「おはようございます」
「・・・・・」
今日は黒崎さんがラボに一番のりなんだぁ〜・・・とは言っても、ほぼ毎日私か黒崎さんかで一番のりなんだよね。
うふふ、黒崎さんが挨拶の会釈を返してくれました!
あ、黒崎さんはね先端恐怖症をこじらせてしまって、人の言葉の中にある棘まで感じちゃうから話さないんです。
でもこうやってジェスチャーで表現して下さるから、私は問題ないと思うのですが・・・
申し遅れました、私は藤代・透子(ふじしろ・とおこ)と申します。
この科学捜査班を統括されている、百合根警部の補佐をしております。
個性の強い方々をなんとか纏めようとしている百合根先輩のお手伝いができるので、私、張り切っています!
百合根警部は警察に入ってから色々と教えて下さった先輩なんです!
池田管理官も、同じように教えて下さって・・・・私、勉強は得意なんですが、動作が鈍くさくて・・・・・
何とか1人前になれたのも、お二人のおかげなんです!
さ、コーヒーを淹れておこうかな?
皆さん、もう少しで来られるだろうし!
ふんふん♫ 鼻歌を歌いながらコーヒーメーカーに用意して、コーヒーができる間に机を拭いておこうと布巾を濡らしたんです。
給湯室から布巾を持ってきて、入り口側の黒崎さんを見れば、書類を見ながらダンベルでトレーニングされてます。
「拭いてもよろしいですか?」
「・・・・・(こくん)」
邪魔にならないよう書類を動かさず、空いたスペースを綺麗に拭いて、次へと進む。
翠さんの机、山吹さんの机、青山さんの机は・・・・触らない!
個人の机から、大きな会議用の机を拭いてまわり、一旦、布巾を洗って・・・・次は赤城さんのラボへと進む。
「うん、綺麗になった!」
私は布巾を洗って干して、ラボに戻って一息つこうとマイカップを棚から取り出した。
「黒崎さんもコーヒー、いかがですか?」
「・・・・・(拳に親指を立てて了承の意味)」
「どうぞ」
黒崎さんに差し出した淹れたてのコーヒーのいい香りに、黒崎さんがクンクンと嗅いでる。
「いい匂いですよね・・・私、淹れたてのコーヒーの匂いが好きなんです」
「・・・・・・(こくん)」
「黒崎さんもですか? うふふ・・・一緒ですね」
朝こうやって短い時間でも、黒崎さんと2人だけでお話ができるこの時間が好きで、毎朝早く来てるんです!
だって私、黒崎さんのことが・・・・・・好きなんです。
そして事件が起こった。
その事件を解決するために、ラボでは・・・・・・ホラーDVDを流しています。
百合根先輩が派手に叫んでますが、私もホラーは苦手で・・・・・私の場合、何も言えなくなるんです。
『きゃぁーーー』
テレビからの派手な女性の悲鳴に、ビクッと肩を跳ねさせて一歩後ろに下がる私。
「うわぁ!」
「おお〜、心霊現象だ!!!」
百合根先輩の叫びに、青山さんの喜びの雄叫びにもビビっちゃって横にいた翠さんの腕に縋りついてしまいました。
「透子、怖いの? こんなに震えて・・・・・可愛い〜〜〜」
「みどっ、翠さん、ごめ、ごめん・・・なさい」
「いいのよ、私でよければ・・・・可愛い透子なら歓迎するわよ♡」
「翠さん・・・・あぐあぐ・・・・」
私はもう怖くて目に涙が盛り上がってしまって、こんな情けない姿、見せたくないんですけど・・・・
「やだっ、透子・・・泣いてるの? そんなに怖いの?」
「ふぇ・・・・すみません」
「くだらない、こんなもので泣くほど怖がるなんて、藤代は単純バカだな!」
「だって、怖いものは怖いんです・・・・・」
赤城さんの毒舌を感じるよりまた、画面からの女性の悲鳴にビクッとなった私は目の前に居た赤城さんの腕にしがみついてしまった。
「おい! 離せ! おい!」
「・・・・・・・ごめっ、ごめんなさいっ!」
「・・・・・・そんなに怖いのか」
「・・・・・・すみません」
目をつぶり、腕にしがみついている私を、赤城さんは振りほどきもせずそのままにさせてくれた。
「そんな怖いならどうしてここに居るんだ、見ないでさっさと逃げればいいだろう!」
「それは無理ね、透子が気がついた時にはもう始まってたから・・・」
「気がつかず見てしまい、動けなくなったのか・・・・・バカが!」
「すみっ、すみません! 私、怖いと動けなくなって・・・・・ひぇっ!」
『きゃぁーーー』
「ぎゃぁ〜〜〜」
「うおおおお〜〜〜」
テレビからの派手な女性の悲鳴と、百合根先輩の叫びに、青山さんの喜びの雄叫びがまた上がって、私は身体が跳ねるほどで。
「もう、無理ですぅぅ〜〜〜」
耳を塞いでその場でしゃがみ込んでしまう。
なんとかここから出なきゃ・・・・・出なきゃ・・・・・でも、足が動かない・・・・・・どうしよう。
半年前、俺の所属するSTに1人の女性が来た。
キャップの補佐役として事件に必要な情報を纏めたり、報告書を作成したりと事務仕事を進んでしてくれる。
それをキャップは手放しで喜んでいるが、他のメンバーと言えば・・・・・・
まずSTの女性陣2人、青山と結城は藤代さんの愛嬌のある可愛らしい見た目を見た瞬間。。。
「「きゃぁーーー、可愛い〜〜〜」」
「ね、僕さ青山っていうんだ、よろしく」
「よろしくお願いします」
ぴょこんと、頭を下げた彼女は緊張しているのかアドレナリンの匂いがするが、部屋に入ってきた時から香る彼女自身の体臭は、甘く爽やかで好ましいものだ。
「透子ちゃんね、私は翠♡ よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
また同じように、ぴょこんと頭を下げる彼女は2人に笑顔を見せた。
・・・・・・・・その明るく、透明感のある笑顔に、見惚れた。
そのまま女性陣はキャイキャイ盛り上がり、すぐに仲良くなったみたいだ。
クン・・・・・ 彼女から緊張の匂いがしなくなった。
香るのは、甘く爽やかな・・・・・・・いい匂い。
ずっと嗅いでいたくなる様な、好ましい匂い。
それから同僚として働き始めてから、気がついた事がある。
大抵、朝が早いのは俺なんだが・・・ 彼女がすでに来ていることが多かった。
そして、机の上が湿った様な匂い・・・・・・気がつけばラボの隅々から埃臭さが、無くなっていた。
だが乱雑さは変わらない・・・・・
秩序恐怖症の青山が、整理整頓された空間では息も吸えなくなるほどなのを知っているのか、掃除をしたうえで書類や本など乱雑なままにしているのか。
もちろん俺達の机は拭いても、青山の机には触っていないみたいだ。
そしてコーヒーメーカーには、いつもコーヒーが淹れられている。
少なくなれば、すっとさりげなく作ってくれる・・・・・気遣いのできる人だ。
そういえば青山が徹夜した朝には、彼女がすきなドーナツを買ってきて差し入れしていたな。
「サンキュー透子!」
「コーヒーいれようか、翔ちゃん」
「お願い! くぅ〜・・・透子、最高!」
「うふふ、褒めてもドーナツ以外出てこないよ!」
・・・・・・まるで恋人同士のような会話だな。
そう思ったときに、胸にツキリと痛みが走る。
思わず胸に手をやっていると、青山にコーヒーとドーナツを持っていった藤代が、俺の机にもマグカップを置いてくれた。
「コーヒーどうぞ、あ・・・黒崎さんもドーナツ食べますか?」
俺を見上げる彼女が、俺の好きな透明感のある笑顔で目の前に立つと、胸の痛みが・・・・・引いた。
コクン、1つ頷けば青山に渡したのと別の箱を出して中を開いて見せてくれた。
「お好きなの選んでください」
箱を開いて俺に見せてくれる彼女は、笑顔で・・・・・・ドーナツより、彼女の柔らかそうな唇が欲しい、そう思った。
肩につくすれすれの長さの髪は柔らかそうなカールが揺れて、俺を見上げるクリクリとした瞳も、長い睫毛も、ピンクの頬も、全てが愛らしい人だ。
全てが、柔らかで・・・・・・俺は、差し出した指をドーナツではなく、彼女の頬に当てた。
「あの? くろっ、黒崎さん?」
きょときょとと、戸惑う彼女が・・・・・愛おしい。
「私のほっぺより、ドーナツの方が美味しいですよ?」
真っ赤になった彼女も可愛らしく、その赤くなった頬は俺がさせてるんだと、独占欲も満足していく。
名残惜しいが彼女の頬から外した手で、ドーナツを1ついただいた。
ドーナツより、彼女の頬の方が、柔らかいな・・・・・・そう思いながら齧りついた。
それからすぐに、事件の捜査のためにラボでDVDを流した。
ホラーと知らなかった彼女が、気がついて画面を見て・・・・・・・蒼白に固まってしまう。
1番前の青山とキャップが騒ぐのを煩く思っていたが、彼女はビクッと身体を跳ねさせ恐る恐る画面を見て、隣の結城の腕に縋りついている。
「やだ透子、泣いてるの?」
その言葉に結城の隣の彼女を覗き込めば、確かに大きな瞳に涙が盛り上がっている。
・・・・・・・・可愛い。
その彼女に赤城さんがいつもの様に構っているが、事態が急変したのはすぐだった。
好意を持つ彼女が、あろうことか他の男の腕にしがみついている光景に、俺は目を見開いた。
しかもぎゅうぎゅうと、赤城さんの腕に身体中でしがみついている・・・・・とうぜん彼女の胸も赤城さんの腕に押し付けるように見てとれる。
その瞬間、俺の胸の中にドス黒いものが湧き上がる。
「もう、無理です〜〜〜」
そう言ってその場にしゃがみ込んだ彼女を、俺は放ってはおけない。
しゃがみ込んだまま動けない私は、耳を塞いでDVDが止まるのを待っていたんだけど。
《 ふわ・・・ 》
「え?」
浮遊感を感じた私が顔を上げれば、近すぎる黒崎さんの端整な顔があった。
「え? ええ?」
私は黒崎さんに抱き上げられていて、お、お、お姫様抱っこされてます。
そのままスタスタと黒崎さんに運ばれて、私はラボの外へと連れ出してもらえたんです。
自販機の並ぶ休憩スペースまでお姫様抱っこで運ばれた私は、そっとソファーに座らされた。
《 ガコン! 》
ホラーDVDのショックより、大好きな黒崎さんにお姫様抱っこされて舞い上がる方が強くて。
超、至近距離での黒崎さんの横顔、ふわりと香る黒崎さんの匂い、逞ましい腕の感触、もう、真っ赤になるなって方が無理じゃないですか!
少しでも顔色を戻そうと頬に手を当ててると、その手の甲に冷たい感触が。。。
「ひゃっ! ・・・・・・あ、お茶」
冷たいお茶のペットボトルを受け取ると、私の横に黒崎さんが座ってクイっと手を上げるのは、お茶を飲めってことかな?
「いただきます」
「・・・・・(こくん)」
はぁ〜・・・冷たいお茶が、ホッとする・・・・・・
「さっきは、ありがとうございました。 怖くて動けなくなってしまって・・・・黒崎さん、先に戻っていただいても大丈・・・」
「・・・・・ここに、いる」
いつも山吹さんにする様に、顔を傾げて耳元で囁かれた私は、初めて黒崎さんの声を聞いたの。
低くても通る素敵な声だなぁ〜・・・
何も言えなくなって、近すぎる距離のままの黒崎さんの顔を見つめて惚けてしまう・・・・・・
鋭い眼差しも、端整な顔も、そして誰よりも優しいあなたが私は・・・・・・大好きです。
大量の書類をもって廊下を歩いていたら、さり気なく持ってくれるあなた。
捜査で街で聞き込みをしている時も、車道側を歩く黒崎さん。
そして今も、ペットボトルを持つ私の手が・・・震えていたからですよね?
「あの・・・重かったでしょう? さっき・・・」
「・・・・・(ふるふると横に首を振る)」
「黒崎さん、優しいから・・・・あ、そうだ今度、お礼にお昼ご馳走します! 一緒に食べませんか?」
「・・・・・(こくん)」
やったぁー! お昼に誘えた! しかも頷いてくれた〜〜!!!
うふふ・・・怖かったけど、終わりよければ全て良しだよね。
ウキウキしている私の後ろから、急に《 ガタタン!!! 》って音がして、私はビックリして。
「きゃぁ〜〜・・・」
横にいた黒崎さんに、抱きついてしまったんです。
「大丈夫だ」
ガタガタと震える私を、逞ましい腕がギュッと抱きしめてくれる。
そのまま膝裏に腕が入って、抱え上げられた私は、ストン!と黒崎さんの膝に横抱きで座ってて。
「俺が、いる」
抱きしめられてる・・・・・・・ああ、だんだん落ち着いてきた。
黒崎さんのそばにいるんだもん、何にも怖くない・・・・・・
「透子のこと、好き」
「え?」
私の名前・・・・・呼んでくれた?
「・・・・・・好き、透子」
私も、私も黒崎さんのことが好きです! そう言おうと顔を上げた私の唇に、ちゅっ☆って・・・・
「透子は? 俺のことどう思うの?」
「好きです・・・・・・大好きです!」
私は黒崎さんの首に腕を回して、抱きついたの。
「透子、好き・・・」
「私も、大好きです」
そうして私達は、お互いの想いを確かめ合う事ができたのです。
「上手くいったみたいね・・・透子と黒崎さん」
クスクス・・・・・耳の良い結城には2人の会話が聞こえ、微笑んでいた。
その顔をみた青山が察して、喜びの雄叫びをあげていた。
戻ってきた透子に、詳しく話してと青山が嬉々として迫っていくのは、もう少し後になるのだった。
このホラーDVDのエピソードは5話からのネタなのですが、これ以降のお話は恋人設定なので時系列バラバラです。
すみません。
怯えるヒロインを可愛いと思いつつ、他の男にしがみついてて嫉妬する黒崎さんが書きたくて。。。
感想いただけると嬉しいです!
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