②《麗☆花萌ゆる皇子たち》

儺礼(ナレ)とは大晦日に鬼を祓う儀式で、皇子たちが主体となり役者を交え剣舞を披露するんです。

今回のお話はシチュエーションの時系列がバラバラになっちゃってますが、気にせず楽しんでくださいませ。






「ヘスや、お前の気持ちを聞かせておくれ?」
「はい、何でしょうか? ミョン姉様」

私はいまミョン姉様の部屋に呼び出されてます。 な、何を聞かれるのかドキドキです。

私は現代の日本人、しかも離婚したばかりの傷心旅行で訪れた韓国で、あろうことかドラマの世界にトリップしちゃったんです!

1000年前の高麗の世界にきた私は、目の前のミョン姉様に助けられて生きてられると言っても過言じゃないんです!

その大事な恩人が、怖い顔して私を見てるから、息がしづらいほど緊張してます。。。


「私には正直に言っておくれ・・・・・ お前もしや」
「ごくっ・・・・・ドキドキ」

バレたのかな? 死にかけて記憶が無くなった(という事にしたけど、本当は私という魂が入っちゃった)ことが嘘だって。。。

あ〜〜〜バレたら追い出されちゃうよね? それとも罰を与えられる? どっちも嫌〜〜〜!



「第4皇子様が好きなのか?」
「へ?」

「旦那様から聞いた話では、何やら抱きおうていたとか・・・ お前が気もない男にその様な振る舞いを許すとは思えなくてな」

思いがけない話に呆けた顔した私を、気持ちを見透かされたからと思ったミョン姉様は・・・・・・俄然、燃えだした。。。


「実家に連絡し方法を整えてやろう! なに、私もそなたの煎じる薬で昔のように身体が動くようになった。任せておきなさい」

実際、私は第4皇子に恋してるから、渡りに船な勢いでミョン姉様にお願いした。


でも・・・・・展開が早すぎなんだよね〜〜
1話から10話までドラマだとヒロインの恋心は、第8皇子に向いてるんだ。

今はどう見積もっても2話辺りなんだけど・・・・・ でもいいよね? 私は前の世界でドラマを見ていたときから、第4皇子にトキメいてたし♡

「ミョン姉様、くれぐれも無理は禁物ですよ! いいですね!」
「わかっておる」

一気に生き生きとしだしたミョン姉様は、早速手紙を書きはじめた。


「くすくす、まるで昔の姉上が戻られたようだな」
この方は第14皇子のペガ様! 高麗一のプレイボーイだけど、実は初恋のミョン姉様をまだ忘れられないんだよね〜〜

少しづつ体力を回復してきたミョン姉様のことで、最近このペガ様から感謝されたのが縁で仲良くなったんです。

「それはそうさ、だんだん弱っていく姉上をどれだけ心配したか・・・ お前は私にとって恩人なのだ」
「ありがとうございます。 私がどれだけできるか分かりませんが日々精進します」

それで、今日は?

「ああ、これを茶美園のオ尚宮から預かってきたんだ。 文を交わす仲とは知らなかったな」
「きゃあ♡ オ尚宮からのお手紙だぁ♡」

このオ尚宮て方は薬やお茶などに精通してて、第8皇子を通じて参考になる本を借りたりするうちに御礼の手紙を書いたのが始まりなんだよね。

今では文通して何でも相談できる方なの♡

ウキウキと手紙を胸に抱いてる私は、ペガ様いわく「まるで恋する乙女」だそうです。

ペガ様はミョン姉様に任せて、私は手紙を胸に一人でゆっくり見られる場所を探したの。。。



「ん?」
あれは、ヘスか?

何か大事そうに胸に抱えて歩いてるな。 俺はそっと後をつけた。

屋敷の外れの石塔がある場所まで来たヘスは、大事そうにそっと胸から何か・・・・・ 手紙か?を取りだした。

嬉しそうに開いていく様子は、恋文でも見ているようで・・・・・・ そこまで考えた俺は、キリキリと胸が刺されるような痛みを感じた。

ヘスに恋文? あいつに好きな奴が!? 許さない!! あいつは俺の物だ!!!


手紙に夢中なヘスの前に立っても、こいつは気がつかない。 楽しそうに手紙を読んでる。

「ああ、この世界もお化粧品って色々あるんだぁ〜〜」・・・ 化粧品? 恋文で化粧品の話をしてるのか?

「薬湯? 茶美園のお風呂って薬湯なんだぁ〜〜! 私も入ってみたいな・・・」・・・ 茶美園の話???

俺はおよそ恋文とは思えない手紙をヘスの手から奪い読んでみた。


「茶美園のオ尚宮か? お前が嬉しそうに開いてたのは、オ尚宮からの手紙なのか?」
「はい! すごく為になる事を教えて下さるのですよ」

「男じゃないのか」
「へ?」

・・・・・・俺はてっきり男からの手紙と思ってた。

「返してください」
手紙をヘスに返せば大事そうにたたんでいる。

「今日はどうされたんですか」
「ああ、しばらく此処に世話になる事になったんだ」

「そうなんですか、よろしくお願いします」
「お願いするのは俺の方だろう」


くつくつと笑う第4皇子様は、やっぱり素敵だなぁ〜〜〜・・・

皇子と話しながら母屋の方へ歩いてると、チェリョンが怖々駆けよってきた。
皇子も他に用があるからと、そこで別れたんだけど・・・ チェリョン?なんかすっごい顔してるよ?

「お嬢様! 第4皇子と話してて怖くないんですか?」
「怖くはないなぁ〜〜・・・ 逆にカッコイイし」

「はあ? 第4皇子様が、カッコイイ? (やっぱり死にかけてからお嬢様は変になっちゃった)」

・・・そんな目を剥いて驚かなくても。 ん? なんか落ちてる・・・簪・・・ あ!コレって第4皇子がお母さんに贈ろうとして、でも出来なかった物だね。


・・・・・・どうして第4皇子のお母さんは、あれだけ皇子を忌み嫌うのだろう

ドラマの中でも不思議なくらい母親から嫌われてる皇子が、切なかったよ。

そうだ、これ届けた方がいいよね? ・・・・・・チェリョンに部屋の場所聞こう!


私はチェリョンに皇子の部屋まで案内してもらってたんだけど、他の侍女が私を探しに来たからチェリョンに届けるようお願いしたの。

・・・・・・ドラマとは簪を拾う場面も、届けるタイミングも違うから、あんな事にはならないよね?

私はチェリョンと別れ侍女について行ったの。

「ふふっ、味噌の上澄み液って醤油に似てんだよね〜〜、厨房に取っといてほしいって頼んどいて良かった」

これで照り焼きが作れる♡ 蒸し鶏も美味しいんだけど、正直飽きちゃったし、日本食が懐かしいんだよね。

「照り焼き、照り焼き〜〜♡」なんて浮かれて歩いてたら、ピュンピュンって音が聞こえた私は、嫌な予感と共に音のする方へ走りだした。


ビシッ、パシッという音が響く東屋では、チェリョンが柱に手を縛られ背中を打たれていた。

「何をしているのですか?」
鞭打つ侍女とチェリョンの間に割って入った私は、そこでヨナ皇女に尋ねた。

「この者は皇子の部屋から盗みを働いたのだ。 罰して当たり前であろう?」

チェリョンを見れば必死に首を振ってる・・・・そうだよね、私が簪を届けてほしいって頼んだからだもんね。

「ヨナ皇女様、誤解です。私がこの者に簪を届けるよう命じたのです」
「この様な高価な物をか? そなたが何故ソ兄上に簪を届ける?」

「その簪は第4皇子様の落とし物なのです。何か仔細があるかと思い届けようとしたのです」

ヨナ皇女はジロジロと私を見て、意地悪く笑った・・・ あーあ、何か企んでるなぁ〜〜、嫌な予感しかしないわ。

「信じられぬ。 打て」
ヨナ皇女の侍女が細い枝で再びチェリョンの背を打とうとするのを、睨んで止めさせる。

「第4皇子様にご確認を。 チェリョンと私の無実が証明されますゆえ」
「ふん! ソ兄上を探してまいれ」
侍女の一人を探しに行かせたヨナ皇女は、その間も待てないとばかりにチェリョンを打たせようとする。

庇う私を睨むヨナ皇女・・・・・私はチェリョンの身代わりになると話した。

「お嬢様!」
驚くチェリョンの代わりに柱に縛られた私は、覚悟を決めた。

ビシッ! 侍女と代わりヨナ皇女が私を打つ。

「ひっ!」打たれた所が痛くて熱くて、ヘコたれそうになるよ〜。

私は続けて打たれる衝撃に備えて、身体を固くした。



用を済ませた俺はウクの屋敷をぶらぶらと歩いていたが、何だか騒がしいな。

東屋の方へと向かえば、他の皇子も立ち止まって見ている・・・・・ヘス? 何故ヘスが柱に繋がれ打たれている?

ヨナが振りかざした手を、止めた。


訝しげな顔をするヨナに、俺は・・・・・

「その娘は、俺の物だ」と告げた。


「確かにその簪は俺の物だ。ヘスが言っていることは嘘ではない」
「外せ」

ウクがヘスの紐を外させて、ヘスはチェリョンという下女を連れ場を離れて行った。

「恥をかかせたなら謝る、すまないヨナ」
「・・・・・・」

俺もその場を離れ、ヘスの後を追った。



きゃあああ〜〜〜〜〜〜♡ あのセリフが聞けたわぁ〜〜♡

「その娘は、俺の物だ」きゃああ〜〜〜〜♡

でも、あれ? ドラマだとこのシーンってもっと後だったような・・・ま、いいわ! それよりチェリョンの傷をなんとかしないと!

私はチェリョンを自分の部屋に連れて行き、手当てをしたの。

自分で作った軟膏を傷に塗り、そのままチェリョンには眠るように言った。

「そんな私がお嬢様の寝台で寝るなんて!」
「私が頼んだことで貴女に傷を負わせてしまったのよ、これくらいさせて?」

きっと傷のせいで今晩は熱がでるかもしれない。 私は熱さましの薬も用意しておいた。

「でもお嬢様〜〜、申し訳なくて眠れません!」
「じゃあ私の背中にも薬を塗って? それでおあいこよ!」

薬を塗ってもらって楽になってきた私だけど、チェリョンは幾つも血が滲んでる。

軟膏で痛みが引いてきたのね、あっさり寝始めたチェリョンに掛け布団をかけ、私は部屋を出た。
飲み水と、手拭いを濡らす水が欲しくて部屋を出たんだけど、部屋の前に第4皇子が立っていた。

「・・・傷は大丈夫なのか?」
「私は大丈夫ですが、チェリョンが・・・。いま中で寝てます」

「・・・いつもお前の側にいる、あの下女か? 下女を自分の部屋で寝かせているのか?」
「私の命じた事であんな酷いケガを負ったのです。看病くらいしないと申し訳ないもの!」

「はっ! 変わった奴だな」

「きっと今夜は傷のせいで熱が出るでしょう。熱さましと痛み止めの軟膏は作ってあるから大丈夫だけど、額を冷やす水桶を取りに行かなきゃ!」

「いま何と言った? 薬を作る? お前が?」
「簡単なものならです。私はお医者様ではないので・・・でも切り傷の消毒や化膿止めを兼ねた塗り薬や貼り薬など幾つか作れます」

「はっ! 凄いな・・・」
「第4皇子様ももしお怪我されたら私にお任せを! 酷いケガだと無理ですが、看病します!」

「・・・・・・もしそうなったら、お前に頼もう」

お前の優しさも、その明るさも、俺の心にはあたたかいのだから・・・・・・

「お任せ下さい、一生懸命お世話します!」
「ほどほどにな」





チェリョンの傷が癒え、大晦日になった。

私は朝から何人もの侍女達に着替えをされ、髪を結われ、ヘトヘトだわよ。

ミョン姉様は皇宮に行って儺礼(ナレ)の儀式を見るんだろうけど、私は町へ遊びに行けるとワクワクしてるの。

だってドラマだとヒロインはチェリョンと一緒に町へ遊びに行っていたから! 私もそうだと思ってた。


それがいきなり・・・・・ 私も皇宮へ!? なんで? なんで?

「旦那様の母君・・・ファンボ皇后がそなたと会いたいと言われているのだ」
「え?」

「なんでも茶美園のオ尚宮からお前の名を聞いて、興味をもたれたと」
「あ、そう・・・ですか」

断れないよね? 皇后様からのお誘いなら地方豪族の娘なんて、否やは言えないよね〜〜・・・よし、こうなったら何かちょっとしたプレゼントでも用意しておこう。

緊張した顔してる私を励ますように、ミョン姉様が言った。

「お前の好きな第4皇子様の勇姿を見られるぞ。 さぁさ、準備をしなさい」
「はい!」

よっしゃ、開き直って楽しもう!!


・・・・・・でも、ドラマじゃ大変な日になるんじゃ・・・・・・

とりあえずなる様にしかならないし、私も皇宮に行く事になったからドラマの話とは変わってきてるし。

うん、楽しむしかないよね〜〜・・・・・というわけで、私も参ります皇宮へ!!!


「おお、お前がヘスか」
「ご挨拶いたします」

ミョン姉様に連れられファンボ皇后の部屋に通された私は、そこで皇后とヨナ皇女に挨拶をした。

少し話をしたけど、良かったのかな? ファンボ皇妃はよく笑ってたけどヨナ皇女は先の一件があるからか笑わないし。

「ヘスから御二人に贈り物が」
ミョン姉様が差し出した箱の中には私が作った匂袋が入ってるんです。

匂いも良いけど、リラックスする効能があるから・・・ヨナ皇女のキツい性格も少しは柔らかくなんないかなぁ〜〜・・・なんてね(笑)

「おお、美しい匂袋だな。これを私達に」
「よろしければどうぞ」

ミョン姉様が持っていたキレイな端切れの布を重ねて使ってるから、我ながら上手くできたんだよね!

「・・・・・不思議な、だが良い匂いじゃ」
お? ヨナ皇女も満更じゃない? 手にとってる!

「この香りは心の緊張を解きほぐすものです。眠るときに枕元に置かれても良いかと」
「そうか、ありがとう。感謝するぞ。どうもこの頃、頭痛が酷くてな・・・よく眠れぬのじゃ」

そっか、ミョン姉様みたいに肩や背中がガチガチに凝ってそうだな〜〜

前の世界でエステティシャンだった私は、ミョン姉様の身体を癒したくて最初に背中や肩、首に頭のマッサージをしたんだ。

血流が良くなれば身体のだるさや痛みも和らぐ・・・ 良い睡眠がとれれば、健康へ一歩進める。

「ならば一度、このヘスに身体を揉んでもらえば良いのでは?」
「身体を・・・揉むと?」

「ええ、私の病もこの子に身体を癒してもらい、毎晩よく眠れるようになってからは調子が良いのです」
「それは是非、私も受けてみたいな」

あらら、ミョン姉様が詳しく話し出しちゃったけど、ファンボ皇后様がノリノリなんだけど、いいのかな?

あっという間に後日、茶美園でマッサージする事になったけど・・・失敗したら処刑なんてされないよね?

会場に向かう道で、侍女をぞろぞろ引き連れたユ皇后とバッタリ!

うわ〜〜金の飾りをジャラジャラ付けてる・・・この方も凝ってそうだなぁ〜〜・・・

挨拶をするファンボ皇后、私はミョン姉様の後ろで大人しく、大人しく。。。

ま、裏や本心は隠して大人な対応しなきゃ、やってけないよね。

ただ、このユ皇后は第4皇子のお母さんなんだよね・・・もし、もしも、この方が第4皇子を愛しんでくれたら、彼の孤独も無かったのかななんて考えて切なくなるんだよね。



会場に着いた私はもちろんミョン姉様の側にいたの。

皇子達が舞う舞台は眼下に広がってて、案内された席に落ち着いた私。

何段もある階段の1番上の段に席があり、皇帝を始めとする皇族達や皇子の家族達が横一列に席があるの。


ドラマで見てたけど飛んだり跳ねたり、上から縄で降りてきたりと、とにかく演出が見栄えがあるの!

私はワクワクしながら見てたんだけど、いきなり斬り合いになってしまった。

「陛下をお守りせよー」というジモンの声に兵がワラワラと上がってきた。

私はミョン姉様を守ろうと彼女を背に庇ったんだけどね。

この混乱に乗じて変なこと考える奴がいないとも限らないから。

私は周りを見回して警戒しておく。

私はミョン姉様を守ろうとして、ミョン姉様はファンボ皇后を守ろうとして、ファンボ皇后は娘のヨナ皇女を守るってなんか《親亀の背中に子亀が〜〜》なんて頭に浮かんじゃったわ。

刀を持った賊の狙いは正胤(チュンユン=世継ぎ)、ここまではこない。

それに、正胤がする役はきっと第4皇子がしているはず。

衣装も取り替えて身代わりに・・・・・ この襲撃の犯人を捕まえれば、彼はこの皇宮で暮らす事を許されるから。

人質に信州(シンジュ)に戻らなくていい。

人質生活の中で第4皇子が望んで、望んで、望んだ・・・ 皇宮での暮らし。

きっと捕まえられます! でも、お気をつけて・・・・・






屋敷に戻ってから私は、傷を負った第4皇子を待ってたの。 手当の用意をしながら。

明け方、ううん、もう夜が明けて間もない頃、カタンと部屋の外で音がした。

扉を開ければそこには・・・・・ 真っ黒な塊が、居たの。


「少ししみます」

この頃の手当の仕方って薬草を揉んでそのまま傷口に乗っけるみたいなの。

私は薬草を細かく砕いて、何種類も混ぜて消毒や色々な効きめがあるように作ってあるの。

それを傷口に塗りつけガーゼを当てて、包帯を巻く。 包帯だって木綿を切って裂いて自分で作ったんだから!

布で巻くよりズレないし、よし!できた。


「何も聞かないのか」
「何をですか? 私が心配だったのは第4皇子様がご無事かどうかです。 お怪我はされましたけど、ご無事で何よりです」

「だが生け捕りにしそこねたのだ! これでは誰がやらせたのか分からぬ!」
「手がかりは、あるでしょう? 死体です。皇宮でのものと合わせれば数名いるはず、調べれば何かがあるのでは?」

つい前の世界でミステリー好きだったからか、言ってしまったのよ。
私の言葉に第4皇子が、まじまじと私を見つめてる。

「そうだな・・・皇宮で調べよう、何か分かるかも知れぬ」
言うや否や立ち上がる第4皇子の腕を、私はそっと掴んだ。

「まずはお食事を・・・ 昨日から何も食べてないでしょう?」
「だが、直ぐに調べなければ」

「腹が減っては戦はできぬ! ですよ。少しお待ちを」
「は、はら? 戦?」


聞いたことない事を言われ戸惑う俺に、ヘスはニッコリと笑って部屋を出て行った。

しばらくすると戻ってきたヘスの手には白くて三角な物があった。

「これは?」
盆にのっている物を尋ねれば【おにぎり】と答えた・・・ 飯を握ったものらしい。

ニコニコ笑って勧めるから口にしたが、塩がきいていて美味い。

そのとき、ぐぅ〜〜と腹が鳴って気がついたが、昨日から俺はほとんど食事を取っていなかった。

「これは肉の甘辛煮、これは大根ナマス、これは卵巻き! どれでもどうぞ」
初めて見るものばかりだが、ヘスが作ったのか? ならば食べねばな。

「美味い・・・」
「ふふ、お口に合って良かった」

・・・・・嬉しそうに微笑むヘスに、俺は見惚れた。

まだ夜が明けきらぬ今は、部屋の中も暗い・・・・・ だから蝋燭をつけているが、その橙色の灯りの暖かさと、ヘスの微笑みが、子供の頃から焦がれていた温もりのようで、見惚れた。

俺には与えられた事など、ない温もり・・・・・ 人から忌み嫌われる狼犬の俺には。。。


「そうだ、第4皇子様は甘い物など召し上がれますか? 蜜柑の砂糖漬けです」
「甘いものは、苦手だ」

「私は好きです」
ニコニコと小さな壺の中から、果実の甘い匂いの物をポイっと口に入れるヘス。

俺は食事をおえ手を差し出した。

「美味そうだ、俺にもくれ」
「どうぞ」

同じようにポイっと口に入れれば、甘い・・・こんな甘い物が好きなのか。

「皇子様、少しじっとしてて下さいね」
そう言われて動かずにいれば、頬に布が触った。

「くすくす・・・ 汚れていては、せっかくの男前が台無しですよ」
「からかうな・・・・・・男前とはウクやペガの事を言うのだ。 俺ではない」

こんな、顔に醜い傷がある俺など、誰もそのように思う訳がない。
実の母でさえ嫌うのだ・・・・・いくら世辞でも、言い過ぎれば不快だ。

「皇子様は男前です。 少なくとも私はそう思ってます! ペガ様よりも、ウク様よりも」
「目が悪いのか?」

くすくすと声に出して笑うヘスが、何かを言いかけたとき、不意に部屋の扉が開いた。






「ここで何をしている!!!」

きゃーっ!!! いきなり扉が開いたと思えば、ウク様が怒ってる〜〜〜〜!

「ここで、何を、しているのだ!」
「第4皇子様の怪我の手当てを致しておりました」

「なぜヘスがする? 使用人に任せれば良い!」
うわぁ〜〜温厚なウク様が見た事ないほど怒ってる〜〜・・・・・なんで?

「前に約束したのです。お怪我をしたときは私が手当てすると」
「なぜだ?」

「怪我によく効く薬を持っていますから、是非どうぞと・・・ 悪かったですか?」
何かいけなかったのかな? さっぱり分からない。

「年頃の、未婚の娘がまだ暗いうちから男を部屋に入れるなど、悪い噂がたったら何とする。 嫁に行けぬぞ」

あ、そっか・・・ 男遊びが激しいなんて噂がたったら、縁談なんかないだろうな。

「・・・心配ない、そのときは俺がもらう」
「え? いま、なんて?」

なになになに〜〜〜〜!? いまサラーっとすごい事言われませんでしたか?

「何を驚く、俺のせいで嫁にいけないのなら、俺が責任をとる」
「え〜〜〜〜! 責任だけ? そんなのって何かやだな・・・・・」

やっぱりさぁ〜〜、好きな人にはちゃんとプロポーズして欲しいんだけどなぁ〜〜〜〜〜〜!

「な、な、何が嫌なのだ!(やっぱり俺が、嫌なのか? 俺が・・・ )」

・・・急に切ない目をして私を見つめてる第4皇子に、もしかして自分が嫌がられてるとか勘違いしてる?

やだやだやだ、その目にキュンキュンしちゃう〜〜〜〜♡

「皇子様が嫌なんじゃないですよ! 私は自分のことを好きだから婚姻したいって言われたいんです! やっぱりプロポーズは真剣に愛してる〜〜とか女なら言われたいじゃないですか!!!」

「ぷ、ぷろ?」
「ぽず?」

ありゃ、ウク様もソ様も二人でポカンてしてる。

「ではヘスが望むのは、どんなのだ?」
なんて言われて私は、真っ赤になりながらも第4皇子様に【希望】を伝えたの。

「あのですね、二人だけの場所で『お前だけを愛してる、妻になってくれ』とか言って下さればいいんです!その後ぎゅーってしてくれて、チュッてしてくれたら、キャー♡♡♡」

「ぎゅー? ちゅー?(分かるかウク?)」
「・・・・・(何となくは、分かる)」

妄想が暴走した私は1人でブツブツ言い始めちゃって、気がついたらウク様に「分かったから寝なさい」って、寝台に寝かせられちゃった。



ヘスの部屋を出た俺とウクは、何となく歩きだした。

「・・・・・ミョンの話では皇宮から戻ってからずっと、お前を待っていたようだ」
「ずっと?」

「ああ・・・ 手当の用意や食事の用意をした後は、ずっと部屋にこもっていたそうだ」

そ、そうか・・・ 俺を待っていたのか。

急に胸が熱くなったのに自分でも驚きながら、それが嬉しさなんだと気がついた。

・・・・・・人に心配されたことも、待たれたことも無い俺だからな。

まただ、ヘスは俺が欲しいあたたかな温もりを与えてくれる。


「・・・からかわないでくれないか? 博識ではあってもヘスはまだまだ子供だ。だからお前との約束を守ろうと懸命になる。そんな子をからかうのは止めてくれないか」
「からかうつもりなど、ないが」

「先ほどのヘスを貰うなどと、初心な子が本気にしたらどうする。 後から私が話しておくが、今後は控えてほしい」


ん? ウクがいつもと違う・・・・・・この様に真正面から睨み 俺を牽制しているのは、何故だ? ヘスは奥方の従姉妹だからか?

・・・・・いや、違う。 こいつの目は、男の目だ。 ヘスを妹のように思うフリをして、こいつはヘスを!!

「本気だ、と言えば祝福してくれるか?」
「・・・・・信じられぬ」

そう言って離れたウクよ、俺は絶対にヘスを離さない。

・・・・・絶対にヘスを、手に入れる。


まだ早朝だったが、俺たちのやり取りをミョンさんが見ていたとは、知らなかった。






それから数日、屋敷に第4皇子は現れず・・・・・・次に見たのは夜の石塔でだった。

石塔ってね、石を想いを込めて積んで作ってあるの。

大きな石塔の1つはミョン姉様がファンボ皇后に頼まれて、第8皇子の無事を祈り作られた。

幾つもある石塔は1つ1つ、祈りや想いがこもってる・・・ それにミョン姉様が私の事を祈って作ってくれたのも、あるんだ。

神聖な思いで手を合わせに行くんだけど、あ! 第4皇子様だ! でも様子がおかしい?

第4皇子の処に歩いてたら、急に皇子が石塔を崩しはじめたから私は走ったの。



正胤(チュンユン=世継ぎ)を狙ったのは母だった。
破戒僧を集め、自分の所有する寺で世話し、暗殺に使ったんだ。

このままでは母の仕業と分かり、母が罰せられる・・・ 俺はその寺に1人で向かい、寺にいる者全てを、殺した。

全身に浴びた返り血のまま、母に報告したんだ・・・ 俺が母を守ったのだと!
自らの手を血で汚し、証拠の書など見つからぬよう・・・ 寺に火をつけた。

俺が! 兄ではなく、弟でもなく、俺が! 俺が・・・ 貴女を守ったのだ・・・


一言でいいんだ・・・・・・良くやったと、母は助かったと、たった一言で良かったんだ。

怪我はないか? ・・・・・そんな労いの言葉などはなく、母の口から出た言葉は、俺を罵倒し、俺を産んだことが・・・ 我が身の恥だという。


・・・・・何故だ? 何故そこまで嫌われる?

俺は・・・・・ 誰からも愛されず、忌み嫌われて・・・ 生きるのか?


気がつけばウクの屋敷の石塔の前に立っていた。

母達が我が子や夫や大事な者を思い、祈りと願いを込めて・・・・・ 積んだ塔。

・・・・・・俺には、無い・・・・・ 母の思い・・・・・・


俺はその塔を両手で、思いきり崩した。

「何が母の思いだ。何が!何が!」
「おやめ下さい! 第4皇子様!」

狂ったように石塔を壊す俺に、背後から抱きつく者がいた。
俺を止めるな! 止める者を怒りのまま振りはらい見れば、相手はヘスだった。

ヘスは己の手についた血を見て驚き、そして。

「血が! 皇子様、どこか怪我を? ここ? ああ、手に怪我を!」

お前は俺の身を真っ先に案じてくれるのか? 母でさえ見捨てた俺を、お前は・・・ お前だけが、心配するのか?

このとき全身を駆け巡っていた【 怒り 】が、急速に無くなり俺は・・・・・俺は・・・・・

「人を殺したんだ」
「なぜ殺したの? 貴方は訳もなく人を殺して楽しめるような人じゃない」

「・・・俺は・・・」
「訳があっても罪深い事をしたと、貴方は分かってらっしゃる・・・ だから苦しんでる」

「・・・怖くないのか?」

全身血に塗れている俺が、人を殺したと、首を刎ねたと言うのにヘスは、俺に近づいた。

「怖くなんかないです。 貴方は優しい人だから・・・・・」
そう言って血がついた俺の頬を、ヘスの指先がそっと触れてきた。 ああ、あたたかい・・・・・・

俺は、ヘスの身体を抱きしめた・・・・・いや、お前の温もりに縋ったんだ。

心の底から凍る冷たさは、俺の身体を蝕み続けるから・・・ お前の温もりに、縋ったんだ。。。



ああ、きっと第4皇子は母であるユ皇后の為に手を汚し、守ったのだ。

命を奪った業と罪に苛まれ、母から拒絶されて、この人は傷ついている。


私より大きな皇子が全身で抱きしめてくるのに耐えきれず、地面に座ったんだけど・・・ 私は彼を抱きしめ返してた。

まるで小さな子供が母に縋っているようで、私は背中をそっとトントンし、撫でていた。


どうしてこの人は、愛に苛まれるの? どうして・・・ この人だけが。。。

私はぎゅっと皇子を抱きしめた・・・・・卵を温める親鳥みたいに、しっかりと。


腕の中から、押し殺した泣き声が聞こえる度に「よしよし」と撫でさすっていた私。

「どうか、この方が・・・心穏やかに過ごせますよう・・・・・」

・・・・心穏やかに、そう石塔に願いながら。。。






さて、私のお話はいかがでした?

まだまだ続きますが、ここ迄でだいたいドラマ的には3話か4話の途中です。

次回のお話からはオリジナルを盛り沢山にぶっ込みますので、よろしくお願いします♡

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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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