⑤《飛んでけ、矢名家に!》by 吾輩は主婦である

今回は、ドラマのエピソードを私風に変えて書いていきます。
見た方も見てない方も、楽しんでいただけると嬉しいです。



「奥さん、奥さぁ〜ん!」
「はいはいはい!」
外からの呼び声に出ていけば、向かいのクリーニング屋の旦那さん=ヒロシさんが誰かを捕まえていた。

「不審者ですよ、間違いありません! お宅の前をウロウロして、中を伺ってました!!! 不審者ですよ!」
「落ち着いてヒロシさん!」
この人、本当に不審者なのかしら?

ヒロシさんに抱きつかれてるのは、恰幅のいいスーツ姿の初老の男性で・・・首には蝶ネクタイもつけてる。
岡田眞澄さん似の格好イイ紳士・・・・・なのよね。

「私は貴方のファンなんです! この前サイン会に行きましたが貴女に逢えずじまいでしたので、今日はこちらに来たのです」
「なんだ、ファンかよ! ・・・失礼しました」
ようやくヒロシさんが離れたけど、ファン? 私の? 何だかそんなんじゃない様な気がするんだけど。

「サインお願いできますか?」
「はい」
差し出された本は5冊・・・・・ええ? 5冊も買っていただけたの?

その本にサインをする時、相手の紳士が「小沢と入れて下さい」と言ってきた。

《小沢さんへ》と入れてサインをしたけど、なんか照れちゃうよな〜。

その紳士はすぐに帰ったんだけど・・・・・翌日、私のパート先の喫茶店ジャンバルジャンにも現れて。

アイスコーヒーを飲んで直ぐに帰った・・・・・・何がしたいんだろう?

「お釣りはいいから、取っておきなさい」
「でも2万円は多すぎます!」
「・・・・・・私に出来ることは、これぐらいだ・・・」
「???」

去っていく紳士の後ろ姿に、なぜか懐かしい感じがしたの・・・・・・・なんだろう、この感じ???



その日、私が帰る前に大慌てでタカシくんが帰ってきたそうです。
何でもイギリス大使館に勤務していた《陽子さん》のお父さんが、明日、15年ぶりに娘に会いにくると手紙が来たそうです。

「ただいまぁ〜・・・・・・・どうかしたの?」
お母さんもタカシくんも様子が可笑しいんだけど。

「ああっ! 陽子さんが陽子ちゃんになった事、知らないわよね! どうするのよ〜〜〜 」
「何の話ですか?」
お母さんとタカシくんが焦ってる横で、やすこさんが答えてくれたけど・・・・・

「明日、あんたのお父さんが明日来るって話・・・」
「お父さん?」
「陽子ちゃんのお父さんじゃなくて、前の陽子さんのお父さんの事よ!」

あ、そうか・・・私は別次元から来てるから父親とはもう会えないけど、《陽子さん》のお父さんは居るんだった!

「え? 明日? 明日お父さんが来るって? え?どうしよう? 私のこと知ったら、どうなるんだろう?」
意味が分かった私が、どうしよう!と焦ってタカシくんの隣に座り直した。

「明日1日、出かけてた方がいいかな?」
「でも父親は陽子に会いに来るんだろ? いない方が不味くない?」
やすこさんの言う通りだ・・・・・・じゃ、どうしよう!

「こうなったら、陽子のフリをするんだよ、陽子ちゃん!」
「陽子さんのフリ!? 出来るかな? でもそれしかないよね?」

DVDだと鈴木ヒロミツさんがお父さん役で出てたんだけどね、そのドラマのヒロインは《みどりさん》で、夏目漱石に乗り移られてっていうストーリーなんだ。

同じように会いに来るんだけど、その時のお父さん役は鈴木ヒロミツさん。
手紙が着くより前に《みどりさん》に会いに来てて・・・・っていう展開なんだけど。

あれ? もしかして・・・・・・今日の蝶ネクタイの人、もしかしたら・・・・・???

でも・・・・違ってたし、関係ないのかな?
岡田眞澄さん似の恰幅の良いダンディーな紳士だったなぁ〜・・・・ロマンスグレーっていうか、一緒にどこでも連れてってほしいほど。。。

でも、父親が娘に会いに来るって事で、タカシくんとお母さんがどうしてそんなに焦るんだろう?

「反対してたのよ、あんた達の結婚に! 昭一郎さんはね、東大出のエリートでさ、娘の結婚相手は最低でも医者か弁護士って言ってたのよ」
「僕らが付き合ってるって知った時も、2人を引き裂こうとして無理やり君を留学させようとしたんだ」

《陽子さん》はその時、留学よりタカシくんのプロポーズを選んで、学生結婚したんだ。
当然、怒ったお父さんが矢名家に乗り込んできて、タカシくんと陽子さんは2人で土下座したんだって。

「でも結局、昭一郎さんは怒ったまんまで、結婚式にも出てくれなかったわね〜」
「嫌われてるんだよ僕! ん? 僕以上に母さんが!!!」
「私だって嫌いよ! 外交官か知らないけど、偉そうなのよ!」

「もしバレたら、私・・・どうなるんだろう?」
「分からない・・・けど、黙ってはいないと思う」
「じゃあ、私・・・頑張って《陽子さん》に成り切るね! お父さんってどんな方なんですか? 教えて下さい!」
「うん、頑張ろうね・・・」

それから、お母さんとタカシくんから《陽子さん》のお父さんの事を教えてもらって、1つ残らず頭に叩き込んだの!

そして今度は《陽子さん》のこと! ・・・・・ 顔の表情、言葉遣い、それはもう色々と!
おかげで夜にはグッタリで・・・・・疲れきった私が布団の中で倒れてます。


「陽子ちゃん・・・今日は頑張ったね」
「タカシくん・・・・・ねぇ、もしバレたら私・・・・・イギリスに連れてかれちゃうのかな?」
「陽子ちゃん・・・」

一気に顔色が悪くなったタカシくんに、彼も同じ心配をしているって分かった。
私は布団の中から手を出して、タカシくんの手に重ねたの・・・・・

「タカシくん・・・こっち来て?」
「え? どうしたの、陽子ちゃん?」
「・・・・・・・怖いの。 もしタカシくんの側に居られなくなっちゃったらって考えたら、怖いの」
「・・・・・大丈夫だよ」

微笑んで私の布団に潜り込んできたタカシくんは、私をギュッと抱きしめてくれた・・・
私もタカシくんの背中に腕を回して、ギュッとくっついた・・・

「ずっと、ずっと・・・側に居させてね、タカシくん」
「ずっと・・・ ずぅ〜っと一緒だからね、陽子ちゃん」

ピッタリと抱き合った私達は、顔だけ離して見つめ合って・・・・・・やがてどちらからとなく、蕩ける様なキスをした・・・・・

キスの最中にタカシくんの手が、私のパジャマの中を触り始めて・・・・・・そのまま。。。

「陽子ちゃん・・・・・欲しい」
「タカシくん・・・・・私も」

クスクス・・・ ふふふっ・・・・2人、考える事が同じで小さく笑っちゃった。
そして、私達は・・・・・・仲良しになったんです。




そして今日は、お父さんが来るという日。
一夜漬けだけど女らしく丁寧な口調を心がけておけば、陽子さんになると思うから・・・・・頑張るぞ!

今は、お化粧に頑張ってます・・・・・って、塗りすぎたかな? ははっ、濃くなっちゃった〜〜〜

・・・・・笑ってる場合じゃないや、なんとかしないと。

化粧落としシートで拭き拭き・・・・・・はぁ・・・緊張してきたぁ〜〜〜!



その頃、茶の間では。。。

「ごめん下さい」

お祖父ちゃんに会えると楽しみにしていた まゆみと じゅんが、現れた人物の迫力ある厳めしい雰囲気に、さっさと学校に行ってしまったと・・・・・後から聞きました。

スーツ姿のタカシくんが出迎えても、ニコリともしないその人にタカシくんの焦りぶりはMAXで。。。
私に会いたいというお父さんに2階の私の様子を見て、またそれを伝えに1階に降りてと、落ち着きがないの。

私は化粧を落として、薄く・・・いつもの感じにやり直してます。
あとちょっとね、タカシくん!

「タカシくん、仕事の方はどうですか? ・・・確か、音楽かなんかのディレクターになったんでしょ? 手紙で知りました」
「それが・・・・ 辞めました。 今は郵便局に勤めています」
「辞めた!? ・・・・・これはまた、180度の転身ですね」

「君は確か、夢がありましたね。 ミュージカルの音楽を作るとかいう夢が・・・ 娘はその夢に惚れ込んで、留学先も辞退し君と一緒になったはずだ」

「夢って、本当にそんな簡単に諦められるものなんですか?」
「実は話せば長くなりますが!」
「じゃあ、結構です。 この暮らしぶりを見れば分かります。推して知るべしだ」

冷たく言われ、ジロリと睨まれたタカシくんは、それでも言い返そうとするお母さんを止めて、耐えてたんだ。

「陽子は遅いな・・・・・・私に会えない理由でも、あるんだろうか」
「いえ、そんな事はありません」

そんな時だったの、私がお父さんの前に三つ指ついて頭を下げて、現れたのは。。。

「お父さん、陽子ちゃんが来ました!」
「長い間、ご心配をおかけしました。 陽子はこの通りとっても幸せに・・・・・・」
言いながら顔を上げた私は、言葉が出てこなくなったの。

だって、だってこの人! 昨日、私にサインを求めたファンであり、ジャンバルジャンでアイスコーヒー飲んだ人で、私の正体・・・・・・知ってるもん!!!

「・・・・・・タカシくん、無理・・・」
「え? 陽子ちゃん?」
「この人、昨日ね・・・家とジャンバルジャンに来て私のこと知ってるの・・・」

「「えええ???」」

「陽子のこの変わり様は一体どういう事なのかね! 父親の事が分からないとは、どういう事だね!」

お父さんの一喝が家中に響いた。。。



「申し訳ございませんっ!」
必死の顔で土下座するタカシくんに、それを鼻で嗤うお父さん・・・・・

「土下座ですか、15年ぶりに見ましたね。 あの時も君だったがね・・・ 説明してくれますか、タカシくん!」
「はい!」

「全ては僕の責任です。僕は彼女に何の説明もせず会社を辞めちゃって・・・そのせいでマンションを引き払ってここに越して来る羽目になったんです」

「それでも暫くは上手くいってたんですけど・・・何しろ生活が苦しくなっちゃって・・・彼女を追い込んでしまって、それで・・・」
「それで?」

言い淀むタカシくん・・・・・・そうだよね、それで台所で倒れてた陽子さんと、別の世界から来た私と入れ替わったなんて、言えないよね。

私も自分の事だけど、神様に連れて来られたって言われたら、頭がどうかなってるんじゃないかって疑っちゃうもん!

「それで・・・・・彼女は心労が祟って台所で倒れてたんです。 ・・・ 病院で目覚めた彼女は、別の人格になってました」
「説明になってない! 信じられない!」

【 バンッ!!! 】
お父さんがテーブルを叩いた激しい音に、私の肩がピクンと跳ねた。

「だってそうでしょう? 突然、自分の娘の人格が変わったなんて言われて納得する親が何処にいます?」

「もし本当なら精神を病んでいるという事だ! 亭主が無職になったせいで妻がノイローゼに陥ったという事でしょう! 違いますか!!! 君が不甲斐ないばっかりに娘は苦労のし通しだったんでしょう」
「申し訳ございません!」

その時、庭から やすこさんが乱入してきちゃった!

「おうおうおう! 好き勝手言ってんじゃないよ! 15年も放っておいて何が親だい、娘だい! 冗談じゃないよっ!!!」
「なんだ、コレは!」
「向かいのクリーニング屋の娘です」
タカシくんが やすこさんを取り押さえながら答えてるけど、やすこさん暴れて振りほどいてお父さんの横に座ったの。

「あたしらね、アンタの娘さん・・・いやさ、陽子には言葉じゃ言い尽くせないほど世話になってんだよ! 遠くの身内より近くの他人て言うじゃないか!」

やすこさんの啖呵の次は、お母さんが「言わせてもらいますけどね!」と話し出した。

「こうなったのは確かに私や息子のせいかもしれません。ですがね貴方にも責任があるんですよ!」
「どういう意味ですか?」
「貴方に結婚を反対されなかったら、陽子さんだってここまで思い詰めることは無かったんですよ! 貴方に相談することも、何ならこの家を出て貴方がたと暮らすこともできたはずですよ!」

「私は姑として、この子は夫として出来る限りの事をしているんです! 文句を言われる筋合いは、ありませんっ!」

お母さんまで啖呵切っちゃった・・・・・あ、そう言えば昨日、やすこさんとお母さんで歌舞伎を観に行ったっけ。
そんな呑気なことが頭を過ぎったけど、陽子さんのお父さんは難しい顔をしている。

「陽子!」
「はい・・・」
「お前は幸せなのか? 金に苦労し、こんな図々しく上がり込んでくる隣人に苦労し、ましてや自分達の不徳でお前をノイローゼにしておいて開き直る姑や夫に囲まれて・・・・・・お前は幸せなのか?」

私は真っ直ぐにお父さんを見て、そしてニッコリと微笑んだ・・・・・だって、私は今すごく幸せなんだもん!

「私は幸せです! お金なんて私も働けば済むことだし、楽しいお母さんや可愛い子供達、それに親友の やすこさんも居るし、何より私はタカシくんを・・・・愛してるから」
「陽子ちゃん・・・」

「タカシくんの側に居たいの。 白髪のお爺ちゃんやお婆ちゃんになっても一緒に居たいんです。 私の記憶は無いけれど、目覚めてからもう1度・・・・・タカシくんに恋をしたんですもの」
「陽子ちゃん・・・」

「嘘をつくな! しあわせだったら、あんなくだらない小説なんか書くものかっ!!!」
「・・・・・・・くだらない?」
「さ、一緒に行くんだ!」
「きゃっ!」

急に腕を掴まれて立ち上がったお父さんが、グイグイ凄い力で私を引っ張っていくんだけど、痛いっ! 掴まれた腕が痛いっ!!!

「お前はロンドンに連れて行く! こんな所に、あんな男の側に娘を置いておけるか!!!」
「嫌っ!」
必死に戻ろうとするけれど、身長も高くて力の強いお父さんからは逃れられなくて・・・・・・やだっ!

「離してっ! 私はタカシくんの側に居たいの!」
「あんな土下座しか出来ないような男に、お前を任せられるか! 15年前と今と同じじゃないか、夢を追いかけるといって15年・・・ 男として何を成し遂げたんだ?」

その言葉にタカシくんの顔色が変わり、凍りついたようにこっちを見ている。

「何もないだろう? お前に人生を犠牲にさせて苦労させ、挙げ句の果てにノイローゼに追い込んで・・・ ロンドンで療養しよう。 気候の穏やかな景色の良いサナトリウムでのんびりしなさい・・・お父さんがきっと治してあげるからな」
「嫌です、私はここに居たいんです!」
「いいから来なさい!」

「タカシくんっ!!!」
私は掴まれてない方の腕をタカシくんに必死に伸ばして、止めて欲しくて・・・必死に伸ばした・・・・・・けど。

タカシくんが泣きそうな顔で私を見てるだけで、私の手を掴んではくれない・・・・・・なんで?

「タカシ! なに黙ってんのよ! 陽子が連れてかれるだろ!」
やすこさんの叫びにも、動かないタカシくん・・・・え? どうして?

切なく私を見つめるけれど、その目は暗くて・・・ さっきのお父さんの言葉がタカシくんの心に突き刺さってるんだ。

「何も言えないよ、何も言う資格がないよ・・・・・僕が不甲斐ないせいで陽子を不幸にしてしまった。それに記憶の無い陽子ちゃんに小説書かせたり、喫茶店でパートさせたり、お父さんが怒るのも無理ありません」

「夢を追いかけると言って15年・・・・・・僕は何も成し遂げてはいないんだ・・・・・彼女に苦労をかけること以外は何も・・・・・」
ガックリと崩れ落ちるタカシくんに、やすこさんが。。。

「何言ってんのさ、アンタ良くやってるよ・・・あたしゃ陽子が羨ましいよ? アンタや家族に愛されててさ〜」
「愛してるだけじゃダメなんだよ! 彼女に苦労ばっかりかけてるんじゃ・・・ 愛しててもダメなんだよ・・・」

頭を抱えて苦悩するタカシくんの目から、涙が溢れ落ちていく・・・・・

「さ、ロンドンに行くぞ陽子!」
「行きなよ、陽子ちゃん! 行けばいいじゃん! もうお金で苦労しなくてもいいんだからさ・・・その方が君のためだし!」
「タカシくんっ!!!」

行けばいいって・・・・・・私は、もう・・・・・あなたには必要ないの?
お父さんに言われた一言で、傷ついたタカシくんが本心とは別のこと言ってるとは思うけど、自分を拒否された言葉に私は酷く動揺してしまう。

立ち竦む私の耳に【パシン!】という乾いた音が聞こえた。
お母さんがタカシくんの頬を、引っ叩いた音だった。

「いっ!」
「女々しいこと言ってんじゃないわよ!」
「何すんだよ・・・」
「なにカッコつけてるのよ! 嘘泣きでも裸踊りでも何でもして引き止めないでどうすんのよ!」

「こんないい嫁、どこにもいないわよ! 世界中探したって、いないのよぉ〜〜〜!」
「分かってるよ! そんな事、言われなくても分かってるよ!!!」

涙で幾筋も濡れた顔のまま、タカシくんは2階へと上がって行ったのを見て、私はお父さんの腕を振り払い後に続いて2階へと駆け上がった。

寝室で体育座りしてるタカシくんの、ぽつんとした背中を見つけた。
足に腕を固く回して、膝小僧に顔を埋めてるタカシくん。。。

震える背中で、ああ・・・泣いてるんだと分かった。

私は、タカシくんの背中から・・・・・彼を包み込むように抱きしめていく。

「・・・・ふぅ・・・ぐすっ・・・・・うぅぅ・・・・・」
「タカシくん、私ね・・・・・苦労なんてしてないよ?」
「・・・・・」
「ユキオさんやツボミちゃんと仲良く仕事出来るし、接客業も好きだし、メイド服も着れるし・・・・・毎日、楽しいよ・・・」
「・・・・・」

「私ね、物を書く仕事に憧れてたんだ・・・ だから自分の文章が雑誌に載って、本まで出せたのって・・・・・私の夢が叶った事なんだよ?」
「・・・・・・」
「それに・・・・・・・私ね、もう1つ大事な夢が、叶ってるんだよ? 知ってる? 知らないでしょう?」
「・・・・・もう・・ひっく・・・1つの・・・・ゆめ?」

膝小僧からわずかに顔を上げて私を見る、タカシくん・・・・・涙と鼻水でグチャグチャになってるよ・・・

私はタカシくんの顔の前に回り込んで、そっと頬に触れるんだけど・・・・・濡れてるね。

両手の平で頬を挟んで、ゆっくりと私の方へと向かせて・・・・・・タカシくんの目を覗き込んで言うね。

「愛する人に、愛される喜び・・・・・・私の1番大事な夢なの。 叶ってるんだよ? タカシくんの側にいられれば、ずっと、ず〜っと・・・・・叶う夢なの」
「陽子ちゃん・・・・・」

「ね、叶えさせて? 私をずっと側に置いて? ずっと、ず〜っと・・・・・・・愛して? ダメかな?」

タカシくんの目を覗き込んで言う私を、同じように見返してくれるタカシくん。
暗い瞳が私を見てるけど、ねえタカシくん・・・ あなたの気持ちが知りたいの。

「ダメじゃないよ! 僕も愛してるから、ずっと、ず〜っと愛してるから!」
「でもさっき・・・ さっき・・・行けって、言ったじゃない・・・・」

さっきのタカシくんの言葉が蘇ってきて、悲しくなった私の目からポロポロと涙が溢れてきちゃった。

「あ・・・ごめん、ごめんね 陽子ちゃん!」
「か・・・っ! 悲しかったんだから・・・・」
「お父さんにああ言われてさ、つい・・・・・ ほんと、ごめんね」
「ギュってして・・・」

抱きしめてくれるタカシくんの胸に、安心してワンワン泣いちゃった・・・・・

「愛してる・・・・・陽子ちゃん」
「私も、愛してる・・・・・・一緒にいさせて? 離さないで!」
「・・・・・うん! ・・・・・・離さないから! ・・・・・・離さないから!」

ギュウギュウと抱きしめられて、2人とも泣きながら笑って・・・涙でグチャグチャな顔でキスをした。

そのキスは、涙の味がして・・・・・・・少し、塩っぱかったんだ。




その頃、茶の間ではお父さんとお母さんの攻防が繰り広げられていたんだって、後から聞きました。

「陽子、陽子〜〜〜 降りて来なさい! 降りて来るんだ!!!」
「昭一郎さん、陽子ちゃんは行きませんよ! 私がどこにもやりません!」
「それは許さん! 許さんぞ!」

「許さんって・・・前々から言おうと思ってたんですがね、そういうのは親の横暴じゃないんですか!!!」
「何だと〜〜〜」
「何ですか〜〜〜」



「タカシくん・・・下で揉めてるから、行かなきゃ」
「え〜・・・もうちょっと、ね♡ ・・・チュッ♡」
「ダメだよ〜・・・タカシくんたらぁ・・・・・チュッ♡」
「さっきの陽子ちゃん、可愛かったぁ〜〜〜・・・・・ンチュウ♡」


「「 いい加減、降りて来い(来なさい)」」


「うわっ!」
「きゃん!」

下からの2人の声に私達、ズッコケちゃいましたっ!!!


「こんな時にイチャイチャしてないの!」
「「はぁ〜〜〜い」」

お母さんに怒られちゃった、でへへ。。。

「怒られちゃったね♡」
「えへっ、怒られちゃったね♡」
タカシくんと顔を見合わせて照れ笑い・・・・・・ お母さんが苦笑してる。

私は《陽子さん》のお父さんに、三つ指ついて頭を下げた。
《陽子さん》への思いを込めて、私は話し出す。

「私は、タカシくんを愛しています。 彼の側から離れるなんて考えられないほどなんです。ですからロンドンには行きません」
「お前は病気なんだ。 私が良いドクターを探してやろう、ロンドンに行くんだ」
「・・・・・・・どうして私をロンドンに連れて行きたいんですか?」

キョトンと思い浮かんだ質問をしたら、お父さん・・・・・それはそれは分かり易く動揺してます。

「ろ、ろ、ロンドンは私の拠点だ、向こうの方が私に都合がいいんだ」
「こういう時ってまずは、東京で医者を探すとかじゃないんですか? 不安定な精神の娘をわざわざ落ち着いている場所から離れさすより、そっちの方が影響が少ないって判断しますよね?」

「ゴチャゴチャ言わずに来るんだ!」
「痛っ!」
腕を掴まれ引っ張られて、また掴まれた所が、痛いです!

「お父さん、陽子ちゃんが痛がってますから、落ち着いて話しましょう!」
タカシくんがお父さんから離してくれた。

「・・・・・・お母さんは来られなかったんですか?」
「か、か、か、母さんは、ちょっとな・・・・・今回は私だけなんだ」
「・・・・・・へぇ〜〜〜」

「お話ししてみたいので電話をかけても良いですか? 電話番号は?」
「話す事などないだろう? 人格が違うんだからな! かける事はせんでいい!」

怪しい・・・ やっぱりあれかな? DVDの話し通り熟年離婚を突きつけられてるんだろうか?
DVD通りなら明日にはお母さんからの手紙っていう、秘密兵器が届くんだけど・・・・

《神様、お母さんからの手紙・・・届けて! 昨日チーズケーキあげたじゃないの!》

そう心の中でお願いすれば、あらあらら〜・・・タカシくんが「思い出した!」って言って仕事用のカバンから手紙を取り出した。

1通のエアメイル・・・・・これは南フランスにいるお母さんからの手紙で、受け取って直ぐに開ければ、お父さんが焦る焦る。

取り上げようとするお父さんの手から逃れながら、全てに目を通せば・・・・・ガックリとうずくまるお父さん。

その内容は、やっぱり話の通りで・・・ 結婚して以来、横暴に耐え、浮気に耐えていたけれど我慢も限界を超えたというもので。

ロンドンの家から今は南フランスの別荘で、10才年下の恋人と暮らしていると書いてあり、そして最後に・・・

『 お父さんが訪ねて行っても取り合わないで下さい、母さんはもう、あの人と暮らすつもりはありません。もう懲り懲りなので 』と書いてあった。


「10才下の恋人! お母さんも、やるぅ〜〜〜」
「あら、私も10才下の恋人が出来るかしら!」

「お父さんは私を連れてお母さんと暮らそうと、思ったのね? そうすれば、お母さんがこれからも暮らしてくれると考えて・・・」
「その、通りだ・・・・・陽子」

岡田眞澄似のダンディーなお父さんが、くしゅん・・・と背中を丸めているのは、ちょっと見れないな。
そう思った私は、お父さんに微笑んだ。

「お父さん、美味しい物作るから食べてね!」
「陽子?」
「クヨクヨしないで? 美味しいもの食べてから、これからの事、考えましょう? しばらく日本に居るんでしょ? 泊まって行ってよ!」

そう言って私は台所に立って料理を始めれば、お母さんも手伝うと来てくれた。

肉ジャガに、アジの刺身、味噌汁・・・豪華な昼食を並べてみんなで一緒に食べたの。
もちろん、やすこさんも一緒だよ!

賑やかに食べ終わる頃には、皆が笑顔で・・・ お父さんも笑顔になってて・・・良かった。

「お父さんはちゃんと、分かってるんだよね? 自分の妻への態度が酷かったって・・・ 横暴や浮気なんて、酷いよ?」
「ああ・・・・・・その通りだ」
「自分の態度を改め、誠心誠意、お母さんに謝ろう?」
「そうだな・・・ 陽子の言う通りだな・・・・・」

「・・・日本を発つときは学生で、まだまだ子供だとばかり思っていました。 立派になったな陽子・・・」
「ふふっ、私も子供を持つ親だから・・・ それに妻でもあるから」
「そうか、そうだな・・・・・」

お父さんが少し泣いちゃって、しんみりとしていたら、じゅんが帰って来たの。

お父さんたら朝とは違って、じゅんの宿題を見たりタカシくんと話をしてたり・・・・・・ふふ、笑顔になってる。

私は慌てて買い物に出かけて、夕飯の準備をするの。

昼の残りの肉ジャガと、私特製ハンバーグにポテトサラダ!
魚屋さんの差し入れの刺身の盛り合わせと、豪華になったわぁ〜・・・他には金平牛蒡やインゲンの胡麻和えとか。

「タカシくん、お父さんとビール飲んだら?」
2人にビールを出せば、喜んで飲んでるし・・・・・

夕食の後はホテルに帰るというお父さんに、明日も遊びに来てと言っておいたの。

「明後日には向こうに帰るよ」
「なら明日はウチに来てよ! 待ってるから」
「ああ、お邪魔するよ」

駅までの道を歩きながら、穏やかに話す私達。
何だか本当の親子みたい・・・・・くすっ

無事に駅まで送った帰り道、一緒に来ていたタカシくんがしみじみと言ったの。

「まさか、お父さんと飲んだり、ご飯食べたりするとは思わなかったな〜・・・」
「15年前はそんなの無理だものね」
「ああ・・・・・でも、良かった」
「うん・・・よかったね♡」

「手、繋ごうか・・・」
「うん♡」

帰り道は2人で、手を繋いで帰ったの。




次の日、まゆみと じゅんも学校を休んでお祖父ちゃんと過ごしたの。
お父さんも昨日とは打って変わってニコやかでね、良いお祖父ちゃんの顔してるの。

そうして昼食や夕食を作って、みんなで一緒に食べて・・・・あ、途中からタクミくんも混じってご飯食べたんだけどね、混じっても違和感ないから楽しいね。

その様子を見ていたお父さんがね、私に帰りがけにこう言ったの。

「陽子・・・・いや、陽子さん。 あなたは私の娘とは違う人格なのでしょうが、やはり私の陽子なのですね」
「どうしました? お父さん」
「食べる姿や笑顔は昔のまんまだ・・・・ 何か困った事があれば直ぐに知らせて下さい。私の出来る限りの事をします」
「お父さん・・・・」

「金銭的な援助でも構いません。 何かあれば教えて下さい、力にならせて下さいね」
「お父さん・・・ ありがとうございます。 でも今は大丈夫ですよ」
「そうですか・・・・・今日は良い1日を、ありがとう」

「お父さん・・・ 記憶はなくても、お父さんて思って良いですか?」
「ええ、私もあなたの事を本当の娘と思っています」

お父さんと握手をして別れたんだけど、明日はロンドンに帰る前に寄ってくれるって言ってくれたの。

駅からの帰り道・・・タカシくんと手を繋いで歩いていれば、笑顔が溢れてくる。

そうして陽子さんの父親という台風が、去っていったの。



「陽子ちゃん、言っておきたいことがあるの」
「お母さん、改まって何ですか?」

食事をする前にお母さんが真剣な顔で話し出すから、私もキチンと座り直して向かい合うの。

「陽子ちゃん、この通りこの子は普通じゃないから、素直じゃないから、私から言います。・・・・・いつも本当に ありがとう!」

「こんな・・・へそ曲がりな息子を愛してくれて、ありがとう!」
「なんだよぉ〜」
「昭一郎さんの事でつくづく思いました。 今まで本当に、ありがとう・・・これからもよろしくね」

「お母さん! 私こそ至らない所ばかりで、でもこれからも・・・・よろしくお願いします・・・」
滲んだ涙を指で拭いながら、お母さんと2人で笑いあうの。

パチパチと手を叩いてるお母さんが、いつもみたいに言うのよ。

「陽子ちゃんスゴイ! できた嫁! 嫁No.1よ!」
「もう〜お母さんたら、恥ずかしいです」
「素晴らしい!」

いつもは止めるタカシくんも、泣き笑いの顔で私達を見てるし子供達もね。

その夜、子供達も眠った頃・・・タカシくんと寝室に来た私を、タカシくんが後ろから抱きしめてきたの。

「どうしたの、タカシくん?」
「・・・・・・僕を愛してくれて、ありがとう」
「タカシくん・・・」

「素直じゃない僕だけど・・・陽子ちゃんを愛してる。 お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても一緒にいようね」
「うん・・・・嬉しいよ、タカシくん」

ギュッと抱きしめてくれるタカシくんの唇が、私の耳に当たって・・・・・・そこからチュッ☆チュッ☆と始まっちゃって・・・・・

あん・・・・耳は・・・・ダメ・・・・・・

「陽子ちゃん・・・・・イイ?」
「・・・・・電気、消してね」
照れ臭くて真っ赤になっちゃう私を、目を細めて見てるタカシくんが電気を消して・・・・・・

布団に倒れこむ私とタカシくんは、その夜・・・・・・・仲良くなったのでした。



ジャンバルジャンでのパート中、小松さんが上機嫌で入ってきて言ったのは。

「先生、増刷が決まりました!!!」
「え、増刷!?」
「はい、3万部は堅いですよ!」

それに朝野くんが飾った雑誌の表紙に、私の本を持って映ってくれたので話題になってるらしいの。

「6万部は決まりましたね!」
「凄い、凄い! 嬉しい〜」


嬉しい報告です!
増刷が決まり6万部が出たんですが・・・・・・・それが評判になり、その後も増刷が決定しました!

今夜はお赤飯ね、タカシくん!

その夜はご馳走を並べてお祝いしました!!!

タクミくんは真っ赤な薔薇の花束を用意してくれて、渡してくれたんですよ〜

「おめでとう、陽子さん。 俺の周りも面白いって読んでるよ! さすがだね・・・はい、これをどうぞ」
「花束!? ・・・・・私の夢がまた、叶っちゃった!」

わぁーい! わぁーい! 花束を抱えて喜んでるとタカシくんが・・・

「なに? 夢ってなに?」
「んふふ〜・・・私ね、今まで男性から花束貰ったことないんだぁ〜・・・だからこれが初めての花束なの! しかもタクミくんみたいなイケメンからなんて!」
「あ、私わかる〜・・・イケメンから花束を貰うなんて女子の夢だよね! お母さんも女子だもんね〜」
「んふふ〜 まゆみなら分かってくれると思ってた♡」

「キレイ〜・・・いい匂い・・・」
私は薔薇の花に顔を埋めるようにして、いい匂いを嗅いでるとタクミくんが上から。。。

「陽子さん、可愛いね〜・・・ん? って事は俺ってさ、花束を渡した最初の男ってことか。 ごめんね、タカシさん」
「なっ! 初めての男とか言うなよな!」

あははっ! タカシくんたら唇尖らせて拗ねてるし・・・・

「いいなぁ〜! 私もタクミさんから花束が欲しいなぁ〜」
「じゃ、来年の誕生日に渡すね!」
「きゃ〜、嬉しい!」

「陽子ちゃん、そんなウットリして花束がそんなに良かったの? ね、ね、陽子ちゃん〜〜〜」
「うふふ〜〜〜」

今日も我が家は、賑やかです!




ほのぼのした話って、いいですよね〜
楽しんでいただけたら嬉しいです!
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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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