「最近、物騒な事件が起こってるんですね」
ここは鑑識で、例のごとく米沢さんに話を・・・・・というか情報を聞きにきている杉下さんに、僕はくっついて来てるんだけどね。
ホワイトボードに書かれた被害者は、全て女性。
毎週、女性が殺されて昨日で3人目の被害者が、出たんだけど・・・・・・・
「殺害方法はいずれもバラバラなので、犯人は別だと捜査本部は考えていたのですが」
米沢さんがホワイトボードに向かって指を示しているのに、つられて見ちゃったけど・・・・・
「うぷっ・・・」
被害者には申し訳ないんだけど、ポケットからハンカチを出して口元を覆う僕を見ながら杉下さんがあとを続けた。
「1人目の被害者は20歳の大学生。 絞殺のうえ長かった髪を散切りに切られていました。2人目の被害者は28歳の会社員。 彼女は撲殺のうえ、両目を潰されていました」
「そして昨日の3人目の被害者は、23歳、家事手伝い。殺害方法は刺殺・・・というか致命傷を負わせた深い傷の他に、肌の至る所を切り刻まれていました」
「・・・・・うっ」
話を聞いてるだけで鼻腔に血の匂いがするようで、僕はハンカチを覆う手に力を込めた。
「被害者達は殺された後、それぞれが傷つけられているんですね・・・ 」
僕のつぶやきに米沢さんが「そうなんです」と、声を大きくしちゃってる。
「偏執的な執着に、同じ犯人ではないかと鈴木さんがいわれまして。いやはや、流石ですな」
「そうですか、同じ犯人と・・・」
なぜか杉下さんが嬉しそうに呟いてるのが、気になったんだけど・・・
「1人目の被害者は友達からも髪が綺麗だと褒められていたそうですし、2人目の方は大きな目がチャームポイントだったんです」
「じゃあ、3人目の方は・・・・・肌が綺麗だと」
「はい、その通りです」
「なるほどなるほど、良いところに着眼されましたね鈴木さんは」
「それでですな、鈴木さんが被害者達の持ち物から、ある場所の会員だということに気がつきまして。今、伊丹班が向かっているはずです」
「ちなみに、それってどういう場所なんでしょうか?」
僕の質問に米沢さんが答える前に、僕の携帯がブルブルと震えて着信を知らせた。
ディスプレイを見てみれば、それは愛しい彼女からで・・・・米沢さんに断りを入れて、僕は電話に出たんだ。
「もしもし陽子ちゃん? どうしたかな? 仕事中に僕の声が聞きたくなったとか?」
杉下さんや米沢さんが、呆れたような冷たい視線を向けてくるけど、僕は構わずに言いきった。
『神戸さん・・・・・神戸さぁぁ〜ん・・・・』
「え? どうしたの陽子ちゃん!」
電話から聞こえる君の声が、ずいぶん弱々しくて驚いた僕の声に、他の2人も驚いてる。
『た、たすけて・・・・・わたしっ! 無理ですぅぅ〜〜〜』
「ちょっと、陽子ちゃん?」
【どんどんどん! どんどんどん!】
『早く出て来やがれ! いい加減覚悟決めろや!』
な・・・・なにが起こってるんだよ!
『いいか、お前はなもう逃げられないんだよ! お前の体は、俺のもんだ!』
陽子が、他の男の、ものだと?
男の怒声で震えてる陽子に、俺は今すぐ行くと伝え、詳しく場所を聞いて鑑識の部屋から飛び出したんだ。
『か・・・神戸さん・・・・』
「陽子、今すぐ行くから。 いいか、絶対に俺が行くまでドアを開けるなよ」
『はいっ!』
グスッと鼻をすする音が聞こえるけど、陽子を怯えさせた男に俺は、頭にカァ〜っと血が登るのが分かった。
地下の駐車場に置いてある愛車まで走っていけば、ん? 靴音がする?
「僕も行きましょう」
「では早く乗ってください」
《ブゥゥンン・・・・・・・ 》
アクセルを踏み込んだ車内では、杉下さんがシートベルトをしっかりと握っている。
でもそんなのに、構う余裕が・・・・・・・俺にはなかった。
「着いた、このビルだ!」
地下の駐車場に車を回し止めた俺は、言われた店へと急いで走った。
俺はビルを走りながら、陽子に電話し・・・ 店の奥の試着室にいるという陽子の返事に、その店に飛び込み奥へと進んだ。
【どんどんどん!】
「おら、早く出てこい! お前しかいねぇーんだよ」
長身の男の背中が、1つのドアを叩いている様子に、電話から聞こえた言葉を思い出す。
『お前の体は、俺のもんだ』
冗談じゃない、陽子は、彼女は・・・・・俺の愛しい・・・・・・
俺はなおもドアを叩く男の手を取り、ドアと男の間に体を滑り込ませ、相手を睨みつける。
「無理強いはいくらなんでも、あんまりじゃあないんですか? 伊丹さん」
「おわっ! どこから涌いて出て来やがった!」
「陽子が怯えてるんですよ! いったい何をさせようっていうんですか!!!」
俺の激しい言い方に、伊丹さんの後ろにいた三浦さんと芹沢君が、マズいって顔を見合わせている。
「あ、あのですね神戸警部補・・・これは一応、捜査の一環でして・・・ね、三浦さん」
(神戸警部補が、睨んでますぅぅぅ〜〜〜)
「警部補殿、我々も切羽詰まってるんです。なにしろ特殊な場所でして・・・」
「お言葉ですが、本人の意思を無視しては、どうにもならないんじゃなんですか」
(おいおい、警部補はマジだぞ、どうするよ、伊丹・・・)
温厚な三浦さんにも強い視線を向けてしまう・・・
むろん俺だって彼等が捜査のために、多少強引にではあるけれど陽子にさせようとしてるって事は理解できるよ?
でもだからって、女性のいる更衣室のドアを叩いて脅すようにって、考えられないよ!
「警部補、邪魔しないでもらえませんかね〜〜〜」
伊丹さんの嫌味な声がするけど、俺はニッコリと愛想笑いを顔に貼り付け、片手を制止するように上げたんだ。
「お言葉ですが、彼女をここから出さないと、何もできないと思うのですが」
「おうよ! だから俺がな、こうして言ってやってるんだ!」
またドアを叩こうとする伊丹さんの、腕を掴んでやめさせる。
状況を見ようよ、伊丹さん!
「陽子は、あれだけ人見知りだったんですよ? 伊丹さんの般若顔にもようやく慣れてきたのに、あんなに怒鳴って・・・・・怖がった陽子が俺に電話をかけてきたこと、どう思ってるんですか?」
「だから言ったろ、伊丹! 嬢ちゃんには優しく諭すのが一番だって!」
「そうですよ、先輩! なのにいきなりドアをドンドンやっちゃうし、怒鳴り散らすし・・・女の子が怖がるのも無理はないんですよ!」
「・・・・・・・そんなもんなのか?」
やっと自覚した伊丹さんに、ドアから離れるように言って、僕が変わって陽子ちゃんを出てこさせることになったんだけど。
「陽子・・・僕だよ、分かる?」
「か・・・神戸さんですか?」
「うん、僕だよ。 陽子の顔を見て話しがしたいから、ドアを開けてくれるかな?」
「開けるのはいいんですが・・・・・笑わないでくださいね」
「・・・・何を笑うの?」
「私のことっ! あのっ、今・・・似合わない洋服着てるんで」
「笑わないよ・・・・・・絶対」
その言葉で陽子が少し、ドアを開いた・・・・・瞬間、横から伊丹さんの手が、ドアの隙間に指を入れて無理やり開けようとしたから、俺は。
伊丹さんの手首を掴んで、思い切り外してやったんだ。
見れば後ろから芹沢君が、羽交い締めにして止めてるし、三浦さんは伊丹さんに「お前は馬鹿か?」と呆れてるし。
それより何より! どうしてこういうこと、するかなぁ〜。
「あんた、何を考えてるんだよ!」
「怯えてる子をよけい怯えさせて、先輩いくらなんでもあんまりですよっ!」
「伊丹っ!!!」
「そりゃ、すみませんねぇ〜」
普段、温厚な三浦さんまで怒鳴るもんだから、伊丹さんは向こうに行ってしまった。
「警部補殿、お願いします」
「先輩は僕が押さえておきます!」
「よろしく」
コンコン・・・
「陽子、もう僕だけだから開けてくれるかな?」
「・・・・・・はい」
そっと開き始めたドアの隙間から、陽子の瞳が見えた。
僕は中に滑り込むように入り、ドアを閉じた。
女性客向けに、ホテルのパウダールームばりにスペースをとってあるこの試着室は、壁が鏡になっている。
それ以外にもレースやフリルで飾られていて、可愛らしいものになっている。
「さてと、何を笑わないでほしいのかな?」
ドアに鍵をかけた僕が、後ろにいる陽子ちゃんを振り返れば・・・・・・
ぺたん、と床に座り込んだ彼女が、俯いていてさ・・・・・頭に着けてるレースのカチューシャ?みたいのが見えてるんだけど。
その下には、シフォン素材のベビーピンクのドレスが広がって、脚には真っ白なニーハイソックス・・・・・ふふっ、可愛らしい格好だね。
僕は彼女の前に片膝をついて屈んで・・・・・ 顎に手をやって、彼女の顔をゆっくりと上げていく。
黒のアイラインを強調し、睫毛にもマスカラが付けられてる瞳、ピンクのチークがほんわりとつけられてる頬、同じくピンクの口紅とグロスがふっくらとした唇を彩ってて・・・・・ヤバイ、理性が崩れそう。
ビスクドールみたいな格好・・・・いわゆるロリータファッションに身を包んだ陽子は、息を飲むほど美しい。
でも自信のない彼女は、決して鏡を見ようとせず、似合わないと思い込んでいる所へ、伊丹さんの怒声でパニックになった。
そんな時に、僕に助けを求めて電話をかけてきたんだ・・・・・そのことが、こんなにも嬉しいと思うなんて。
「陽子ちゃん、鏡を見た?」
ブンブンと頭を振る彼女を、そっと抱きしめて・・・耳元で囁くんだ。
「綺麗だよ・・・ ビックリするくらい可愛くて、僕ね、イケナイオジサンになっちゃいそう」
「え? 神戸さん、それってどういう意味ですか?」
「こういうこと・・・・・」
綺麗に塗られたグロスが、果実のような彼女の唇に、僕はかぶりつく。
角度を変え、口内の舌を探し出して絡ませていく・・・そんな深いkissをしながら、横を見れば鏡の中でも僕たちはkissをしているんだ。
まだkissに慣れてない君は、少し長く続きすぎると僕の胸を叩いて、離れてほしい合図をするんだけど。
一旦離した唇を、息継ぎできたと見れば、また塞いで・・・・・それを何度も繰り返す。
腕の中の身体から力が抜けた今、やっと彼女の唇を解放すれば、トロンとした蕩けた目で僕を見上げてくれる。
ねぇ、知ってる陽子ちゃん・・・ その蕩けた顔が、僕にはたまらないんだって。
ねぇ、気がついてる陽子ちゃん・・・ キスの間、僕のシャツを掴む君の手の感触が好きだって。
ねぇ、君の全てが欲しくて熱くなる僕のこと、気づいてほしいな。
トロンとした彼女に鏡を見せて、僕は背後から君を抱きしめて・・・こう言うんだ。
「陽子ちゃん、すごく似合ってるよ。このままデートに行きたいくらい・・・」
「ほんとに?」
「うん、ほんとに! でもどうしてこの格好をしないといけないのかな?」
彼女の話では、このファッションのブランドが主催する【お茶会】に、被害女性達は通っていたんだそう。
参加者達に話を聞きたい伊丹さん達だけど、主催者側からNO!って言われたんだって。
会場にいるスタッフも執事やメイドの格好をさせてるほど、気を使っている会場に、スーツ姿の刑事がぞろぞろ、ウロウロされたら・・・・・
雰囲気なんて、どこかに飛んじゃうもんね。
それでも、どうしてもとお願いしてやっとOKでたのが、女性でしかもこのブランドを着た者だけ、という条件だった。
「最初はスタッフさんの執事の衣装とかを借りようとしたんですが、伊丹さんにNGが出ちゃって・・・」
「そっか、それで陽子ちゃんが? あれ? でもそれならメイドさんで良かったんじゃ?」
スタッフの衣装でメイド服もあるって、さっき話してたよね?
「それが、主催者の方が私を見るなり、コレを着てほしいと渡されまして」
「それで着たんだけど、似合うかどうかで不安になった」
「はい」
くしゅん、とした彼女に僕は微笑んで・・・・・・
「自信もっていいよ! だってあんまり綺麗で可愛いから、後先考えないでキスしちゃったくらいだし」
「神戸さん」
「それに・・・」
「それに?」
「このままお持ち帰りしたいんだもん☆ あ〜〜〜可愛い」
ぎゅぅぅぅ〜〜〜っと可愛い、可愛いと連呼しながら抱きしめてると、ようやく彼女からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「じゃあ、私・・・似合ってるんですね」
「物凄く似合ってるよ!」
「会場で笑い者には・・・・」
「ならない、ならない! それより、他の男に言い寄られないか心配だよ」
「参加者は女性ばかりですよ〜」
「スタッフとか居るだろ? 心配だ・・・・・」
「大丈夫です、私は神戸さんだけですから・・・」
「陽子・・・・・もう、たまんないっっ!」
もう1度、深く深くkissをしたのは、陽子が僕を煽るからだからね・・・・
そうしてkissを堪能してると、控えめにドアをノックする音が・・・・
「あの〜〜〜・・・すみませんが、そろそろ会場に行かなきゃいけない時間なんで、出てきてもらってもいいですかあ?」
芹沢君の声に、渋々・・・彼女を離してドアを開けてると、ガッと外から力任せに開けられた。
って、こう言うことするのは、やっぱり伊丹さんか・・・
「おら、早くしろよ! 警部補に慰められて行く気になったんだろう?」
・・・・・・この人は!!!
「お前も捜査一課の端くれなんだからな、ちゃんと給料分の仕事はしろよ!」
陽子ちゃんがいつサボったりした? いつも熱心に臨場して、鑑識作業で徹夜だってしてるじゃないか!
「お前は俺ら伊丹班の一員なんだからな、俺のいうこと聞いてキリキリ動きやがれ。お前の体は俺のもんだ!」
そのセリフ、もう我慢できない!
「お言葉ですが伊丹さん。そもそも陽子ちゃんの役割って科学捜査ですよね? こういう風に変装して捜査するなんて、彼女の仕事の範疇を超えています」
「なんだと?」
「しかも!この場合、彼女の協力なしには今からの情報収集も出来ないし、捜査も手詰まりですよね? じゃあ、こういう場合どういった態度で彼女に協力を要請するのが正しいとお思いですか?」
「うっ・・・・・・・」
言葉につまりのけぞる伊丹さんに、芹沢君が・・・
「先輩! 先輩の態度が酷いから、警部補が怒っちゃいましたよ! 見てください、あの目! マジで怖いっす!」
「伊丹! 俺もお前の嬢ちゃんに対する態度があんまりだと思ってたんだ」
「三浦さんまで・・・・・・ なんでぇーなんでぇー・・・ええーえ、どうせ俺が悪いんですよ〜」
「あと、彼女のことで訂正してほしい言葉があります」
「はぁ? なんでしょうかね〜」
「お前の体は俺のもの・・・・・これって恋人の僕には聞き逃せない言葉なんで、二度と言わないでもらえますか?」
「へいへい」
「彼女は、僕のものですから」
「なっ!」
ニコリと、笑顔を見せた僕は、陽子ちゃんのメイクを直してもらいつつ、ここの店長さんにコッソリ耳打ちしちゃうんだ。
「すみません、彼女が今着ている服も靴も全部、買い取ります」
「ありがとうございます」
「それと・・・ あのピンクに黒のストライプとバラ模様のドレスと、ベビーブルーのアレも、彼女のサイズのを下さい。お会計はコレで」
クレジットカードを出して素早く会計した僕は、追加したドレスを紙袋に入れてもらったんだ。
すると、店長さんが・・・・・・こっそりと耳打ちしてくれたんだけど。
女性客に人気のスタッフ、バイト君が執事としてお茶会の世話をしてるんだけど、その大学生の男子。
手が早くて社員の間でも問題になってるそうなんだ。
でも、お茶会に参加してる女性達はほぼ、彼目当てだから、辞めさせたくても辞めさせられないんだそうだ。
「それで彼女・・・鈴木さん、絶対彼に狙われます。こんなに綺麗で我が社のドレスが似合う娘、初めてですから」
「あの、彼氏さんですよね? 良ければ・・・・・」
良ければ、執事服を貸してくれるから、陽子ちゃん専属のスタッフとしてお茶会に出てはどうかと、提案してくれたんだ。
返事はって? 答えはもちろん!
「ありがたく使わせていただきます」
僕は執事服を受け取り、着替えに試着室へと向かったんだ。
お茶会って、僕の想像だとてっきり喫茶店でも借り切って行われるんだと思ってたんだけど、まさかここまでとは。
ガーデンパーティーができるホテルを借りて、庭で歓談もできるし、中で料理やスィーツに紅茶なんて優雅に楽しむこともできる。
で、俺の仕事はというと・・・
「このお嬢様は陽子さんです。 本日はこのお茶会で新作のドレスの宣伝をしてもらいます。彼は陽子さん専属のお世話係の神戸さんです」
そう店長さんからのお達しで、他のスタッフが「はい」と返事してるんだけど、僕はにこやかに挨拶をしながら『問題の彼』を探してるんだ。
ああ・・・・・彼かな?
相馬 秀人、某有名大学の生徒で他の執事たちより整った顔をしている。
「え〜・・・俺らは陽子チャンと話も出来ないんですか? 」
「そうよ、さあ、時間です。 あなた方はお嬢様たちに仕える執事とメイドです。お嬢様方をしっかりとお世話して下さいね」
店長さん、しっかり釘を指してくれてるな。
ということは、やっぱり今話したのが・・・・相馬か。
「でもどうしてお茶会なんて、会社は服飾ですよね?」
「我が社の製品は品質もデザインも自信をもってお勧めできるものですが、少々お高くて。 こういうお茶会を催して他社よりも付加価値を持たせてるんです」
そういうことね。
こういうお茶会に招待することで、売り上げUPに繋げてるんだ。
さ、お嬢様方の登場だ。
僕は陽子ちゃんの座る斜め後ろに控えて・・・・・くすっ、緊張してる。
後ろから肩に手をおいて・・・・ こっそりと耳に囁くんだ。
「心配しないで、陽子ちゃんは綺麗だよ・・・・・とってもね」
「神戸さん・・・」
「僕がついてるから」
嬉しそうに微笑む陽子ちゃんに、紅茶でも入れようとポッドを探せば・・・・・・・
「あの陽子ちゃんって娘、神戸さんのお手つきですか?」
「・・・・・・君は?」
「俺、相馬です。 いやぁ〜・・・あの娘、俺のタイプなんですよね〜」
「残念でした、彼女は僕の恋人だ」
「そりゃ、残念・・・」
ヘラっと笑った相馬は、そのままお茶会に参加しに来ている女性の方へと行った。
☆☆☆。。。
えっと、私は参加者から被害者の事を聞きだすんだよね。
確かこのお茶会用のネームがあって・・・
「アンジュさんに、リリーさんに、アリスさん・・・だったかな」
どんどん入って来ている人の多さに、くじけそうになりそうな自分を奮い立たせる。
被害者達の無念を、はらさないと・・・・それには聞き込み聞き込み!
すでにソファーに座っている私に、皆が同じ表情で見てるんだけど・・・・・
えっと、こういう場合は・・・・・・・笑って誤魔化そう! うん、そうしよう!
ニコッと笑った私に、何人も笑い返してくれたことで、少し落ち着けたけど、まだ遠巻きに観察されてます、私。
どどどど・・・・・どうしよう。
近づかなきゃ話なんて聞けないよ〜。
笑顔のまま、ジワリと汗ばむ自分を感じながら・・・えええい、ままよ!!!
「ご・・・ごきげんよう」
ニッコリと笑いながら挨拶すれば、待ってましたとばかりに何人もの参加者が、すごい勢いでソファーに突進して来てしまった。
(ひぃぃ〜〜〜・・・おっ、お助け〜〜〜)
勢いに呑まれて逃げるために腰を浮かせた自分を、必死に止めた自分を、私は褒めてあげたい。
「あのっ、初めまして! このドレス、新作ですよね! すごくお似合いです」
「カタログにも載ってないし、本店でも見たことないですね・・・・でも可愛い〜」
「立ってもらってもいいですか? 後ろとかも見てみたいんです」
ドレスが見たいんだ、私は立ち上がって後ろも見えるように、その場でクルリと回りました。
「「「きゃぁあ・・・ 可愛い〜・・・ビスクドールみたい〜」」」
右に左に、回ってくれと頼まれるままに、クルクルしてたら・・・ありゃりゃ、目が・・・目が回っちゃうぅ〜 。
フラッと揺れてしまった私が、バランスを崩した時、私を抱きとめてくれたのは・・・・・神戸さんの、匂い。
「お嬢様、目眩がされたのですか? 少しお転婆が過ぎますよ」
そっと、ソファーに座らされた私の膝にハンカチが置かれ、手には紅茶のカップとソーサーが差し出されていた。
「陽子お嬢様のお好みのミルクティーでございます。 少しぬる目にしてありますから」
「ありがとうございます」
神戸さんの完璧な執事っぷりに感嘆していれば、横からも似たような声が・・・
横を見れば、うっとりとした彼女達の瞳がハート形になっていた
「素敵な執事さん〜〜〜」
「新しく入った方ですよね? 誰か決まった方がいるのかな?
「まだなら私、立候補しよ!」
「あなたは相馬さん一筋なんでしょう?」
「それはそれ、これはこれ、よ!」
「現金〜〜〜」
「あの〜・・・こちらの参加者でアンジェさんて知ってらっしゃいますか?」
おずおずと話しかけてみれば、彼女達の目が爛々と輝きだして・・・・・
タイミング良く神戸さんが彼女達に紅茶を淹れて、マカロンなどのお茶菓子も出してくれたため、盛り上がってくれました。
「陽子お嬢様は人見知りなんです。 あなた方のような優しいレディーに話し相手になっていただければ私も嬉しく思います」
「「「きゃぁああ〜〜〜」」」
「どうぞ、ごゆっくり」
「「「はい!」」」
「アンジェさんについてお聞きしたいんですが・・・」
「「「何でも聞いてね!」」」
本当に何でも教えてくれた彼女達の話しを、いっぱい聞いたあと彼女達は他の人達にも挨拶に行くと離れて行った。
ホッと一息つけば、また違う方が横に座ってきて・・・・あれ? 執事の服を着ている?
「こんにちは! 俺、相馬秀人って言うんだ。 君は陽子チャンでしょ?」
「はい・・・・・あの?」
「あんまり君が可愛いから、話しがしたくなっちゃってさ。 神戸さんは違うお嬢様に捕まっちゃってるから、いいでしょ?」
ソファーに座った相馬さんが、座り直すたび2人の距離が近くなっていくのが、嫌なんだけど。
話しの中で度々出てきた本人を目の前にして、私は緊張しながら話しを聞こうとしたんですけど・・・・・???
何故か相馬さん、私の顔をじっと見ているんです。
何かついてるんでしょうか?
あんまり長くみられるものだから、私はその場に居たたまれなくなって神戸さんを目で探す。
「ふぅ〜・・・・見れば見るほど、可愛いなぁ〜・・・・・」
「は?」
「君みたいな娘を、ずっと探してたんだ・・・俺」
そう言う相馬さんは、きっとこうやって女の子を口説くんだろうな・・・・って、そうしたら私、いま口説かれてるんですか?
「大人しいんだね。 無口な娘ってなんだかミステリアスだよね・・・」
「これ俺の携番! メアドも書いてあるから連絡してね☆ じゃ、執事に戻るよ」
ウィンクをして席を立つ相馬さん。
・・・・・・・・・タラシって、こういう人のこと言うんだろうな。
私は固まったまま何も言葉も反応も出来なくて、私にはちゃんと恋人がいますと言えば良かったと後悔してたんです。
すると、目の前の冷めた紅茶が引っ込んで、温かいものと代わった。
それは神戸さんで・・・・・
「疲れたろ? 温かい紅茶でも飲んで。 もう少しでお茶会も終わるからね」
温かい気遣いもしてくれて、私は嬉しくて・・・・・・微笑んでた。
「ありがとうございます、神戸さん」
「どういたしまして☆」
温かい紅茶で、心がほんわりと和らいでいくのがわかります。
ふぅ〜・・・ふぅ〜・・・ 最後まで美味しくいただけました。
お茶会が終わり執事服を脱いでスーツに戻った僕を見て、自分も着替えようとした陽子ちゃん。
「あれ? わたしの服って・・・・」
「ここにはないよ! 似合うんだからもう少し、着てなよ」
「え? このままですか?」
「くすくす・・・・・」
慌てる彼女が可愛くて、ちょっと意地悪しちゃった☆
「大丈夫! 僕の車に積んであるから。さ、行こうか!」
あの店で買ったコートを彼女に着せて、会場を出ようとしていた僕達。
伊丹さん達に仕入れた情報を教えるため、警視庁に戻る僕達の前に、相馬君が1人のお嬢様に捕まってるのに出くわしたんだ。
「相馬さん、これから一緒に食事でもいかがですか?」
「ん〜〜〜・・・どうしようかな?」
「相馬さんの好きなイタリアンのお店、予約してあります! 私にご馳走させて下さい」
「ま、予定もないし・・・・・・いいよ」
「良かった!」
連れ立って行く2人を眺めて、僕達も歩き出したんだけど・・・・・そのとき不意に女性の方が、振り向いて僕達を見たんだ。
その目が、余りにも冷たくて・・・・・・気になった僕は、ちょうど前を通りかかったスタッフに彼女の名前を聞いたんだ。
「彼女ですか? お茶会ネームは白雪、本名は和田 由紀子さんですね」
和田 由紀子・・・・・か。
彼女の目は、陽子ちゃんを見ていた。
冷たくて、憎悪に満ちた目で、陽子ちゃんを見ていたんだ。
何かが起こるような、嫌な予感がした僕は、陽子ちゃんを抱き寄せていた。
彼女は、僕が守る。。。
つづきます。
私もあと、25年、若かったら・・・・・・可愛い格好してみたいぃぃ〜〜〜(笑)
そんな私の妄想から始まりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
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