①《冷静と野望の海の中で・・・》by白い巨塔

白い巨塔のクールビューティー、国平学文(くにひら・まなぶ)弁護士のお話です。

この前に及川さん、ベッシーだったんですよね〜
物凄い変わり様というか、さすが演技者というか・・・・・

この笑いもしないクールビューティー、見ていてゾクゾクするほど、美しいです♡




彼女を紹介されたのは、所謂・・・夜の店でだった。

医療裁判中の依頼人は、大手の病院の院長で、医者で上の立場の者が概ねそうであるように、この依頼人も女好きのスケベ親父だった。

銀座のクラブに連れて行かれた私は、ただ淡々とそこに居た。

この店では顔なのか、ママに下卑た笑いを向けながら私に酒を勧める親父。

「先生、この店イイコが揃ってるでしょ?」
「はぁ・・・」
「先生の好みの娘がおったら言うて下さいよ! 夜の相手もさせますから・・・」
「いえ、それは結構です」
「遠慮せんと! 先生ハンサムやから、相手したくて女の子がウズウズしてますよ!」
「結構です」

冗談じゃない、公判を維持するために寝る暇も惜しいのに、女などに時間を避けるか!
適当に先に帰ろうとした私の横に、他のテーブルから来た女が座った。

「・・・あの、カスミです。よろしくお願いします!」
「私はもう帰るので・・・・・」

帰るから構わなくてもいい、そう言おうと横を見た私の目に映ったのは、露出の多いドレスが痛々しい少女だった。

まさか未成年か!
法に携わる者として見過ごせないと判断し、私はもう少し席に座ることにした。

カスミという少女は、大きな瞳のあどけない顔に化粧を施し、華奢な肢体をホルターネックのドレスに包んでいる。

「君、年は幾つだ」
「えと、20歳です」
「・・・・・・・・嘘はいい。それで幾つなんだ?」
「本当に20歳です」
「だから嘘はいいと言っている。・・・・幾つだ」
「あの・・・本当に20歳なんです」

「・・・・・・・・証明できる物を何か持っていますか?」
「免許証ならロッカーに・・・」
「見せて頂いても?」
「え?」

戸惑うカスミという少女がママを見れば、ママは頷いて・・・・・何やら小声で少女に何事かを言っていた。
頷いたカスミが私を見て立ち上がるのに、鞄を持ち後に続く。

女達の舞台裏・・・・・更衣室へと連れて行かれたのだった。



私はカスミ・・・・・本名はね、香澄(かすみ)って言うんだ。
親も兄弟もいない私は養護施設で育ったの。

高校を卒業してから・・・ううん、高校時代もバイトして学費を稼いでた私なんだけど、施設の決まりで卒業と同時に施設を出て、最初は住み込みで働いてたんだけど。

そこの御主人に襲われて・・・必死で逃げ出してからはどんな仕事でもしていたなぁ〜
ビル掃除や定食屋さんや、居酒屋さん・・・でも、どうしてなんだろう?

必ず男の人に迫られて、無理やりその・・・・・関係を持とうとされて、逃げ出して。
そうしたら、その男の人達は口を揃えて『こいつに誘惑されたから!』って私のせいにされた。

何だかもう何もかも嫌になって、フラフラ歩いてた私を、この店のママが拾ってくれたの。
社員寮にも住まわせてくれて、ニコニコ笑ってお酒を注いでいればいいからって・・・・・ホステスになったの。

でも、お客さんの中で私を・・・その・・・・・抱きたいって方が出てきて・・・・・でもね、ママはそんな事しなくていいって言ってくれてるのよ!

実は私、あれだけ襲われたのに最後まではシてなくて・・・・・バージンなんだよね。

ママがねバージンは私が良いなって思う人と経験しなさいって言ってくれて。
でも襲われてばかりだった私は、恋なんてしたことないし、ましてや良いなって思う人なんていない。

どうしようと思ってたら、今夜、初めて見るお客さんに私・・・・・私、あの人が良いってママに言っちゃったの。

「望まれるよう自分で何とかしなさい。 店は早退でいいから」
「ど、ど、ど、どうすれば???」
「いつも通りにしていれば大丈夫よ! さ、お席に行きなさい」

私はドキドキしながら、その人の隣に座ったの。

無表情で座るその人はいかにも頭が良さそうで、横のスケベ親父とは大違い!
その人も私を見てくれて、あれれ? 何か固まってらっしゃる???

それから、いくら言っても私が20歳だって信じてくれないのは困るんですけど・・・

私は自分のロッカーに案内して、鞄の中から免許証を出して後ろにいるその人に渡した。

「・・・・・・驚きました、本当に20歳なのですね」
「はい、これで証明できましたよね!」
「けっこうです。それでは私は帰ります、出口まで案内して頂くと有難いのだが」
「あのっ! お願いがあるんです!」

このままこの人を帰らせたら二度と会えない!!!
私は必死で、その人の上着の裾を持って頭を下げた。

「私にお願いとは、なんでしょうか? 指名してくれとか、ボトルを入れてくれなどでしたら結構です」
「ち、ち、違います! あのっ・・・あの・・・・」
「・・・・・・早くしてくれるかな?」

眉間にシワが寄ったその人は、凄く素敵で・・・・・・私は必死で声を出したの。

「わ、わたっ・・・私を抱いてください!」
逃がさないよう上着の裾を持ったまま、深々と頭を下げて頼み込む私。



・・・・・・・抱いてください、なんてセリフは女性が言う言葉じゃないし、ましてや必死に私に頼みこむとは。
あの依頼人のスケベ親父がママに頼んだのか?

「それは誰かに言われてですか?」
「いいえ」
「そうですか、では私に抱かれたい理由を教えて下さい」

事務的に話してはいるが、大方あのスケベ親父に頼まれて来たのだろうと、目の前の20歳以下にしか見えない女性を見ていた。

身長は今時の子供より小さめで、顔も幼さが抜けきれない、これで20才だと言うのだからな。
身体は・・・一応発達はしているようだが、顔の幼さとのギャップが、スケベ爺どもには堪らないのだろうと判断した。

「理由は?」
「あ・・あ・・・あのっ、私・・・お客さんが入って来る所を見てて、凄いカッコイイ方だなって思って」
「それで?」
「あ、あ、あ、頭も良い人なんだろうなって思って・・・・」

だんだんイラついてきた私が、隠しもせず眉間にシワを刻み彼女を見ていた。

「それで?」
「綺麗で頭も良さそうで・・・でも、酷く寒そうだなって思って・・・」
「寒そう? 私が?」
「私もどうしてそう思うのか分かんないんですけど・・・・・」

「お優しい貴女は私が寒そうだから、その身体で温めたいとでも思ったのですか?」
冷たい口調で、心底馬鹿にした言い方をすれば、彼女も諦めるかと思ったのだが。。。

パァァ〜〜〜っと満面の笑顔になった少女に、私も少々、面食らった。

「そうなんです! すごい! 私の言いたい事がこんなに分かる人がいるなんて、凄いです!」
「・・・・・・・」

この少女は知能的に何がしかの障害でもあるのだろうか?

「私以外の人に頼んで下さい。失礼」
「・・・・・お願いします!」
「上着を離してくれませんか?」
「お願いします・・・」

ああ、面倒だ・・・・・あどけない見た目をフルに利用して、男を誑かす。
夜の世界の女の常套手段だ・・・・・そんな女にはこう言えばいい。

「私は処女しか抱かない。 他の男に抱かれて汚れている女には、興奮しないのでね」

今時の女は、軽く男に抱かれて良い気になっているものだ。
ましてや夜の・・・ホステスなんぞ、幾ら幼く見えても既に何人もの男を咥え込んでいるだろう。

それなのに少女は、笑顔を私に向けて・・・・・ブンブンと頷いている。

「私っ、処女です! バージンです! 抱いてくださいますか?」
「・・・・・・嘘はいい」
「嘘じゃないです! 処女です!」
「・・・・・・だから嘘はいいと言っている。本当は?」
「処女です!」
「・・・・・・それを証明することが出来ますか?」

「あの・・・お客さんが抱いてくだされば、証明できるかと・・・・・」
「・・・・・・・そうですか」

冗談じゃない、だが・・・抱くのも面倒だとすれば、病院にでも連れて行くか。

「では病院で調べてもらいましょうか」
そう言った途端、その少女は・・・・・・その大きな瞳、いっぱいに恐怖の色を浮かべ、血の気の引いた顔で私を見ている。

「病院は、嫌です・・・・・」
「・・・・・何かあったのですか?」
「病院は、嫌・・・ 」

ブルブルと震えた少女が私を恐怖の源であるように、見つめて静かに後退った。

「病院は、イヤ・・・・」
「君、どうした?」
「いや、いや!」
ポロポロと涙を流し始めた少女に、訳がわからず近づいていけば、彼女はそのままどこかに走り出した。

店内ではない方向へと走る彼女の後を追いながら、舌打ちをしてしまう。
くだらない事に関わってしまった、間抜けな自分に向けてだ。




店の裏口から出た私は、彼女のドレスの色を思い浮かべながら視線を左右に走らせた。

「いた」
ビジューのついたドレスが街灯に煌めいて、彼女が道路の端にうずくまっているが見えた。

「君は・・・・・・どうした? おい!」
歩いて横に並んだ私が話しかけると、様子がおかしい・・・・・

肩に手を触れるとそのまま崩れ落ちていく。
慌てて抱き止めたが、意識が無い・・・・・・仕方なく抱き上げて、タクシーで近くの夜間救急に連れて行った。

病院に任せて帰ろうとした私だが、コートを確りと握られて帰るに帰れずにいた。
仕方がないので書類を読んで時間のロスを埋めるとするか。

「あ、私・・・」
「気がつきましたか? ならばその手を離してほしいのだが」
「手? ・・・・・ごめんなさい」
やっと自由になれたな・・・・・・ふと、気になったことを彼女にぶつけてみた。

「なぜ病院が嫌なんだ?」
「・・・・・私が捨てられていたのが病院なんです」
「え?」

「まだへその緒がついたままの私を、毛布に包んで捨ててったそうです」

その時の少女の顔は、ひどく儚くて・・・・・ その大きな瞳は深海のように光の届かない暗闇で・・・・・

「お客さん、面倒かけてすみませんでした。 私は大丈夫です。行ってください」
「ああ・・・」

返事をした私だが、なぜか動けずにいた。
タイミング良く様子を見に来た看護師に少女は、今すぐ帰りたいと言い出した。

「先生が診察してからね」
「私は大丈夫です! だから帰ります!」
「おい! やめなさい!」
少女は腕に刺さった点滴の針を無理やり抜いて、そのまま走り出そうとしていたが私が止めた。

「離して! 病院は・・・・・病院は・・・・・嫌なの」
喉の奥から絞り出すような声が、彼女の恐怖を私に伝えるのだが・・・・・捨てられていただけで、こんなに怯えるのだろうか?

「先生、呼んできますね!」
「お願いします」
私が彼女を抑えているのを見て看護師が走り、しばらくして初老の医師を連れてきた。

抑えている彼女の体が、細かく震えているのが気にはなったが、早く医師に彼女を渡して、私は帰りたかった。

「・・・・・香澄ちゃん、気がついたかね」
「ひぃっ!」
入って来た医師は、彼女を見知っている様で・・・親しげに名前を呼んでいる

だが、彼女は・・・・・・医師を見た途端、ガタガタと震えだし顔面も蒼白になっていった。

この医師と何かあったのだろうか?

「ああ、貴方が彼女を保護してくれたんですね、ありがとうございます。 これからは私が彼女の世話をしましょう・・・」
厭な笑顔を張り付かせた初老の医師は、私から彼女を受け取ろうと両手を伸ばしてきた。

「ひぃぃ〜・・・イヤ・・・イヤ・・・」
その伸ばされてきた医師の手を見て、彼女は酷く怯えて私に必死に抱きついてきた。

「いかん、興奮しているな・・・・・君」
看護師の手から1本の注射を受け取った医師が、私に抱きついたままの彼女の肩にそれを打とうとした。

「その注射の中身はどんな薬でしょうか?」
「これは精神安定剤です・・・この子は興奮しているのでな」
「眠らせるのですか?」

まるで口を塞ぐ様に、彼女を眠らせ意識を奪う・・・・・・・何だ、この厭な感じは。

「私はこの子の事を知っているんだ。君はただの通りすがりだろう? 私に任せて帰りなさい」
「いつからこの少女のことを知っているのですか?」
「赤ん坊の頃からだよ! なんだね君は、失礼だな」

「彼女は病院という言葉に酷く怯えています。 貴方を見てからは貴方に怯えている・・・・・おかしいとは思いませんか?」

ここで私は名刺を医師に渡せば、彼は慌てた様に部屋を出ていった、看護師も連れて。

「・・・・・・仕方がないか」
ブルブルと震える彼女に自分のコートをかけ、私はナースステーションに彼女を連れて帰ることを伝えた。



タクシーの中でも、彼女は一言も口を聞かず、私のマンションに着いて部屋に入っても、彼女は無言のままだった。

ただ、私のコートの中に包まり自分を自分で抱きしめ続け、部屋の隅に座って動かないでいる。

まるで拾ってきた子犬の様に、新しい環境に恐怖を抱いて様子を見ているような彼女を正直、持て余している。

さて、私は彼女に関わるほど暇ではない、公判も控えている身で時間も惜しい。

なので、私は彼女を放置した。

シャワーを浴び、パジャマに着替え、書斎で書類を読み込んでいるとコートを着たままの彼女がおずおずとやってきた。

「あの・・・私・・・」
「悪いが私は君に関わるつもりはない、シャワーを浴びたいなら好きにしなさい。ベットを使いたいなら使えばいい、私はここで仕事をしている。 明日には出ていく様に、以上だ」
「ご迷惑をおかけしました・・・・・シャワーを使わせていただきます」

そう言って私をじっと見つめる彼女に、まだ何か?と視線をやれば・・・・・・ペコリと頭を下げられた。

「あそこから連れ出してくれて、ありがとうございます」
「あの医師とは知り合いの様だね」
「・・・・・・・私の居た養護施設に健診に来てくれる方で、その度に私だけ再検査と言われて・・・・・家に連れて行かれました」
「家に? 病院ではなく?」

「先生のお家で・・・・・」
ブルブルと震えだした彼女は、私のコートをギュッと引き寄せ、まるで鎧の様に身体を包んだ。

「先生のお家の診察台に横になるよういわれて、そうしたら手足を固定されて・・・・・メスで服を切られて」
「・・・・・・君?」
「私の香りがイイと・・・・・・身体中の匂いを嗅がれて・・・・・気が済んだら帰っても良くて」

「新しい服をくれて、その変わり黙ってるんだよって・・・」
「いつから始まった・・・」
「小学校に入ってから」

「いつまで続いた」
「中学に入ってからは、私も逃げてたから・・・・・だから小学生の間です」

「白衣が今も苦手です・・・・・」
「周りには言ったのか?」
「言っても・・・偉いお医者様の言葉と、子供の言葉・・・どっちが信用されるかなんて分かりきってます」

「シャワーいただきます」

余りの話に何も言えない私を置いて、彼女はシャワーを浴びに行ったようだ。

「着替えをだしておくか・・・」
といっても女性用の下着や服など持ち合わせてはいない・・・・・

仕方がない・・・私はストックして置いたTシャツとボクサーパンツを置いておいた。
もちろん両方とも新品だ。

それからは書斎で裁判の書類や判例など調べ物をし、没頭していた。

彼女のことも忘れるほど、仕事をしベットへと行けば・・・・・・・おい。

「どうして私のコートを着て、寝ているんだ・・・・・」

すやすやと眠る彼女は、病院で着せた私のコートをきっちりと着込んだまま、ベットで眠っていたのだ。

「・・・・・寒いはずはないのだが」
薄着でも快適に寝られるように、温度設定は完璧なのだが・・・・・

「もういい、考えるのも時間の無駄だ」
私は彼女とは反対側のベットに滑り込んで、短い睡眠を取ろうと目をつぶる。

だが頭を使いすぎたのか意識が冴え渡り、寝つけない。
仕方がない、眠れないのならベットに横になっているより、書類や判例を見ていよう・・・

「ん? ・・・・・・おい。」
コロンと寝返りをうった少女が、私の腕に抱きついてしまった。

腕を抜こうとして、あどけない寝顔が目に入り・・・そのままでいた。
しばらくそうしていたら、身体の横側がぬくぬくと暖かく、急に眠気が・・・・・・・

私は、珍しくぐっすりと眠れたのだった。




『きゅぅ〜ん・・・・きゅぅ〜〜〜ん』
「ポチ! おいで! お前は僕の犬だよ!」
『ワン!』
「そうだよ、ずっと一緒だからね!」

「学文(まなぶ)! あなた、部屋の中で犬を飼っていたそうね・・・しかも雑種を!」
「ポチは? ねえ、ポチはどこに行ったの? 僕の部屋にいないんだ」
「あんな汚い犬、処分しましたよ。・・・犬を飼いたいのなら血統書付きの綺麗な犬にしなさい」

「処分? お母様、処分ってどういうこと?」

「保健所で処分してもらいました。 お部屋も消毒しないと、和さん、和さん!!!」
「はい、奥様」
「学文の部屋の絨毯からカーテン、犬が歩き回った所や触った所を消毒して! ああ、穢らわしい!!!」

「処分ってポチを・・・・・ポチを殺しちゃったの? 僕のポチを!」

ムクムクな丸っこい、僕のかわいいポチは、抱っこすると暖かいんだ。
道端に捨てられていたポチは、僕の子分なんだぞ!

部屋の中で僕の後ろをついて歩くポチ。
僕が抱っこするとキュンキュン鳴いてミルクをねだるポチ。


ずっと、一緒にいようと約束したのに・・・・・・・いなくなったポチ。


ああ・・・昔の夢か。

馬鹿な子供が部屋の中に隠していた、子犬。
そんな事も、あったな。

・・・・・・いい匂いが、する。

陽射しをいっぱい浴びた花たちが、風に吹かれたような・・・懐かしい匂いがする。

ポチと遊んでいた頃の、懐かしい匂い・・・・・・

微睡みから覚醒した私は、少女をしっかりと抱きしめて眠っていたのだった。


・・・・・あんな子供の頃の夢を見たのは、この少女の体温の暖かさと、お日様の香りのような体臭なのか。

「・・・・・ん」
擦り寄ってくる少女を、抱きしめ・・・・・もう少し微睡んでいたい、不意にそんな事を思った。

私には似つかわしくない感情だな。

私はベットを出て、持ち帰った書類を鞄に入れ、スーツを着用し用意を済ませていれば、少女も起き出してきた。

「朝になった、君には出て行ってもらう。それともう1つ、私のコートを返してもらおう」
「あ、すみません・・・・お返しします」

手元に戻ったコートにはシワが少しあったが、着られないわけではない。

「送ろう、早く用意したまえ・・・」
「はい!」

露出の多いドレス姿の彼女は、朝日の中で見れば夜よりも痛々しく見えた。

「これを着なさい」
返してもらったコートを彼女に渡し、私は別のコートを手に部屋を出た。

遠回りだが、あの店に寄って欲しいという彼女の言うままに車を回して、降ろした。

「ありがとうございました・・・・・」
「もう会うこともないでしょう。失礼」

車を走らせた私が、ふとバックミラーを見たとき、見送っていた少女の後ろに男が立っていた。

「なにっ!!! ・・・・・・・まさか、昨夜の医師か!?」

私は道を曲がり車を止め、走り出した。

すぐについた店の前では嫌がる少女を押さえ、連れ去ろうとする・・・・・昨夜の医師が居た。

「香澄・・・・香澄ぃぃ〜・・・やっと見つけたぞ! 儂の家に行こうなぁ〜・・・昔のように可愛がってやろうなぁ〜〜〜」
「いやっ! 嫌だ・・・・離して、離して!!!」
「大人しくしなさい!」
後ろから抱きついている初老の男は、顔を彼女の首に埋めて・・・・・匂いを嗅いでいる様だった。

「相変わらずイイねぇ〜・・・・・・良い匂いだ」
「いやぁぁぁ〜〜〜・・・・」
「止めなさい!」

朝早くひと気のない店の裏口、容易く彼女を連れされると思ったのだろう。
私の登場で初老の医師は、驚き、慌てて彼女を置いて逃げ去った。

「なんなんだ、あの医師は」
「やだ・・・やだ・・・・やだ・・・・」
ガタガタと震える彼女の姿が、なぜだか・・・・・・夢の中の子犬と重なった。

「私と来なさい」
「え?」
「ここはもうあの男に知られている。また君を狙って来るだろう・・・」
「あ・・・・でも私は・・・行く所がないんです」
「ここに住んでいるのか?」

頷く彼女に荷物を持てるだけ持って来なさいと指示をだし行かせると、小さなボストンバッグを1つ持って戻ってきた。

「これで荷物は全部なのか?」
「はい」
「では行こう・・・」

車で家に戻った私は彼女を中に入れ、ここに居る様にと話した。

「それとあの店には行かない方がいいし、ママにもここに居ることは隠しなさい」
「辞めなきゃいけないんですね・・・・・」
「その方がいいでしょう」

「くれぐれも、部屋からは出ないよう・・・・ママには私から連絡を取ろう」
「・・・・・・お願いします」

「では、私は行きます」
「あっ・・・行ってらっしゃい! お気をつけて」

・・・・・・行ってらっしゃいか、何年ぶりで言われた言葉だろうか?

ふん、私らしくない!

いいものだな・・・なんて、本当に私らしくない!!!

そしてこれが、私と少女の奇妙な同居生活の始まりだった。




1話で収まらないので、何話か続くと思いますが、読んでいただけたら嬉しいです。

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プロフィール

すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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