⑤月に照らされ、陽に焦がれ…

※※※※※
「それにしてもよ~」ピダムが酒で傷を消毒しながら聞いてきた。
「なんだ?」
「お前、何でそんな格好してんだ?」
「男の服か?……」
「ああ……」
「…………」
「私も聞きたい。何故だ?」好奇心からかトンマンも聞いてきた。

自分の場合は出生を調べるため、やむを得なかったのだ。

だが、………スンマンは聖骨【ソンゴル=両方とも親が王族で王位継承の資格がある】という立派な出自だ。
わざわざ男の格好などせぬともいい。
何か深い訳でもあるのだろうか………


「私の趣味です」にやりと笑い、堂々と言うスンマンに……真剣に聞こうとしていたトンマンが呆れてしまった。


「ふふっ……私は動きやすさが優先なのです……そうしたら男物が一番なんですよ。  ……しかも、こんな背の高い女物の服など金がかかって仕方ありません!」
「だが、スンマン。いつも男の服ばかりなのか?」……公主なのに……と口から出そうだったが慌てて飲み込んだトンマンだった。
……ピダムがいたのだ、まだ7日たってはいない。約束は守らなければ。


「公主様は見たいのですか?………私の女装を……」瞳を輝かせてトンマンをからかうスンマンに、はぐらかされてしまった。

「まぁ~よい、いずれ話してくれ」トンマンはわざと話を終わらせた。


スンマンが話したくなければいい、いずれ話してくれるだろう………無理強いするトンマンではなかった。


「……所で、この薬使うか?」ピダムがミシルからの薬を持っていた。

「そうだな……使えそうか?」
薬の臭いを嗅いでるピダムが、うん!と頷いた。
「毒は入ってなさそうだ」
「じゃ、使ってくれ」

ぬりぬり……ぬりぬり……ピダムが布に膏薬を塗っていると、興味津々でトンマンも側に寄り見ていた。

「秘薬と言っていたな……どんな感じなのだろう」くんくんと鼻を近づけ、臭いを嗅ぐトンマン。

ピダムの手元にトンマンの顔があり、常より近い距離に鼓動が跳ね上がり……ぎこちない動きになるピダムだった。

「公主様………お顔にかかります……」余りに近付きすぎるトンマンにピダムが注意を促す。
「そうか?」そのまま、くるっとピダムを見上げて笑うトンマンに、ピダムの動きが止まった。

「な………何が、入ってる…か、わ……分からないん、で……ですから」
どぎまぎと変に区切って話すピダムに、後ろのスンマンが笑っていた…………腹を抱えて。


「分からないから知りたいのだ」
「スンマンに貼れば効くかどうかは分かります」ピダムが横目でスンマンを見ていた。  先程笑われた事もしっかり根に持ったピダムだ。
「それもそうか」
「残りを調べたら大体は分かると思いますよ」
「なら早く貼ろう」


「……本当に大丈夫なのか?」二人の会話に微笑みながらも、ちと不安になったスンマンだった。


※※※

「宴の用意が整ったそうです」チョンソが知らせに来た。

「分かった………スンマン肩はどうだ?」心配そうなトンマンがスンマンを見た。
「秘薬というのは本当ですね………一刻(約二時間)で腫れが引いてきました」肩をゆっくり回しながら具合を調べるスンマンだが……
「おい! まだ痛みもあるから無理すんなよ」ピダムが注意した。
「ああ、分かってる」
「では、行こう」
「はい、公主様」

扉の外にアルチョンが居た。
トンマンの側により一礼する。
「宴は楼閣でするそうです……ミシル宮主がお待ちです」
「そうか、行こう」
トンマンを先頭にピダム、アルチョン、スンマンが続く。


「傷の具合はどうだ?」アルチョンがスンマンに尋ねた。
「だいぶ良い。……まだ剣は持てそうにないがな」
にこり、と笑ってスンマンが答えると、アルチョンがほっとしたように笑った。

「そうか。ならば傷が回復した暁には、私と手合わせしてもらいたい」
「ああ……いいぞ」
「そうか、良かった」アルチョンの顔が綻んだ。

「比才を見ていてな、お主の強さにどうにも剣をぶつけてみたいのだ」
「約束しよう。怪我が治れば直ぐにな!」

晴れ晴れとした顔のアルチョンが、トンマンの後ろに行った。

※※※

宮殿の高台に造られた楼閣は、いつもはガランとしているが今日は違った。


紅い敷物がひかれ、立派な長机がいくつも運び込まれていた。

長机の一つは足が長く椅子で座るようになっており、その他は低い……どうやら偉い方々も来られるのか。
用意をしている女官達が噂していた。

ミセン公が指示を出しているので、ミシル宮主が来るのかも……女官達は、そう噂して余計に抜けた所は無いか神経を使った。

長机には色とりどりの料理が、所せましと並べられている。

「はぁ~はっはっはっ」ミセンがいつもの高笑いと共に入ってきた。

「良いか! 料理も酒も、たっぷりと用意しろよ……ミシル璽主に恥をかかすんじゃないぞ………どんな恐ろしい事になるか」孔雀の扇を振りながら細かに見ていたミセンが満足気に頷いた。

「これならば、我が姉上も御満足頂けるだろう」

「さて、用意ができたと知らせに行くか」ばたばたとミシル宮へと急ぐミセンだった。

※※※

「公主様の御越しです」

トンマンが楼閣に着くとミシルも、他の皆も、立ち上がり待った。

トンマンが上座に座ると皆が礼をとり、座る。

アルチョンはトンマンの後ろに控えて立ち、スンマンとピダムは揃って花朗達の席へと行った。


足の長い机には……トンマン・ミシル・ミセン・ソルォン・ユシン・が座った。

「皆の者、……此度の宴は昼間の比才に、感銘を受けたが為に開いたもの。」ミシルの声が楼閣に響いた。

「花朗の伝説になろう比才の勝者を讃えようではないか」ミシルの言葉に花朗達が唸りを上げて賛同した。

宴の始まりだった。
隣同士の者、向かい合う者、皆が酒を注ぎあい飲みあった。
幾つもある低い長机には、ソクプム以外の花朗達が座っている。

「主役が下座では格好がつかないぞ」ポジョンが空いている上座に、スンマンとピダムを連れてきて座らせた。

「すっげぇー、ご馳走だな」好物の鶏肉を見つけたピダムが興奮していた。
「そういえば腹が減ったな……」
「お前、何喰う?……右手使えないだろ?」
「左がある」
「遠慮すんなよ……鶏肉旨そうだぞ」ピダムの手が伸び、スンマンと自分の前に炙った鶏肉が山と積まれた皿を持ってきた。

「皿ごと喰う気か?」
「……ひょりにゅく……ふぉーぶつな……」すでに口一杯に鶏肉で満たしたピダムが、何か言っているが……

「鶏肉が好きなのか……分かったから喰え。酒も注いでやる」思わず右手を使おうとして、眉をしかめたスンマンが左手で酒を注いだ。
「ひゃいびょーぶか?」
「大事ない」にこりと笑って自分の盃に酒を注ごうとした手を止められた。


「私が……」ポジョンだった。
スンマンの隣に座り込んだポジョンが料理を見回し聞いてきた。
「何か好物はありますか?……取りますが」
「そうだな……あれとそこの蒸し物を」遠慮もせずに取らせているスンマンに周りの花朗達が驚いていた。
「何故ポジョンが世話をやく?」
「ソクプムはポジョンの腹心だったのに」
「変だな……」
ざわざわと、騒がしい花朗達などお構い無しに、ポジョンは嬉しそうに世話をしていた。


「次は何を取りましょう」
「ははっ……私はそんなにがつがつ食べれませんよ。 ……ピダムと違って」山のようにあった鶏肉が、もう半分も骨だけになってきた。
「さ、どうぞ」空になった盃に酒を注ぐポジョン……スンマンが訝しげに見詰めていた。
「………ポジョン殿も、どうぞ」
二人、何を話すでもなく酒を飲んだ。


その様子を影から見ていた者がいた。
ソクプムだった。

陰湿な目に憎悪の光を湛えて、スンマンとピダムを見ていた。

昼に終わった比才から宴が始まる夕刻までに………他の花朗達からの嘲りや嘲笑、陰口を散々浴びせられたソクプムは怨んでいた。
「くっそー……彼奴ら許さぬ。恥をかかせおって……」
喧嘩を打った原因が、自分の軽口に在ることも忘れてソクプムが唸るように言い続けていた。
「絶対に彼奴らに恥をかかせてやる!」

※※※

「宴の主役の二人に祝いを述べたいのですが……」ミシルがトンマンに許しを請うように切り出した。
「私も二人と話したいと思っていました」トンマンが頷くとアルチョンより早く、ソルォンが動いた。

「二人を呼んできましょう」ソルォンが目配せすれば、ポジョンがピダムとスンマンを連れてきた。
二人はユシンの隣に、ポジョンはソルォンの隣に座った。

「薬は使われましたか?」ミシルが聞いた。
「有難うございます。お陰で大分、楽になりました」スンマンが礼を述べた。
「それは良かった」ミシルが微笑みながら満足そうに頷いた。
酒を片手にスンマンの隣にきたミセンが扇で口元を隠しながら……
「我が家門には色々な秘薬がありましてな……はぁ~はっはっはっ!女をものにする時に効く秘薬もありますから、必要な時は私に言って下さいね」ミセンが扇を振りながら、自身では小声のつもりでスンマンに話した。

「……ミセン殿!公主様の前ですぞ」ソルォンが眉をしかめたミシルを見て、たしなめた。


「ふふっ……その時はミセン公に相談に参ります」スンマンが愉しそうに笑った。
紅い唇が弧を描き、切れ長の大きな瞳が悪戯っ子のようにきらきらと輝いた……牡丹の花が咲き誇るように艶やかだった。

すぐ隣にいたミセンが口を開けて見惚れていた。
「さ……酒を…どうぞ」直ぐに我に返って酒を注ぐ。
「スンマン殿、今度私と出かけませんか?」
「ミセン公……何処へでしょうか」
「楽しい場所へ、ですよ!」こんな美男を連れていけば店の女達が色めき立つだろう……既に行く店も二つ、三つ決めていた。
「楽しい場所……行ってみたいですね」
「きっとですよ。約束しましたからね!」スンマンの色よい返事に上機嫌なミセンが笑いながら席を立って行った。

※※※

「今更だが、どうして比才になったのだ」トンマンが二人に尋ねた。
「公主様……」ピダムとスンマンが顔を見合わせた。
「ピダム……話してなかったのか」ユシンが驚いてピダムを見た。
「スンマン殿が話しているとばかり……」ばつが悪そうにピダムが言うと。
「私が悪いのです、風月主。……公主様に心配かけたくなくて比才も今朝、話したのです」スンマンがトンマンに頭を下げた。

「申し訳ありません……ソクプムという花郎に辱しめられ我慢ならず私が比才を申し込んだのです」スンマンが経緯を話すと、ピダムもトンマンを見て頷いている。


「公主様の事を言ったそうです……だが、軽率だとは思わないのか?」ユシンがゆっくりと二人を見ながら言うと、スンマンが真っ向からユシンの眼を受けた。
「軽率だった。それは認めよう……だがな風月主、我が主君を嘲られ大人しく出来るほどに……私はまだ年寄りではない。 ……その場で剣を抜かなかった事を褒めてほしいな」にやりと笑ったスンマンがピダムの肩に手をかけた。
「私と同じ短気な奴もいたからな」
「俺か?」
「お前だよ」
二人が高らかに笑いあった。


その様子にユシンとアルチョン、二人が顔を見合せ頭を痛めた。

何をするか分からない無鉄砲な者が、ピダムともう一人増えたのか………二人の目が語り合っていた。


「つっ………」つい動かした右肩が痛むのかスンマンの顔が、痛みに歪む。
「そらみろ! 痛むから気をつけろって言っただろ」
「ははっ……つい、な……ほら、鶏だ。好物だろ?」
「お前も喰うか?」
「ああ……」スンマンが左手だけでは上手くむしれずにいると……
すっと手が伸びてきた。


「ポジョン殿……すまぬな何度も世話をかけて」
いつの間にか隣に来ていたポジョンが鶏をむしり、料理も幾つか取っていた。
「先程と同じ物を取りました。他に食べたい物があれば取りましょう」
「これで十分だ、ありがとう」
「いえ……」ポジョンが嬉しそうに笑った。



ミシルがそんなポジョンを、じっ……と見ていた。

※※※※※
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Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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