⑨月に照らされ、陽に焦がれ……【序章スンマン編】

今のところスンマンが主人公みたいですが【序章】です。
※※※※※

「スンマン公主様がお着きです」内侍の呼び声が高らかに響いた中、しずしずと歩いてきたスンマンがいた。

さらさらと衣擦れの音がする公主服に身を包み、髪も結い上げ金の飾りもついていた。

化粧を施し静かに……なよやかに歩くスンマンを臣下達が驚嘆の目で見ている。

背は誰より高いが、その蒼い月のような美貌に、咲き誇る牡丹のような笑顔。

臣下達が惚けたように見ていた。

「陛下、お久しぶりでございます。中原より戻りましたスンマンです」玲瓏とした声が便殿に響き……誰かの感嘆の溜め息がもれた。

「スンマン、遠い所からよく無事に戻ってきた。おおそうだ、初めて会うだろう……私の娘のトンマンだ。チョンミョンの妹だ」

「スンマン殿、貴女の従姉妹のトンマンです。」
「トンマン公主様、初めましてスンマンです」

二人……見つめあった瞳が笑っていた。
ふふっ……
くふっ……

二人にしか分からない笑いだった。

便殿での挨拶が終わり、トンマンがスンマンと連れだって歩いていく。

外で待っていたアルチョンが、きょろきょろと視線を迷わした。

……公主様だけか…スンマンは間に合わなかったのか?
それにしても、公主様の後ろにいる姫は誰だろう……口元を袖で隠しておられるが、美貌の姫だな。

「どうされたアルチョン殿」
「スンマン殿は間に合わなかったのですか?」

……トンマンとスンマンが顔を見合わせ、堪えきれずに吹き出した。

口元を袖で隠した美貌の姫が、スンマンその人と分かったとき………アルチョンの口が、ぽかんと開いた。

「これは……よく化けたものだ」
「ふふっ……」紅い唇が弧を描き、瞳が笑っていた。

「窮屈だから早く脱ぎたいのだがな」その口調がスンマンだった。

「夜には宴があるから、まだ脱げないぞ」笑いながら言うトンマンの言葉にスンマンが頭を抱えた。

「この格好をしてるくらいなら、もう一度比才に出た方がまだましだ」ぷらぷらと袖を揺らして言う様は、確かにスンマンだった。

「とにかく話しは宮に帰ってからにしよう」トンマンが締めた。
「はい、公主様」
「姉上のおっしゃる通りに……」

だが、トンマン達が宮に帰るまで容易ではなかった。

スンマンの美貌が引き寄せた臣下達が、数々待ち受けていて……相手をしていたら時間がかかって仕方なかった。

「姉上……先に行ってください。これでは時間がかかって仕方ない」スンマンが溜め息を付きながら言った。

「スンマン一人に出来ないぞ」
「私なら大丈夫です」
「スンマンの大丈夫はあてにならん」トンマンが言い切り、後ろに控えているアルチョンに命じた。

「アルチョン殿、スンマンと宮へ来てください」
「姉上……ですがアルチョン殿は姉上の護衛花朗です」
「私は先に行きます」すたすたと歩き出したトンマンと侍女達が、さっさと先に行ってしまった。

「ふふっ……姉上」
「スンマン公主、行きましょう」

歩き出しては臣下が挨拶という名目で、スンマンの美貌を近くで見たがっていた。

中には自分の家に招待して、息子を会わせようとしつこく食い下がる者もいたが、アルチョンが壁の様に立ちはだかり半分は撃退できた。

それでも数が多い。
「うんざりだ……」
「そう おっしゃらずに行きましょう」
「……アルチョン殿、服を交換しませんか?」
「な……何をおっしゃるのですか!公主ともあろう方が」

「意外に似合うかもしれませんよ」
真顔で自分を見るスンマンに怒りだしたアルチョンだった。
「似合うわけないだろう!何を言うのだ!」
「そうかな?」
「まぁ、そんな酷くはないだろうが」
「ふふっ……自信あるのではないか」愉しげなスンマンだった。

アルチョンが何か言おうとしたとき……
「はぁ~はっはっはっ 麗しいスンマン公主様。ご挨拶いたします……ミセンと申します」
扇を手にミセンが近づいてきた。

「ふふっ……初めましてでしょうか……久方ぶりと言いましょうか」スンマンの前にアルチョンが出て、背に庇うように立った。

「スンマン公主様には、すっかり騙されてしまいました」それには構わず話し始めるミセンも、面の皮が厚い。

「ふふっ……」
愉しそうに笑うスンマンにミセンは吸い込まれそうになり、扇を振った。

「ええ……てっきり男性だと思ってましたが、まさかこんなに美しい姫だとは……私を騙すなど随分な方です」はぁ~はっはっはっと笑うミセンだが目は笑っていなかった。

「……あの時、ポジョンに代わり私がお世話したかったですよ」
「……ポジョンは?」スンマンが微笑みと共に聞くと、ミセンが扇で口元を隠しながら近づき小さく言った。

「……ミシル宮主から罰を受けています」
「どんな?」
「何でも…命より大事な物を砕いてこいと言われ、徐羅伐から遊山へ行かされました。」
「……死んではいないのだな」安堵の声で呟くスンマンをアルチョンが怪訝そうに見た。


「甥にとっては死ぬより辛いでしょうがね……」ミセンもこの時ばかりは叔父として、不憫に思う甥のことを思い出していた。

「……ところで、スンマン公主様。我が家へぜひ一度、遊びに来てください」

「機会があれば」にこやかにかわして歩き出したスンマンだった。

「ポジョンと……何かあったんですか?」
「……急ぎましょう、姉上をお待たせするのは申し訳ない」
アルチョンの問いに答えずに足早に歩くスンマンを追った。

……何かあったのだな、ポジョンと!

※※※

「お前、女だったんだな~」ピダムがまじまじとスンマンを、上から下まで見て面白そうに言った。
「ピダムはさっきから其ればかりだな」トンマンが呆れて笑う。

「ところで、ミシルの宮で何があったのです」ユシンが畏れながらと聞き始めた。

「今の王室で聖骨は姉上と私だけだ」スンマンは話し始めた。

「ミシルにとって姉上は脅威になりつつある……ならば、もう一人の聖骨の私を手に入れたかったのだろう」スンマンの玲瓏と通る声が冷静に事情を説明していく。

トンマンにユシンにアルチョンが、ピダムさえ茶々も入れずに聞き入っていた。
「……大元神統の、王に【色】を提供してきた一族の秘薬を使い、私を犯し色の虜にし……操り人形にしたかったのだ」

さらりと言っているが、スンマンの話す内容は皆には信じられない事ばかりだった。

「無事に戻ってこれたのは何故だ?協力者とは誰だ?」好奇心の塊のトンマンがスンマンをせっつく。

「ポジョンが……母親のミシルの命に背き、私を守った」
「なぜだ?」ピダムが真剣な顔で聞いた。

……ミシルの息子が裏切るなどありえない……

「私に魅せられたと言っていた……その心を汚したくなかったと……ミシルから死を命じられることも覚悟でな」

軽く溜め息のように息を吐いたスンマンが、虚空を見上げている。
「私の心も望まずに……」

話しは終わったと、立ち上がったスンマンはトンマンに、自分の宮に行くと言い部屋を出ていった。

「ピダム、スンマンを」トンマンが言うと、ピダムが飛び出ていった。

「男と女とは不思議なものなのだな……」トンマンがぽつりと言った。


外に出たスンマンは、立ち止まり空を見ていた。

「なに見てんだ?」
「ふふっ……」笑うだけで答えないスンマンに、ピダムも空を見た。

「いい天気だなぁ~」
「ピダム……私が着替えたら付き合え」
「なんだ?」
「体が鈍ってな……稽古に付き合ってくれ」
「ああ……」

※※※

練武場に現れたピダムとスンマンが木刀で稽古を始めた。
もちろんスンマンは動きやすい男装だった。


「ピダムだ!この前の比才の時の男と一緒だぞ」
ちょうど郎徒の訓練をしていた護国仙徒のイムジョンが二人の立ち合いに見入っていた。


「はぁ!」
「やっ!」
気合いも激しく、木刀が折れそうなほどの打ち合いだ。

二人が高く飛びあい、空中でぶつかる木刀の音が辺りに響く。

「……くっ」ピダムの木刀を受けたスンマンが、態勢を崩して膝をついた。

「スンマン悪い! つい夢中になって……お前、まだ治ってないんだよな」飛んできたピダムが謝った。

「ふふっ……これくらい平気だ……てやっ!」
「あ!騙したな……はぁっ!」

二人の剣士の稽古……というには凄まじすぎる立ち合いに惹かれるように、花朗達が集まってきた。

其処にユシンとアルチョンも通りがかった。

練武場の人だかりが気になり見ると、先程までの美貌の公主から一人の剣士に戻ったスンマンを見つけた。

「ピダムも凄いがスンマン公主も凄いな」
「ああ!あの二人、互角だ」
「……いや、やはり女性だ、体力が違う。押されている」
ユシンとアルチョンが、しきりに感心しながら見ている。

「う~む、私も手合わせしたいな」アルチョンが唸った。

「私もだ!」ユシンも血が騒ぐのか二人を見ながら笑っている。


「はぁ……ピダムは強いな」
「お前こそ女とは思えないよ。」
「残念ながら体力ではピダムには叶わないな……ふふっ、剣では負けないが」

「言ったな!剣だって俺が勝ってるさ!」

「得物を変えてもう一度やるか?」
「いいぞ」

二人がまたぞろ始めようとしたとき、声がかかった……

「私も手合わせお願いしたい」護国仙徒のイムジョンが思い切って話しかけた。

護国仙徒とは、国仙ムンノ公が作った花朗だが、ピダムがムンノ公の弟子と認められ花朗となってからイムジョンは複雑な気持だった。

最初はボロボロな服で現れたピダムを……正直、敬愛するムンノ公の弟子とは認められなかった。

だが、この前の比才を見てからイムジョンの何かが変わった。

あれだけの力量を見せられたら、花朗として武道を歩む者として、憧れさえ抱くようになったイムジョンだった。

他の花朗達も同じだった。

国仙ムンノ公が唯一認めた弟子……その意味が先の比才でのピダムの実力で、嫌と言うほどわかった。

「手合わせをお願いします」
イムジョンが重ねて言うと後ろで見ていた他の花朗達も声をあげた。

「どうする?スンマン」ピダムが聞くと、つ……とスンマンがイムジョンの前に出た。

「今は構わないでくれないか……」にこやかに話してはいるが、スンマンの迫力にイムジョンは怯んだ。

「ピダムと二人、思う存分楽しみたいのだがな……」
「で……ですが、お二人に今度いつ会えるか分かりません」
「ふふっ……」スンマンがピダムの肩を組んでイムジョンに向き直る。

「ピダム、どうする? お前の好きにしていいぞ」
「俺か?」ぽりぽりと頭を掻いてピダムがスンマンを見た。

「俺は……続きがしたいな~」
「ふふっ……という事だ。今度にしてくれ」
「ですが!!」食い下がるイムジョンだった。

後ろで見ていた花朗達も騒ぎだした。
「そんなに言ってるんだ稽古をつけてやってもいいだろう」
「花朗は貴族だ!貴族がピダムとお前のような輩にわざわざ頼んでいるのだぞ」
「そうだ どこの馬の骨かわからん奴等が! 有り難く思えど、断るとは言語道断だ」
「この前の比才で見直してやったから、イムジョンも頼んでいるのだ!」
「そうでなければお前等など!」


「ユシン!話が妙なところにいってるぞ」
「ああ……何とかしよう」

口々に罵り始めた花朗達を風月主として恫喝しようとした、その時……

「くっくっくっ……はっはっはっ」突然笑いだしたスンマンの瞳がまた変わっていた。

蒼い焔が立ち昇るスンマンの瞳が、口々に罵っていた花朗達を一人、また一人と見回した。

その気迫に圧されて花朗達は押し黙った。

「ふふっ……くだらない事を喚く輩にピダムは貸せぬな」

「おいスンマン、稽古はこれくらいにしよう……肩を診てやる」
「ああ……わかった」

二人、何事も無かったように去っていった。

「あの気迫……なんという」
「トンマン公主様も得難い方を味方にできたようだ」

スンマンの気迫に圧された花朗達が、その場を動けないまま立ち続けていた……
※※※※※
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私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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