【月が輝き、調べが響く】

スンマンが新羅に戻って、トンマンと会うまでのお話になります。

ヨムジョンとスンマンの関係を補足したくて書きました(笑)
※※※※※

「やぁ……相変わらず賑わっているな」
店の前に立つ二人の用心棒に、一人の男が話しかけた。


用心棒達は、店に立ち入り禁止になった男と押し問答をしていた時で、ろくに見もせずに怒鳴り付けようと空気を目一杯吸い込み口を開けた。

「……貴方様は!!」
一人の用心棒が慌てて怒鳴りそうになっているもう一人の胸を叩いて止めさせる。

「げほっ、何だよ!こんな優さ男、新顔だし~店に入れないだろ」
「馬鹿!……新入りお前だろ! この御方は別格なんだよ!」
「……兄貴が言うなら、ほら!通れ!」
偉そうに指示した新入り用心棒は、相方にこっぴどく頭をこずかれた。

「いてぇ~よ!何で殴るんだよ」
「馬鹿!まぬけ!……この御方にそんな口をきいて……ヨムジョン様に殺されるぞ」

「ふふっ……チョルスといったか?」
「はい」
「少し話が聞きたい……店に行こう」

兄貴分の用心棒が、ごつい体を小さくして男についていった。

「まったく……さぼるなよなぁ~兄貴」
※※※

ヨムジョンの店ではない場所で、酒を勧められたチョルスは聞かれるままに話していた。

やがて、某かの金子をチョルスに与えて口に人差し指を立てた男の、悪戯っ子のように輝く瞳に少し呆けたチョルスも仕事に戻っていった。

「お客さん、いい男ね~……ね、今晩あたいの部屋に上がらない?」
酌をしにきた妓女が隣に座り、しなだれかかったがどこかぎこちない……

肩に置かれた手を取り、女を……じっと見詰める。
すると、恥ずかしそうに女が下を向き手を抜こうとする。

「綺麗な手だな……」
「私の手なんて、お客さんの方が綺麗だわ」
「ふふっ……綺麗だ」女の指に口付けた。
「あ! 私の手なんて荒れてて汚いのに……」
「汚くなんてない、働いてる手だ……私の好きな手だ」静かに微笑む男の美貌に…………女の息が止まる。

「お客さん……」
「名は?」
「私、タンシムと言います」
「タンシム……可愛い名だね」

男は懐から酒代と薬壺を出した。

「これを手に塗りなさい……痛みが引くから」
「ありがとうございます」
大事そうに懐にしまったタンシムが、ペコリと頭を下げた。

「お客さん、また来てね!きっとまた来てね!」
「今夜は用事があるからタンシムの部屋に上がれないが……また来よう」
「お名前を聞いてもよいですか?」

「私の名は、スンマンだ」

微笑むスンマンを見送ったタンシムが、大事そうに胸を抑えていた。

「きっと来てね……」

※※※

すっと扉が開き、部屋の中に滑り込んで来たのはスンマンだった。

部屋の中央の机に足を乗せ、椅子にふんぞり返って座っているのはヨムジョンだった。

この賭博場や妓女宿、百済や高句麗にも行き商売を手広くしている商人がヨムジョンだ。

熱い湯で濡らした布を顔に被せているからか、ヨムジョンはまるっきりスンマンに気がつかない。


「ヨ~~ムジョン」
「「「わぁ~~~!!」」」
椅子から転げ落ちたヨムジョンが、尻を擦りながら立ち上がった。

「勘弁してくださいよ~……この頃、俺は心臓が弱いんですから~~」

「そんなに驚く方が不思議だな」ふふっ……と笑いながらヨムジョンの前に座るスンマン。

スンマンに薫りの良い茶を煎れながら、ヨムジョンが愛想笑いし喋る。

「さて、ヨムジョン」
「は…はい」
「私に隠れて何をした?」

びくっと肩を竦めたヨムジョンは、わざとらしい笑い声を上げながら茶を置いた。

「はぁ~はっはっはっ……スンマン様に隠れて私が何をしますか~」
「ふふっ……ヨムジョン、昔から商人のくせに嘘が下手だね」にっこりと笑ったスンマンが、一番危険だという事は骨身に染みている。

「ス…ス…スンマン様?」

「密偵を使って何をした?」
「……」
「暗殺者のフクサンを使ったな……誰に何をした?」
ゆっくりと静かに話しているスンマンの声が、ヨムジョンには雷鳴ほどに響いて聞こえた。


「ふふっ……私はね、お前の自由を縛るつもりはない」
ゆらりと立ち上がったスンマンが、ヨムジョンの隣に来た。

「だがな……誰かの命を奪った事を、私に言わなかった訳を……聞きたいのだよ」愉しそうに笑うスンマンが、ヨムジョンの顎に手をかけ上向かせた。

屈み込んでヨムジョンの顔のすぐ前に、スンマンの顔がある。

にぃ~~~っと笑うスンマンが世界中で一番美しく、一番恐ろしいとヨムジョンは思う。

蒼い焔が立ち昇る瞳が細められた。

………怒ってらっしゃる! 今までに見たこと無いほど怒ってらっしゃる!……

ぶるぶるっと震えたヨムジョンは観念して全てを話し始めた。

※※※

「三韓地勢?……確かお前が資金や情報を与えていたと聞いたぞ?」

「はい、ムンノに……20年ですよ」
「私と出会う前からだな」
「百済や高句麗に渡る金や情報、ぜぇ~んぶ私が面倒をみたのに二、三回合った男に渡すと言いやがった」

「スンマン様、信じられますか? 金を使うだけ使っておいて! 自分だけの物だと弟子にも渡さずにユシンに渡すって」

「弟子のピダムも面白くなかったのか、ムンノと剣でやりあってたんですよ~」

黙って聴いているスンマンにべらべらと話すヨムジョン……

「さすが国仙ムンノ公……自分が仕込んだ強~い弟子と、真剣にやりあってくれたからこそ、フクサンの毒針が当たったんです」

「その三韓地勢はどうした?」
「へ? いやぁ~……あれからピダムが店に乗り込んできましてね。とられちゃいました」

「国仙ムンノ公が……」

「スンマン様には詳しくお話ししてませんでしたが……金を工面するのに失敗して死にかけたんですよ、私は」
「ああ……お前が出会った時に言っていたのはこの事か」
「そうでございます~……スンマン様に拾って頂かなければ、私はあの時に死んでましたし、そうすると金も無くて三韓地勢だって書けなかった!」

「ふふっ……それで全部かな?」
「……私は、三韓地勢をスンマン様に渡したかったんです」
「ヨムジョン?」
「歴とした聖骨のスンマン様に渡して役に立ててほしくて……」
「ピダムにはチュンチュに渡そうと話してたな?」
「お聞きになってたんですか?」驚くヨムジョンをしりめに、席に戻ったスンマンが茶をゆっくりと飲んでいる。

※※※

「ヨムジョン……三韓地勢は忘れなさい」
「ええ?」
茶を飲み終えたスンマンが、きっぱりと言うと……

「そんなぁ~……あれを書かせるのに、どれだけ金を使ったと思うんですか~」
「だが、私がいなければ無理だったのだろう?」
「はい」
「私に渡したくてムンノ公を暗殺したのだろう?」
「はい!そうです」
「その言葉が本当ならば……持ち主は私という事になる」
「ええ!ええ!そうでございます」
「……なら私は要らないから、弟子のピダムという者が持っていればいい」
「スンマン様~~」
「今の新羅に三韓統一は無理だ……」
「へ?」
「中原から戻る帰路に見て回ったが……国力が落ちきっている」
「国力……」


微笑んだスンマンが何を考えているのか……ヨムジョンには解らなかった。

茶を煎れ直しスンマンの前に置きながら、残念そうにヨムジョンは肩を落とした。

「本当に諦めなきゃいけないんですか?」
「弟子と二人で書いたのなら、ムンノ公亡き後はその弟子の物だ」
「しかし……」
「いくら長年、金を工面していたとて……暗殺していいという道理は無い!」
ぎらり……と眼だけでヨムジョンを射た。
「ス…スンマン様~」
「しかも、国仙ムンノ公を殺した……会ってみたかった御仁を……」
「へ? スンマン様が会いたかった? ムンノに?」

「取り返しのつかない事をしでかしたな……ヨムジョン」

自分がどれほどスンマンの怒りをかっているか自覚したヨムジョンが、がばっとその場で土下座した。

ヨムジョンは、額を地面に擦り付け詫びた。
「申し訳ありません、申し訳ありません」


「ヨムジョン……言い渡しておくが、これからは私の指示に従え……」
「……新羅に戻られるのですか?」
「ふふっ……そうだ」
「スンマン様の御指示に従います!」

「裏切りは許さないよ……」静かに微笑むスンマンを見たヨムジョンが、ぶるっと震えた。


……剣を喉元に突き立てられても、これほど怖いと思ったことは無い!……
……身震いするほど怖い方だが、目が離せないほど綺麗だ……

「確と言い渡したぞ……ヨムジョン」
「はい!!」

「では、またな」
すっと立ち上がったスンマンが、後ろを見ずに部屋を出ていった。


「ああ……おっかなかった」
土下座のままだったヨムジョンが椅子に座り一息ついた。

「はぁ~~……あの方だけは裏切れない……」

澄みきった月のような美貌のスンマンを思い出し、ヨムジョンは静かに考えていた。

※※※

「女将、部屋はあるか?」

スンマンはヨムジョンの店を出た後、先程の店に戻っていた。

宿屋も兼ねているその店で泊まるつもりか、スンマンが聞くと……

「はい、ございますよ」
「風呂付の部屋がいいが……空いてるかな?」
「空いてますが……お銭の方は大丈夫なんですか?」
「ふふっ……前払いしておくよ」
強欲そうな女将の手に銀牌を一つ乗っけると。

「い……今すぐに御用意致します」
飛んで奥に入って行った。


「お客さん……」
タンシムが側に立った。
「用事が済んだから来たんだ……酒の用意をお願いするよ」
「はい!」


しばらくして……酒と肴を並べたタンシムとスンマンが、楽しそうに飲んでいた。

店の他の妓女達が、ちらちらとスンマンを気にしている。

「あんな新入りが上客を掴んで……悔しい~」店で一番の妓女が歯ぎしりしていた。

先日、田舎から口減らしの為に売られてきたタンシムは、酌も満足に出来ず、とろくさい事から皆から馬鹿にされていた。

女将も使えないタンシムに、店の妓女達の洗濯物を全部やらせたりしている。

スンマンが最初に店に入った時も、女将に突き飛ばされる勢いで客の相手になろうと来たのだった。

「お好きな肴は何ですか? 持ってきます」
「もう……十分だよ」
「……でも」
「ふふっ……じゃタンシムが食べたいものを持ってきてくれないか?」
「いいんですか?」
黙って微笑むスンマンにペコリと頭を下げて、タンシムが調理場に引っ込んだ。

すかさず、先程悔しがっていた妓女が自分の客を放ってスンマンの隣に座り込む。

「お客さん、私と飲みましょう」
「貴女は自分の客をどうするの?」
「あんな野暮天どうでもいいわよ」
しなだれかかり酒を注いで飲まそうとする妓女を、そっと押し退けたスンマンに妓女は腹をたてた。

すぐに自分に熱を上げてる客の所に行き、大袈裟に喚いてみせる。
「あの優さ男を殴ってよ」

いいところを見せたい男がスンマンに殴りかかったが、すっと避けられ……腕を取られて宙に舞った。

タンシムが料理を持ってきたまま立ち竦んでいる。

優しくその肩を抱いたスンマンが、用意された部屋にタンシムと消えていった。

後には女将が妓女を叱る声が響いていた。

※※※

………ちゃぷん………

花を浮かべた湯に浸かり……中原からの疲れをとるスンマン。

タンシムも下衣になってスンマンの肩や背中を按摩している。


部屋に付き、直ぐに服を脱ごうとするタンシムの手を止めたスンマンが、自分が女であることを明かした。

驚いたタンシムだが……寂しげに笑うスンマンに笑い返した。

「徐羅伐に来て初めて私に優しくしてくれた………スンマン様はスンマン様です!」
素朴な笑顔がスンマンの心に染みた。

※※※

後日、スンマンの宮に侍女見習いとして働くタンシムがいた。

スンマンの衣装を管理し、男装も公主服も主を魅力的に装うことに生き甲斐を見つけていた。

貰ったお給金をそのまま家に送るタンシムは生涯スンマンの傍にいた………
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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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