④月に照らされ、陽に焦がれ……

※※※

トンマン公主とミシル宮主が座り、銅鑼が鳴り響いた。

「では、比才を開始する。ソクプムとピダム、前に出ろ」風月主(花朗の統率者)ユシンの力強い声が二人を呼んだ。

「使うものは此方で用意した。どれも自由に使ってよい」
「はい」
「花朗道に則り、正々堂々と闘われよ!」
「はい」



「あの男……何処かで見たような……」ミシルが呟いた。

「ミシル宮主も見物に来られるとは思っていませんでした」トンマンが話しかけていた。
「ええ……私も原花(ウォンファ=花朗の女性統率者)ですから、比才と聞くと血が騒ぎました」ほほっと笑いながらも、目は笑ってなどいないミシル……
気にかかるのか、トンマンから直ぐにスンマンへと視線を移していた。

トンマンもつられるように練武場に視線を移す。

百人の朗徒を見て、トンマンはスンマンの言葉を思い出していたが………心配だった。

「どうか、スンマンもピダムも無事で」
両手を握りしめ不安気に二人を眺めると………
ピダムと肩を組んだスンマンが、満面の笑顔でトンマンに手を振っていた。

ピダムが、そんなスンマンに気づいて同じ様に……いや、より大きく、両手で、トンマンに手を振ってくる。

その二人の緊張感など欠片も見当たらない様子に、トンマンは気が抜けた。

「あの二人~!」


トンマンが心配するのも馬鹿馬鹿しくなった頃、当の二人は気楽だった。

「数が多いと鬱陶しいな……」
ピダムが呑気に言うと……
「ま、一撃で動けなくしていけばいいさ」スンマンはけろりと答えた。
「一撃で……か?」
「ああ……骨か筋を絶てば動けないし、鳩尾を突けば気絶する……それを押してまで闘うような気骨のある奴などおらんだろ?」スンマンの瞳にまた蒼い火柱が立っていた
ぺろりと唇を舐める様が妖しくて。

「お前、蛇みたいだな……」ピダムが珍しく人に構っていた。
「ああ、血が騒ぐとでる癖でな……嫌か?」僅かにスンマンの顔に哀しみの影が落ちた。
「別に」
「……そうか」

※※※

ソクプムは百人の朗徒を揃え、意気揚々と練武場へ姿を現した。

が、一向にピダムも無礼な男も焦る気配もない。

「あいつら馬鹿か?」ソクプムは自分の勝利を確信していた。


この前の風月主比才ではピダムに呆気なく負けたが、今度はそうはいかぬ!

「この人数だ……俺がピダムの鼻をへし折ってやる」隣にいるポジョンに話しかけたソクプムだが、興奮のあまりポジョンの様子がおかしい事にも気づいていなかった。

ポジョンの目線の先には、スンマンがいた。

ピダムと肩を組み、公主に手を振っている………笑顔が眩しかった。

ピダムと親しげに話しているスンマンが……みるみる昨夜の様に変貌していた。

その妖しげで、鮮やかな美貌に釘付けになったポジョンだった。

また銅鑼が鳴り響いた。

試合開始の合図だ。
※※

「行くか」
「ああ」


風月主が用意した木刀を持ってピダムが構えると、スンマンも木刀を持った。

ぶぅぅん……ぶぅぅん……何気なく振り回しても空気を切り裂く音がする。

ピダムとスンマン………共に手練れであった。

スンマンの両手にはそれぞれ木刀が握られていた。

「お前、二刀流か!」横を見たピダムが驚いていた。
「ああ……私は剣も、存在さえも異質なんだとさ………」
遠い過去の出来事を思い出したスンマンは、哀しげに微笑んだ。

だが、ソクプムの朗徒が二人を囲むとスンマンの顔が哀しみから妖しげな美貌へと変わっていた。

「行くぞピダム!」
「おう!」

※※※

二人の木刀を一度でも受けた朗徒は、痛みでうずくまり動けなくなった。

手当たり次第、鬼神の様に薙ぎ倒して行く二人に見物している花朗達が驚愕していた。

「何だ……あの強さは……」
アルチョンも例外ではなかった。

ピダムが強いのは分かっていた。
だが、あの背は高いが何処か線の細い印象のスンマンが此れ程とは………

「うう~~む……」
純粋に強い相手と勝負をしたくなった……武人の魂が騒いだアルチョンだった。


ピダムとスンマンは互いを背にして前の相手を倒していた。
息のあった動作でお互いの場所を移動し、次々と朗徒を倒していく。

百人もいた朗徒は、もういくらも立っていない。

そんな………馬鹿な………あいつら……人間か?」ソクプムの顔が、勝利を確信していたものから敗北を予感するものへと変わった。

だが、まだ終われない………さすがに疲れてきた二人の隙を伺う。

ちょうど倒れた朗徒が、倒れながらも必死でピダムの足を打った。

ピダムが痛さに片膝を着き、つい顔を足に向けたその時……隙ができた。


今だ!! 自棄になったように突き進んだソクプムの木刀が、ピダムの頭に振り下ろされる。


渾身の力で振り下ろされる木刀の前では、頭も西瓜も変わらない………割れて砕けるのみ。


※※※

「ああっピダム!!」
トンマンがピダムの後ろから迫ったソクプムを見て、思わず声が出た。


「おお!!あの男……」
ミシルは背後の異変を感じとり振り返ったスンマンが、咄嗟に出した木刀を見ていた。

ソクプムの木刀を弾き飛ばし、もう片方の木刀でソクプムの胴を払った………が、避けようと捻ったソクプムがスンマンの右肩を打った。

「くぅっ~………」唇を噛み、声を押し殺してはいるが相当な痛みに顔を歪めている。

「おい!」
「大丈夫だ!」
「でも」
「大事ない!!あと少しだ、やってしまうぞ」
「……分かった」


ピダムが豹変した。
獣の様に速く鋭く、残っていた朗徒の一人まで叩き倒した。

「残ったのはソクプム~~………お前だけだな」喉元に木刀を突き付けピダムが面白そうに笑っていた。

「トンマン公主様に……謝罪しろ」右肩を押さえながらスンマンが言った。

「それとも……いっそ殺すか?」
「それもいいな……」


くっくっくっ……
へへへっ………
笑いあう剣鬼達にソクプムは、心底ぞっとした。

「あ………謝る、謝るから……許してくれ」
膝ずいたソクプムをトンマンの方へ向かせたピダムは、早く言えとばかりに木刀で突っついた。

「トンマン公主様、昨夜の私の言葉をお許し下さい」
額を土に擦り付けて詫びたソクプムだが………反省なんぞしていなかった。

土を投げて攻撃に移ろうとしたが、スンマンに避けられ呆気なく鳩尾を突かれ気絶した。


ピダムとスンマンが勝利した。

風月主ユシンの勝利宣告を受けたピダムが、スンマンと共に前に出てきた。


「今日のお前達二人の闘いが、花朗達の伝説になるであろう」ミシルがその場の誰より先に言葉を発し、誉めていた。

獲物を見つけた肉食獣のように目をぎらり、と輝かせて……

「勝利を祝い、今宵は宴を用意致します。トンマン公主様もご出席いただけますよう……」
恭しく場を仕切ったミシルにトンマンは出遅れた!と感じた。

「ありがとうございます」
ここまで仕切られたら口の挟みようがなくなったトンマンだった。

「ほほほっ」
ミシルの機嫌良さげな笑い声が、場を支配していた。

※※※

「ポジョン、薬を持っていってやりなさい」
ミシルが手招きした息子ポジョンに命じた。

「あの、スンマンという者……肩が腫れているだろう……我が一族の秘薬を使えば一刻で腫れがひく」
「分かりました。直ぐに届けます」
「ああ……それと……」
「はい、母上」
「あのスンマンを私の宮に連れてきなさい……宴の後でな」「はい、母上」
ポジョンが薬を取りに駆けていった。


ミシルは壇上のトンマンを見た。
もう一仕事しなければ……ミシルの片眉が上がった。


「スンマン大丈夫か?」
トンマンが心配気に声をかけた。
「心配いりません」
「だか……」
「公主様……大丈夫です」にこり、と優しく微笑むスンマンだが……

後ろから、ぐっ!と右肩を掴まれた。

「ぐぅふっ!」悲鳴は上げなかったスンマンだが、痛みに汗が滴ってきた。

スンマンは、肩を掴んだ手を捻あげた。

「いてて~参った!どんな状態か触っただけだよ~」ピダムだった。
「………」ぎりぎりと尚も無言で捻あげるスンマンに、ピダムが治療したいと申し出ていた。

「俺、師匠に医術も仕込まれたんだ……治療させろよ」

「………断りを入れてから触れるのが礼儀だろう」

「いててて………悪かった!手を離してくれよ~」

ふいにミシルが近づいてきた。
「一先ず私の宮へ来られませんか?」ミシルが誘うが………トンマンは頭を横に振った。

「ミシル宮主の申し出はありがたいのですが、私の宮で手当し休ませます」
「そうですか……では、ポジョンに薬を届けさせます。一刻もあれば腫れが引く我が家門の秘薬です」無理だと思えば直ちに引く……後に繋げれば、それで良いわ。
さっと席を立ち、ミシルが退場した。


トンマンもスンマンを気遣いながら自分の宮へ帰った。


※※※

「見せろよ」
「嫌だ!」
「さっきは悪かったって……でも大分腫れてるし、熱も持ってる………治療してやるよ」
師匠仕込みの医術の、腕は確かなピダムがスンマンに食い下がる。

「はぁ~…しつこいぞ!………分かったから、しばし待て」
「何で?」
「……あ、ピダム!そうだ、お前も足を怪我していただろう……先に自分の治療をしておけ」
トンマンが少々わざとらしいがピダムを部屋から出そうと声をかけた。

が、一向に動かないピダムに焦れた。

「アルチョン殿!」
「何でしょう、公主様」呼べば来る来る、飛んで来るアルチョンだった。


「ピダムを宮医に診察させて下さい。………その後、スンマンの治療をするよう宮医を連れてきて下さい」

「はい、公主様」
「わっ!離せよアルチョン………俺が診てやるんだって」
「有り難くも公主様の言いつけだ!先にお前が治療するんだ」

ピダムを引き摺ってアルチョンが部屋を出ていった途端、スンマンの顔が苦痛に歪んだ。

「我慢していたのか……」
「チョンソに私の着替えを持って来させて下さい」
「着替えるのか?」
「血が付いた服では姉上に失礼ですから……」朗徒達と闘った後が血の染みになって服に、ぽつぽつと付いていた。
「分かった……チョンソ」
控えていたチョンソが頷き消えた。

すぐに着替えを持って現れたチョンソが、スンマンの着替えを手伝った。

腕が上がらぬスンマンの上着を、一枚一枚脱がしていくと………露になった両肩の右側が赤黒く変色して、腫れ上がっていた。


服を着ていた時は男性に見えても……鍛えられたしなやかな躯とはいえ……確かに胸に女性の膨らみもあった。

朗徒だったトンマンがそうだったように、しっかりとサラシで巻かれてはいたが………

「スンマン!」
トンマンが思わず声を出すほど、スンマンの右肩は赤黒く腫れていた。

「俺が治療してやるんだ」
「まて、公主様の命が聞けんのか~」

ピダムとアルチョンが縺れ合いながら部屋に飛び込んで来たのは、そんな時だった。

「お主は………」
「お前………」

アルチョンとピダムが目の前の光景に固まったとき。

開きっぱなしの扉からポジョンが顔を出した。

「薬を届けに参り………」ました。と言葉が続かなかった………

ポジョンも呆然と露になったスンマンを眺めていた。


「女?………」


深い溜め息が響いた………スンマンだった。

「ピダム、そこの男から薬を貰って治療してくれ」
「ああ………」


「他の者はどうする?」
にやりと笑うスンマンの目が悪戯っ子のように輝いた。

「これ以上見たいなら、見料とるぞ!」
「ぷっ………お前、金取る気か?」いち早く立ち直ったピダムが治療を始めた。

「いや……失礼した!」
アルチョンとポジョンは揃って部屋から 出ていった。

扉の前で、二人共に今見た光景を思い出していた。

二人共に………頬が赤くなっていた。

「………女か」
「……女だった」

しばらく呆然と扉の前で立ち尽くす、男達だった。

※※※
ポジョン壊れたみたいです(笑)
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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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