③月に照らされ、陽に焦がれ……

※※※
「まっ……お待ちください」呆然と見送ったミセンだったが、寸での所で我に返った。


尚も追い縋るミセンに、もはや振り返らずに歩くスンマン。

「待って……待って下さい……はぁ~ひぃ~」追いつけず息が上がったミセンは、それでも見失わないよう早足をしていた。


そこに、数人の朗徒と歩いていたポジョンとソクプムに出くわした。


「天の助けだ!………おぃ、ポジョン!」甥のポジョンを手招きして呼び寄せると、ざっと事情を話した。


「………それで、あの者をどうすればいいのですか?叔父上」

「はぁ~……あ、あの方をだな。丁重にお誘いして……ふ~……我が家の酒席に……はぁ~……招待するのだ」息も切々に説明すると、ポジョンが男を追っていった。

ソクプムもポジョンを追いかけた。



「もし、そこの方」さすがに花朗だけあって、すぐに追いついたポジョンとソクプムだった。


「………何でしょうか」歩みを止め、振り返ったスンマンにポジョンが息を飲んだ。

「……叔父ミセンが貴殿を酒席に招待したいそうです」やっとで声が出た。

男の美貌に息を飲んだ自分を恥ずかしく思いながらも、魅了された。


「お断りします」無表情に言い捨てると、歩き出そうとしたスンマンの前にソクプムが出てきた。

「失礼だろう、お主。ミセン公は宮主ミシル様の弟……その方の誘いを無下に断るとは!」

「私はトンマン公主の護衛です。残念ながら宮に帰り警護にあたらなければなりません……また後日、お誘い頂けますか」後ろを振り返りポジョンにそう言って歩みだしたスンマンの腕をソクプムが掴んだ。



「ソクプム!!」ポジョンが制止するように声をかけた。


だが、自分を無視した態度に腹を立てたソクプムは、腕は離したが不快そうに顔を歪めていた。



「さすが朗徒をしていた公主様だ。………ピダムといい、お前といい、得体の知れない男でも構わずに取り巻きに加えるとはな~~育ちが知れるわ………はっはっはっ」


ポジョンは瞬間、迸る殺意の塊となったスンマンに、無意識に剣に手をかけていた。


※※※

トンマンから「スンマンを捜して連れてきてくれ」と頼まれたピダムが、ぶつくさ言いながらも見つけた時、ちょうどポジョンがスンマンに追いついた時だった。


「何してんだ。あいつら?」


うしろ姿しか見えないスンマンに、駆けて行けばソクプムがトンマンを馬鹿にした言葉が聞こえた。


瞬間……ピダムの頭が怒りで、真っ赤に煮えたぎった。


そのまま、スンマンを追い越してソクプムに殴りかかろうとしたピダムの腕をスンマンが掴んだ。


「!!!」怒りに我を忘れたピダムの目がスンマンを見た。

「お前………」自分の怒りも暫し忘れ、ピダムはスンマンに見入ってしまった。


ぎらぎらと、怒りに張り裂けんばかりに見開かれた瞳が、ソクプムを見ていた。

スンマンの手が、腕に強く食い込むのをピダムは感じた。


「我が忠誠を捧げしトンマン公主を、辱しめたな………」地の底から沸き上がるような声が響く。


先程までトンマンと穏やかに、にこやかに過ごしていたスンマンと……同じ人物とは思えないほどの代わりようだった。


「じ……事実を言っただけだろう」ソクプムが色黒の顔を真っ青にしている。


目の前の……野生の虎と狼のような二人の怒りを買った自分の軽口を怨んでいた。


「私は花朗ではない……が、お前に比才(ピジェ)を申し込む!」スンマンの宣言だった。

「花朗でもないものが……受ける道理はない!」
「なら……俺が申し込む!国仙ムンノの弟子で歴とした花朗の俺がな!」ピダムがすかさず言った。

「お主は朗徒がいないではないか……比才とは花朗と朗徒が闘い、最後の一人が残るまで止められないのだぞ」ポジョンが何とか止めさせようと説得にかかった………無理だとしても。


「私が助太刀する………私達二人と、そいつと朗徒で対戦すればいいのではないか?」暗にお前など敵ではないと言ってるものだ
明らかに嘲ったスンマンがソクプムを見た。

「なんだと?」青かった顔を、今度はどす黒くしたソクプムが叫んだ。

「いいだろう!……そこまで言うなら、やってやる!……ただし、此方の朗徒は大勢だぞ」はっきり数を言わずに受けたソクプムの考えは読めていた。

「いいさ~……雑魚が何十人いたって、雑魚は雑魚だからな……」ピダムが、からかった。

「明日だ!……逃げるなよ」ソクプムが憎々しげに言い捨てた。

「お前がな……」くっくっくっ……笑いながら声をかけたスンマンの瞳が変化していた。

蒼い火柱が立っているように激しい光を湛え、真っ赤な薄い唇を、舌が……ちろちろと舐めていた。

まるで鮮血でも啜りそうな妖しい気配に、ピダムでさえぎょっとしていた。


ポジョンがソクプムを引き摺って、その場を離れた。


「前から気に食わなかったんだよな、あいつ!」ピダムが吐き捨てた。

スンマンが、がしっっとピダムの肩を組んだ。

「公主様が大事か?」覗き込まれたピダムが、にやりと笑った。

「当たり前だろ!……俺が選んだ主だ!」

「私もだ……私が選んだ主だ!……辱しめる輩など、血の海に沈めてやる」
愉しそうに、先程の穏やかなスンマンが戻っていた。

「お前、俺より短気だな」
「そうか?」
「そうさ!」


ぷーっと二人、噴き出していた。


「ソクプムの野郎~……青くなったり顔色変えて可笑しいったらないよな」

「ああ!色が黒いから、どす黒くなって」

二人の高らかな笑い声が辺りに響き渡った。


※※※

「な……何だと?……今、何と言った!」ミセンが意味が分からないと頭を振った。

「ポジョン……私はお前に、丁重にお誘いしてくれと頼んだはずだな……な?」

ミシル宮に戻っていたミセンに報告したポジョンだが、………失態に居ずらかった。


「ポジョン?……どうした」所用に出ていたミシルが、戻ってきた。


「どうしてこの様なことに……あ~、」

「良いではないか……」経緯を聞き終えたミシルがにこやかに言った。

「姉上~~」頭を抱えたミセンにミシルが面白そうに呟いた。

「ピダムとその男……闘い方を見てから考えてもいいでしょう…」

「姉上?……では」
「明日、私も見物に行きます」ミシルの瞳が輝きだした。



………まったく、姉上もこと花朗や比才には目がないお方だからな。……しかも【あの方】は分からぬが、ピダムの腕前は相当だ。


「ソクプムの朗徒は、何人だ?」ミシルがポジョンに聞いた。
「50人です」

「なら……今晩のうちに後、50人は集めなさい」
「母上?」
「もう一人の男は分からないが、相手はピダムだ………数を頼んで勝負をかけるしかあるまい」


たぶん、ポジョンの話しぶりではもう片方の男も相当な手練れ………ソクプムの負けに決まっておろうが、すぐに終わると面白くないわ。


可笑しそうに片眉を吊り上げて笑うミシルを見て、ミセンが呟いた。

「姉上……姉弟でも怖いですよ、その笑い」


※※※

空が青く澄んでいた。
清々しい朝がきた。

しかし、宮殿は花朗達の騒々しいまでの噂話しでもちきりだった。


「何故このような事態になったのだぁー!!!」

風月主の執務室の中では、ユシンの怒鳴り声が響いていた。

咄嗟に耳を塞いだピダム以外は、まともに喰らってしまっていた。


アルチョン、ポジョン、ソクプム、は耳鳴りがしながらも平静を装っていた。


「ですが風月主、ピダムから話を聞けば比才を申し込むのも分かります」アルチョンがピダムを弁護していた。

大事な主を侮辱され、黙っているなど花朗道にも劣る……今回ばかりはアルチョンはピダムの味方だった。


ユシンもピダムの気持ちは分かる………だが、余りにも軽率だった。


先の穀物騒動で貴族達の反感を買っているトンマンの、立場を考えれば……波風は立てたくないユシンだった……


「ミシル宮主が、比才の見届け人になって下さるそうです」ポジョンが報告すると、ユシンの顔が固まった。



………ミシルまで噛んできたなら決行するしかない………ええい、仕方ない!私も見届けよう。



覚悟を決めて比才の会場を整えるよう、他の花朗や女官に指示をだした。


※※※


「公主様、お茶が入りました」穏やかなスンマンの声にトンマンは寝室から出てきた。


お茶の良い香りが辺りに漂っていた。


「今日、アルチョン殿との手合わせですね」

「それが姉上、成り行きで比才になりました」

「比才?」驚いたトンマンが思わず器を置いた。

「誰とですか?」

「ソクプムとかいう背の低い醜男です」

「ソクプム……」

「ピダム殿と私で参加します」どこかに散歩にでも行くと言ってるような口振りだった。

「ピダムと!!」
「はい」
「いつの間に仲良くなったんですか?」
「さぁ~……私も分かりません」


ふふっと二人で笑いあったトンマンとスンマン。


「必ず見に行きます」
「心配しないで下さいね、姉上」
「え?」


ふわりと穏やかな笑顔のままスンマンが……
「私は強いから、雑魚が百人来ても負けませんよ」瞳が前夜の様に変わっていた。

「スンマン………」

※※※


練武場では比才用に場所が整えられていた。

尊い方達が見物出来るように席も拵え、花も飾られた。



設置にかり出された花朗達が面白そうに見ていた。

「ソクプムのやつ、昨晩で朗徒を増やしたそうだな」
「ああ……百人はくだらないそうだ」
「ピダムがいくら強くても百人とは……無理じゃないか?」
「そうだ!聞いた話しだとピダム以外にもう一人加わるそうだぞ」
「誰だ?……アルチョン朗か?」
「そこまでは……」「数ではソクプムの勝ちだな」
「そうだな……百人対二人など、問題にもならんだろう」
「賭けるか?」
「誰かピダムに賭ける奴がいるのか?」

わっはっはっはっ~

花朗達もミシル派が多数だった。


長年、宮殿も徐羅伐(ソラボル=新羅の首都)も新羅も掌握してきたミシルだった。

権力は依然としてミシルが握っていた。

※※※


トンマンの執務室に顔を出したピダムは、スンマンを見つけた。


「なぁ~、もう行くか?」ピダムは支度が終わっていた。

といっても普段と変わらない黒い花朗服だ。

「ああ……少し待ってくれ」
スンマンは袖口から手を突っ込むと服の中から何か出した。

次は服をめくりパジ(ズボン)の上に巻いていた物を外す。


次々と何かを外していた。

「それ……なんだ?」不思議そうに指で摘まんだピダムが重いのに驚いた。

「重りか?」
「ああ……たまに武器にもなるがな……よし、済んだ」

山のように積んであるそれらを全て外して伸びをしたスンマンだった。


「あ~……せいせいした」
「お前、普段からこんなの着けてんのか?」
「ああ……言っただろ?これも武器になるから」
「へぇ~~」
「さ、行くか」
「そだな」


二人が連れだって練武場に現れたとき、ソクプムはもう来ていた。


百人あまりの朗徒を連れて。


ピダムもスンマンも、百人の朗徒を見ても緊張もせずに話しては笑いあっていた。


それよりも周りの方が騒いでいた。

見物に来ていた花朗や朗徒、まだ準備をしている女官達も初めて見るスンマンの美貌に騒いでいた。


伝説となる闘いが始まろうとしていた。

※※※※※※※※※※

善徳女王の用語で記事を一度した方がいいかしら?と思ってます。


善徳女王を見てない方でも楽しんで頂けたらいいなぁ~と思ってます。


意外にピダムとスンマンが【トンマン絡み】だと沸点が一緒なので、この様な流れになりました(笑)

あ、スンマンが体に巻いてた錘は鍛錬用です。
投げつけりゃ痛いだろうけど(笑)


では、次は百人対二人の比才です。
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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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