・・じゃ」

私はリカちゃんにお金を渡してその部屋をでたの。

「え〜〜帰っちゃうんですか? これからでしょ〜〜」
「ごめんね、若い子で楽しんで! じゃね〜」

神田くんに引き止められたけど、彼が来ないうちに出ようと思う私は、さっさと帰るの。

さて、失恋を癒せる場所ってどこだろうかね〜?

私はカラオケからぷらぷら歩きながら、雑踏の中から静かな所へ行きたいと思ってホテルへと足を向けたの。

柳川くんと付き合ってから行かなくなったんだけど、前はよくリフレッシュするためにホテルに1泊とかしてたんだ〜

一人暮らしの部屋に帰るより、頑張った自分へのご褒美に月に1、2回利用していた馴染みのホテルに部屋をとって、上の展望が素晴らしいバーに行く。


「お久しぶりです」
「いつものお願いします」

カウンターに座って、馴染みのバーテンさんに作ってもらうカクテルを飲んで、ほぅ・・・と息を吐いた。

久しぶりに窓からの眺めが見たくて、カウンターから1人掛けの席へと移動した私は、ここ数ヶ月の間のことを思い出してた。


・・・・・・ 空に星は見えないけれど、ビルの灯りや、車のテールランプが流れていく様子が宝石みたいで好きなんだ。

ゆっくりと何も考えずに眺めていたら、隣のテーブルに誰かが来たみたい・・・


「翠さん、きっれいだねぇ〜〜・・・・こんなバーに僕はじめて来たよ」
「しっ! 静かに 青山ちゃん、ここは大人の場所なんだから静かにする!」
「へぇーい・・・・でも、キレイだね〜〜 」

くすっ・・・・・そうだよね、私も初めてきた時は夜景の美しさにはしゃいだっけ・・・・・隣の男の子の声が微笑ましくて、私は黙って聞いてたの。

やがて注文を聞きにきたボーイさんに、セクシーなワンピースを着た美人さんが答えてるのも、ぼーっと聞いてたんだ。

「青山ちゃんはノンアルコールのカクテルね♡ ん〜私はぁ・・・・・あ、それ美味しそう」
セクシーなワンピースを着た美人さんが「それ」と言ったのは、私が飲んでるカクテルを指差していた。

「色が綺麗だから、飲んでみいたいわ。 あの! それってどんな味ですか?」

私が飲んでるのはバーテンさんのオリジナルで、透明な蒼さがキレイなの。

「柑橘系の香りと味で、飲みやすいですよ・・・」
「柑橘系なんだ・・・・・うふ、楽しみぃ〜〜、ありがとうございます」

ペコッと会釈して私はまた、夜景を眺めていたの。


「綺麗な人だね〜〜 OLさんかしら・・・ 」
「落ち着いたスーツ姿を見れば歳の頃は20代半ばから後半、スーツも安物じゃないあたり仕事がデキル女って感じかな!」

「今夜は自分へのご褒美にホテルでリフレッシュってとこかな」
「・・・・・・・リフレッシュねぇ〜〜」

この2人は警視庁のSTの青山と結城、今夜は夜景のきれいなバーで大人な雰囲気を青山が知りたいと来たのだが。。。

翠が艶やかな黒髪を指で梳きながら、自慢の “ 千里耳 ” を傾けている。

嘘発見器と称される翠の耳が、彼女の何かを感知したのかもしれない。


「黒崎くんが来たら、匂いで分かるかな?」
「あ、噂をすれば・・・・・来たよ、黒崎さん」

2人の視線の先には、全身黒づくめの男性が入ってくる所だった。






俺がそのバーに足を踏み入れたとき、客は殆んど居なくて、すぐに青山と翠さんを見つけられた。

その隣のテーブルに1人で夜景を見ている人に俺は、見覚えがあった。

俺がよく行く公園で、あるとき子供が迷子になっていたんだ。

不安で泣きじゃくる幼い子供に、その人はしゃがんで目線を同じにして微笑んでいた。

「こんにちは!」
「ひっく・・・・こん・・・ちは・・・」
しゃくり上げながらも答えた子供に、「ちゃんと挨拶できるんだ、偉いね〜」と褒めていた。

子供と話をしていると探していた母親が駆け寄って来て、子供は無事に親の元へと戻ったんだが・・・・・・

母親が来るまでの10分近くの時間をその人は、カバンから出した小さなヌイグルミを使って子供に話しかけ泣き止ませ、涙や鼻水まみれの子供の顔を白いハンカチで丁寧に拭いたりしていたんだ。


泣いている子供を気にかけてはいても、通り過ぎる通行人がほとんどのなか立ち止まったのはその人だけだった。

笑顔になった子供が手を振るのに、振り返してる彼女の笑顔が・・・・・・・心に沁みて、優しい人なんだと、俺は記憶に残ったんだ。


それから何度もその公園に行ったが、彼女を見かけられなかった。。。

彼女を気にしつつ青山達のテーブルに向かった俺を、窓からこっち向いた彼女が俺を見たんだ。



「・・・・・・・」
口元がわずかに動いた彼女から、緊張したときに出るアドレナリンの匂いがした。

「・・・・・・・」
まだ何かを呟いているが、結城を見れば彼女を見つめている。

俺はそのまま結城の隣に座ったんだが、彼女は何かに気がつくようにハッとした顔をしていた。


「黒崎くん、彼女と知り合い? 君、リュウイチくんって名前だっけ?」
そんな結城の問いかけに俺は、首を振る・・・ 俺は彼女を見かけたことがあるが、彼女は俺の事など全く知らないだろう。

「リュウイチくん? なにそれ? 」
「彼女ね、黒崎くんを見て『リュウイチくん・・・』って呟いてたの」

「彼女の心拍も急激に上がってるし、あの驚きかた尋常じゃないわよ」
「僕が思うに、彼女・・・恋人と別れたばかりだね。そしてその恋人は黒崎さんと瓜二つ! だから黒崎さんを見て驚いたんだ」

「ああ! だから彼女『もしかして追いかけてきてくれたの?』って言ってたのね」
「そ! しかも別れたのも今日だと思うよ! 別れた原因はズバリ!男の浮気だね!」


くん・・・・・・・涙の匂いがする。

夜景を見ている彼女の横顔に、照明で光るものが流れていく。

拭うこともせず、呆然と夜景を見ながら泣いている彼女は、ひどく傷ついている。


どうして・・・・・ あんな優しい人を、どうして傷つけられるんだ。


かすかに動く口元に、結城を見れば頷いた。
自慢の耳で彼女の言葉が、聞こえているんだろう。

「彼女ね、会社の後輩と女子会するはずが仕事で遅れたみたいなの・・・・」
「どんな仕事してんだろうねぇ〜〜・・・・あのお堅い感じは法律事務所とか、社会保険事務所とか、会計事務所とか?」

「それでね、先に始めた後輩達のところに行けば、ナンパされて盛り上がってる最中で・・・・・その中に恋人がいたの」
「あちゃ〜〜〜」

「もう、茶々いれないの! そのとき彼女、彼が自分のこと陰で・・・『賄いのオバさん』って呼んでる事を知ったの」
「なにそれ、なんだよそれ! 酷すぎるよ!」

「『私の方が年上だし、リュウイチくんから見ればオバさんだよね・・・・・』こんな哀しい声、私まで哀しくなるわ」



・・・・・・・・・許せない!!!

俺の頭は怒りでいっぱいになった。

あんな優しい人を恋人にしながら、ナンパで浮気し しかも賄いのオバさんだなどと!

俺は立ち上がって彼女の前に立った。


「・・・・・・???」

涙に濡れた瞳で俺を見上げる彼女は、ずいぶんと幼く見える。

俺は彼女の前に膝間づいて、濡れてる頬を手で拭ったんだ。

「あの?」

「・・・・・・・黒崎 勇治」
「黒崎さん・・・ですか」

「・・・・・・・泣かないで」

え?って顔してる彼女の手を握って、彼女のこと見上げてる俺は、滑稽なほど必死だった。

この優しい人に、あんな哀しい涙を流させたくなくて・・・・・・

「・・・・・・・泣かないで」

必死に見上げる俺に、彼女は最初キョトンとしててそして・・・・・・・

「黒崎さんは、優しい方なんですね」
そう言って、ふんわりと微笑んでくれたんだ。


・・・・・・あの日より近くで彼女の微笑みを見た俺は、決めたんだ。

彼女が笑顔になれるように、俺は何でもするって・・・・・・・



「ねぇ、一緒に飲みません? 」
「僕らと飲もうよ! っていっても僕はノンアルコールだけどねぇ〜〜」

結城と青山がすでに自分のグラスを持って彼女のテーブルについていた。

相変わらずの強引さだが、彼女は笑っていた。

涙をぬぐって、まだぎこちなく笑っている彼女を見て、俺も隣に座ったんだ。


その後、部屋を取ってあるという彼女に結城と青山が「部屋で飲もう!」と騒ぎ出すのを止められない俺は、少し情けないと反省したんだ。






STのメンバーが乱入です。

もしかして黒崎さん落ちになるかも?なお話ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

次回は柳川くん、お仕置きされる?の巻き(笑)

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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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