⑬月に照らされ、陽に焦がれ……【安康城編】

※※※※※

「やっと分かりました……チヌン大帝以降、新羅が発展しなかった訳が!」

トンマンの言葉にミシルの表情が硬くなる。

「璽主は………」

※※※

トンマンの宮から自らの宮に帰っても、ミシルの頭の中にはトンマンの言葉が響いていた。


「璽主はまるで他人の子供を預かったようだったのですね」

「国の主では無いため、民の為を思えないし夢も見れない」

「他人の子供だから、ひたすら眠らせようとだけしていたのでは?」


………ぐらり、と目眩にも似た衝撃に襲われているミシル。

「わたしは……わたくしは……国の主では無かった……のか?」

椅子に座っていても、しっかりと円卓を両手で掴まないと体が崩れそうで……

「わたくしは……」

※※※

ミシルの衝撃も知らず、トンマンはすぐに出立した。

トンマンが安康城に着く頃には、ユシンが花郎達をつかい農民達を残らず捕縛していた。


「何故だ? なぜ逃げたのだ!」

トンマンの悲痛な心が、そのまま声になっていた。


やはり農民達は《開墾すれば自分の土地になる》などとは信じて……いや、分かってはいなかった。

「公主様も私達から利子を取りたいだけだと思いました」


……ああ……
トンマンの口から声にならない想いが、吐息となって流れた。

「私は、私はお前達に土地をもたせる……諦めはしない!!」
傍らに立っていたユシンの刀を使い、村長達を切ったトンマン。

「……姉上!」
スンマンが青ざめた顔でトンマンに駆け寄った。

トンマンの手から刀を離し、素早くユシンに渡す。

ふらふらとした足取りで奥へ行くトンマン、その後をついていくスンマンをポジョンが見上げていた。


……御自身の事より、トンマンの事を案じておられるのか……

ポジョンが母ミシルに言った言葉は、本当だった。

スンマンを見かけるまでは……忘れられたと自分でも思っていた。

滝に打たれ、山を駆け回り、剣を鍛練し無我夢中で毎日を過ごし………朝日に心を洗われ、夜になれば星を見る……単純な日々。

想いを封印し、母の期待に応えるべく虐めるように鍛練した。

その甲斐あってか静かに思い出せるようになり、母に呼ばれたのを機に戻ってきたのだが……


……だが、一目見かけただけで………あの日々が全て無駄だと思い知った。

眼が耳が、スンマンを自分でも知らずに追いかける。

気配を感じたくて……つい探してしまう。

「私は出来損ないの息子だな……母上、申し訳ありません」寂しげに微笑むポジョンだった。

※※※

「ふぅ~」
呆然としたトンマンの顔や手に散った血を、綺麗に拭い去ったスンマンはトンマンを輿に乗せ王宮へと見送った。


「アルチョンとユシンが居れば大丈夫だろう……」


「おい! スンマン」
「ピダム……どうしてここに?」

ピダムの傍らにチュンチュが立っていた。

「スンマン、私が来たかったので連れてきて貰ったのです」チュンチュが微笑んでいる。

艶やかに笑いあうスンマンとチュンチュに、二人を代わる代わる見たピダムが言った。

「お前等、そっくりな笑顔だな……」
「ふふっ……そうか?」
「くすっ……似てますかね」

二人の笑顔に何故か背筋に悪寒が走ったピダムだった。


風月主ユシンが出立前に、農民達の事を任せた花郎が話していた。

根気よく話して聞かせ、落ち着かせているのを見て安心したスンマンはピダムを見た。

「ふふっ……私も帰るか」
「お前、何で帰るんだ?」
「馬さ……走れば姉上の一行に追い付くだろう」
「いいなぁ~」
「ん?」
「俺達、徒歩だぜ」
「チュンチュ……まだ乗れぬのか?」
面白そうに笑うスンマンに、チュンチュがとぼけている。

「ピダム!帰るぞ」恥ずかしいのか、ピダムの腕を引っ張り歩いていくチュンチュ。

「じゃ、王宮でなスンマ~ン」ピダムが手を振って引きずられて行った。


「くっくっくっ……」思わず笑い出していたスンマンに、近付いて来たのはポジョンだ。

「楽しそうですね、スンマン公主様」
「ポジョン殿……久方ぶりです」

※※※

安康城を出た近くの町で二人は酒を飲んでいた。

ポジョンとスンマンだった。

まるで旧知の友のように酒を注ぎあい、静かに飲む二人。

店の女将に人払いを頼み金を渡せば、奥まった部屋に案内された。


「あれから……どうされた」
「母に全てを見抜かれ、死ぬ事も叶いませなんだ」
「ミセン公から聴いたが……宮主に宝を砕けと言われたと……」宝とはポジョンのスンマンへの想いだった。

はっはっはっ……と笑い出したポジョンに首を傾げてスンマンが見た。

「はい、山に隠り鍛練した成果でしょう……忘れられました」
……嘘をついた。目の前の愛しき御方に。

母にも、ましてや自分の想い人である……この御方にも本心は言えぬ。

封印しなければならない想いなのだ……

ポジョンが必死に己に言い聞かせていたのを、知ってか知らずか………

「よかった……」吐息と共に呟いた言葉が、ポジョンには謎だった。

「なぜですか?」
「ふふっ……」
「私の想いは、それほど迷惑でしたか?」恐る恐る……聞いてみた。

「迷惑?……何故だ?」
「……」
「ああ…… 違う違う、どこの世に命懸けで惚れてくれた男を疎ましく思う奴がいる?」朗らかに笑ったスンマンが眩しかった。

「では何故ですか?」

「ただ、生きていてほしかったのだ…………私とお主では掲げる者が違う」

「この前の様に……死ぬ覚悟で私を助ける事が、また起こりえるだろう?」

そなたの母御は、あのミシル宮主だからな……そう言って片目を瞑る貴女から目が離せなかった。

スンマンは酒を、ぐいっと飲み干した

「私のような異形者など、忘れた方がお主のためだ」
「異形……とは」
「女でありながら女ではなく、男でもない……ただ、私が私のまま居るだけなのにな……」ふっ……と微笑みが、寂しげに哀しげにスンマンの顔に浮かぶ。

何かを振りきるように、ぐいっと酒を飲むスンマンの盃に注ぎながら………

「聖骨の公主なら望みは思いのままと、思ってました」

「私は……母の子ですが、ハジョン兄上には馬鹿にされ続け……血塗られ穢れた仕事は、いつも父と私の担当です」

「ポジョン殿……」
「父は私にすまながっています。父の身分が低いので、私に自分と同じ苦しみを与えていると……」
「昔は我慢できずに苦しかった……花郎として、真っ白に生きていきたかったから……」

スンマンが黙ってポジョンの空いた盃に酒を注いだ。

「今は、どうだ……苦しいのか?」

「諦めるのが上手くなりました」清々しく笑うポジョン。

「そうか……」
「はい……」

黙って流れる時間が穏やかだった。

酒で暑くなったのか、髪をかきあげた仕草が艶やかすぎて……ポジョンは視線を落としていた。


「忘れられたつもりだった……王宮で貴女を見るまでは……」
つい、口から出た言葉に自分が一番驚いていた。

席を立ち、慌てて出ていったポジョンを呆然と見送るスンマンだった。

「まだ私を……」

我に返ったスンマンが追いかけた。

「ポジョン殿!」走って追いかけたスンマンが、厩の前でポジョンを捕まえた。

「ポジョン!」
腕を掴み顔を見れば、困ったように微笑んでいる。

「私は……とんだ事を洩らしてしまいました」
「ふふっ……魅入られたのか、この私に」静かに問うスンマン。

「はい、その様です」こちらも静かに頷くポジョン……

「ならば……いつか私の為に死ぬかもしれぬな……お主」
「ええ……その日を待っています」

「いいのか、それで」真摯に見つめるスンマンの瞳を、真っ直ぐに見返してポジョンは頷いた。

ふっ……と笑いあった二人は、馬を出して乗ると別々の道を進んだ。

スンマンは王宮へ……
ポジョンは安康城へ……
お互いが進んでいる道のように、真逆へと消えていった。

風だけが同じように吹いていた。

※※※

「姉上……」
トンマンの宮に入ったスンマンが、探している。

「スンマン……どうした」
書物を読んでいたトンマンが、どうしたことかと顔を上げる。

何時ものように微笑んでスンマンが茶器を持ってきた。

「一息つきませんか?」

優雅な所作で茶を煎れたスンマンから受け取った。

トンマンの器を口に運ぶ手が、僅かに震えている。

スンマンの瞳が静かに見ていた。

……姉上は優しい方だからな、まだ立ち直れぬか……

他愛もない話をし、宮を辞したスンマンが考え込んでいた。

「よっ!」
ピダムがスンマンの肩を叩いた。
「ピダムか……」
スンマンの考え込む顔を見て訝しげに見詰めた。

「どうした?」
「ふふっ……もしかしたらお前が適任なのかもな」
「は?」
「……いや、こちらの話だ」
「なんだよ」
「ピダム……姉上が村長を切ったのは見たな」
「ああ……公主様は優しいから心配だ」
「顔を見たら励ましてやってくれ……」
「わかったよ」
「では、またな」

風を纏わせ足早にどこかに向かったスンマンを、ピダムが見送った。

「なに急いでんだろ?」

※※※

風月主の執務室に来たスンマンは、ユシンに花郎達の名簿を見せてほしいと頼んだ。

「これですが」
「借りていくぞ」
「はい、スンマン殿」
「私はしばらく自分の宮に居る、用があれば使いを出してくれ」

さっと、踵を返して出ていったスンマンに何かおかしくも感じたが……
「後で訳を聞きに行こう」


ユシンの執務室を後にしたスンマンが、王室の書庫に向かった。

花郎達の生年月日が書かれた名簿を調べる。

次に王室の歴史書で真智王時代の物を取り、調べ始める。


ほどなく、一行の記述を読み……呆然としたスンマン。

「もしや、ピダムは……」

「ミシルと真智王の子なのか……」

確信を持てないが、たぶん事実なのだろう……

「さて、どうするか……」

本を元通りにし、自分の宮に返ったスンマン。

タンシムと茶を楽しんでいた所へユシンが来た。

「スンマン…殿」思わず《公主様》と言いかけ、つまってしまう。

「これをお返ししよう」先程の本をユシンに返して、茶も勧める。

「確かに……ところで、これが何故、御入り用だったのですか?」

「私は新羅に長い間不在だった」
「はい、スンマン殿」
「花郎達の背後関係が全く分かってないのだ」
「それを調べる為ですか?」

……嘘をついてしまったな。だが、まだ知らせるのは早いだろう……

「私はな、新羅に騎馬隊を作りたいのだ」
「騎馬隊を……」
「騎乗したまま弓を使い、障害物も飛び越え駆け抜けられる……そんな人馬一体の隊をな」

目を見開いてスンマンを見るユシンに、にんまりと笑ってみせた。

「何も考えてないようでも、私なりに思いはあるのだ」
「いいえ、そのような!……風月主ユシン、スンマン公主様には感服致しました」椅子を降り跪ずくユシンに、スンマンが苦笑した。

「ふふっ……出来てからにしてくれ」
「今すぐ始められるのですか?」
「そうだな……出来上がるまでに何年もかかるだろう……」
「私にも手伝わせて下さい」

「ああ……お願いする」

「明日、我が家で酒席を設けます。来ていただけますか?」

「喜んで伺おう……叔母上にもお会いしたいとお伝え下さい」

「はい!」

ユシンを見送った後、スンマンはいよいよ自らの計画をトンマンに話さなければと思っていた。

新羅に不可能な夢を実現するためにも……
民が安心して暮らせる国を創りたい。


※※※※※

遅くなりました。

なんかポジョンがいじらしくて……

このブログでは絶対にアップできないサイドストーリーを書いてまして(笑)

つまり……スンマンとポジョンの……ゴニョゴニョ……なので、書いてもお蔵入り決定

そんなの書かないでこっちを~と思っても、想いを遂げさせてやりたくて。

ついつい……

お蔵入りなんですがね……(笑)

次はいよいよ、チュンチュがキター

お楽しみに
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Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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