上.【黒獅子と月の物語】

やってしまいました。
スンマンが先にピダムに出会って恋人になった話です。

スンマン×ピダムですのでご注意下さい
※※※※※

最初にそいつと出会ったとき、まだ十才かそこらで……やけに小綺麗なガキでさ、俺は十七才で……いっぱしの剣客気取りだった。

師匠のムンノを訪ねてきたヨムジョンとかいう商人が、師匠と話をしてる間の暇つぶしに構ってやった

いや! 正確には構ってやろうとしたのに無視しやがったんだ!

腹が立って、そいつに木の枝を渡し俺も木刀を構える。

本気で打つつもりは無いが、軽く尻くらい打ってやるつもりだった。

「何の真似だ?」
子供のくせに鋭い眼光で見つめるソイツに………

「師匠の代わりに俺が稽古してやるよ」
「私はムンノ殿がいい」
「ムカつくな~俺はムンノの弟子なんだよ」

問答無用で木刀を打ち込むと、ふわりとかわされた。

「あれ?」
「仕方ない。……では行くぞ!!」
木の枝で打ち込んできたソイツと二回、三回と打ち合った。
だが、まだまだ子供だ俺様の敵じゃない!
ひらりと避けて、変わりに木刀で手首を打つとソイツは木の枝を落とした。

「やった~へへっ、子供は子供らしくしてろよ」
「つっ……」

「ピダム~~」
師匠の怒鳴り声で、俺は逃げ出した。

「あの馬鹿が」
「私は大丈夫です」
「では、近くの寺でしばらく剣を見ましょう」
「ありがとうございます」

「ピダム出てこい……私はこの方としばらく寺で生活する。お前も来るんだぞ」
そうしてソイツと修行するはめになった。

ソイツは半年に一度現れて、修行し帰っていった。

もう何度目かな……あれから五年は経っていた。

※※※

着いて早々、ピダムを探していたスンマンは目指す長身の影を見つけて駆け寄った。

すらりと立つその影は細身だが鋼のように鍛えた体に、日に焼けた端正な顔を持っていた。

笑う顔が大好きな兄と慕う男……

「ピダム」
「おう!スンマン」
「この前言っていた洞窟を教えてくれ」
「なんでだ?」
「そこで修行しようと思って」

半年ぶりに会うスンマンは背が高くなり、しなやかな躯と月光のように輝く美貌の主へと変化していた。

歳は十五、六のはずだが育ちすぎだ!
年頃の娘にしか見えない。

「俺も行ってやるよ」
「そうか!よかった……なら早速行こう」

昔から男の恰好はしているが、美しく育ったスンマンに近所の悪ガキや男が言い寄ることが多々あった。

寺で修行したり町に出掛けると必ず男が後をつけてくるからか、ここ二、三年くらいは山の中で修行することにしていた。

そんな悪ガキや男どもに何故か俺はムカついて、スンマンに隠れてそいつ等をぼこぼこにしていた。

「着いたら早速稽古しよう」
「ああ……」

楽しげに歩くスンマンの後からついてきたピダムが……町で見た春画を思い出していた。

あいつの身体も、あんな風に変わったのかな?

※※※

稽古したあと、洞窟の前の泉で体を拭いたピダムが出かけた。

「食べ物取ってくるから火をおこしておけよ」
「ああ、わかった」
薪を拾い、火をおこし……汗を流したくて服を脱いで泉に入った。

ピダムが戻るまで時間はあるはず……そう思ったスンマンは知らなかった。

前の日に洞窟の側に生きた鳥を隠しておいたピダムの事を……

出かけたと見せかけ、森の茂みの影からずっと見張っていたことを……

泉に入る生まれたままのスンマンの姿を見て、息を飲み込んだピダムの事を……

スンマンは知らなかった。


※※※

鶏肉を火で炙り、二人で食べた。

いつものように蓙と毛皮を敷いた寝床にピダムに体を寄せてスンマンが眠った。
兄の様に思うピダムがまさか、自分を女として見ていたとは思ってもいなかった。

夜……すやすや眠るスンマンの服の紐を解き、前をはだけて白い肌を見ているピダムがいた。

「きれいだ……」

長くすんなりとした首から肩の丸みに続く線も、鍛えているからか普通の娘より締まっている腕も、サラシで巻いてあるが其処だけは柔らかそうな胸も……

「綺麗だ……」

町で妓房に入ったものの……妓女の荒れた肌や、きつい香の匂いがどうにも嫌で逃げ出したピダムだが……

スンマンの肌の匂いが好きだった。

稽古をして汗が滴ると漂ってくる匂いが好きだ。

首筋に鼻を寄せてスンマンの匂いを嗅ぐと、いつもの淡い花の香りがした。

すべすべな……焚火の灯りに、ほんわりと反射する白い肌が見飽きない。

「さむ……」
首から衿を大きく開かれて風が入るのだろう、スンマンの肌が粟立っていた。

そぉ~っと服を元に戻すと毛皮を掛けてやる。
「う…ん…」
もぞもぞと動いたスンマンがピダムにぴったりと寄り添う。

先程のスンマンの肌の艶やかさにピダムは躯が火照り暑くなっていた。
その熱さがいいのか、スンマンが寄り添う……

「こいつが女……」
スンマン自身が稽古を始めて、しばらくしてからピダムに伝えてきた。

「私は女だ」
「嘘だぁ~…確かに小綺麗なガキだけど………ほんとに?」
「ふふ……本当だ」
「何でそんな事俺に言うんだ?……稽古を手加減してくれとか」
「そうではない……ただ、やはり力では男には敵わないから不都合がないよう伝えただけだ」
「わかったよ」

そんなやりとりだけで、いつも男の服を着て…男以上に稽古熱心で…既に腕前もピダムに迫る勢いのスンマンが………

初めて女だと意識した。

「……ピダム?」
「あっ!わりぃ、起こしたか?」
「そんなことないよ……ふふ……」
「何が可笑しい?」
「ピダムの匂い……」
「匂うか?」
スンマンがそろそろ来る頃だと、この前服は洗ったばかりだが……
くんくんと自分の腕を嗅いでみる。
「落ち着くんだ……新羅に帰ってきたって思える」
「スンマン……」
「ふふ……大好きな匂い……」
くぅーくぅーと寝息をたて始めたスンマンに……薄暗がりの洞窟の中、瞠目し赤くなったピダムがいた。

思えば……師匠との冷戦とも言える関係から不貞腐れ、世を舐めきっていた自分に真正面から対峙したのはスンマンだけだった。

こうして二人で稽古をして寄り添って眠るのも、子供のころ師匠と旅をしていた時以来だ……


あの事件以来、師匠から拒まれた自分……

十才のスンマンが忙しい師匠から俺に教われと言われ、きちんと礼をもって真っ直ぐに見つめた……あの日。

初めて二人で寄り添って眠った……あの日。

俺はスンマンに教えるためにも真面目に師匠に稽古をつけてもらっていた。
そんな俺の変化に師匠が一番喜んでいた。

スンマンにいつまでも強い俺を見せたいために……スンマンの為に……

……なんだ、俺はスンマンが好きなのか……

焚火の灯りが小さくなった。

※※※

「う……ん…」
「やめ……なぜ?……」
「……私が…そこまで…」
「おい、スンマン!」
うわ言のように何か言っているスンマンを起こそうと体を揺する。

「あ゛あ゛ーー」
体を弓なりに反らして震えたスンマンが……目を開けた。

見開いた瞳いっぱいに涙が溜まり、溢れて流れた。
「はぁ~…はぁ~…」
「どうした…スンマン」
「な…なんでもない」

寝床から出て外に行ったスンマンを、俺は追いかけた。

泉の畔に座っているスンマンが、自分の体に腕を回し抱き締めていた。

そっと……そのまま後ろから抱きしめた。
一瞬びくっと震えたが大人しくされるがままになっている。

「何があった……」
「子供の頃の夢を見た」
「夢?」
「ふふ……侍女に毒を盛られたときの夢を……」
「毒を?……そいつ斬ってやる」
瞬時に物騒な眼差しになるピダムにスンマンが微笑んだ。
「私が斬りすてた」
「さすがスンマンだ」さすが俺のスンマン……

「侍女は父上の崇拝者でな……父が私に煩わされているから毒を盛ったのだと……」
「父……」
父親が娘を?
「私は父にも母にも忌み嫌われ……拒まれた……」
「まさか親が?」
「ふふ……」
微笑む顔に涙が流れた。

腕を解いてこちらを向かせたら、手で顔を覆ったスンマン……

「見ないでくれ……泣き顔など……見ないで……」
そっと両手で顔を覆った手を外した。


長い睫毛を伏せ、瞬きする度に流れる涙が月光に反射する……

白い美貌が堪えきれない哀しみに揺れていた。

「俺は親に捨てられ師匠に拾われたんだ」
「そうだったな……」
「俺達……似てるよな」
「親に捨てられた子供と、殺されそうになるほど厭われた子供と……似てるな」
スンマンが笑おうとして……泣き顔になった。

「ピダム……」
しなやかな躯が俺の腕の中に転がり込んだ。

俺の体に腕を回し泣きじゃくる……
「ここは風がある、洞窟に戻ろう」
首を振り余計に力を入れて縋りついてくるスンマンが………愛しい。

腕に力を込め抱きしめた。
抱き締めて判った、女性らしい細い腰と体の曲線………紛れもなく女だ

泣いてるスンマンの顎を掴み、顔を仰向かせ………口付けた。
「んっ……」
柔らかな唇と触れあって……もっと欲しくなる。

服の紐を解き、隙間から胸を触る。

「あっ!ピダム?」
驚くスンマンの唇を外して抱き上げて洞窟の寝床まで運んだ。
寝かせると俺も横に滑り込む。
「スンマン……」
「ピダム?」
「お前が好きだ」
「え?」
「俺のものになって」
「ピダム……」
服を脱がせようとする俺と、脱がないスンマンの攻防が続く。

「待て……んんっ……」
口付けて開いた口の隙間から舌を入れた。
スンマンの舌に絡ませ吸う……頭の芯が甘く痺れる……

舌を噛まれて拒まれるかと思ったが、おずおずと応えはじめるスンマンに……夢中になった。

「んっ!…」
吐息もつかせず絡み合い、舐めあい、吸い合う口付けに…いつしかスンマンも夢中になっていて。

二人ただ夢中に……

「ピダム……」
濡れた赤い唇が俺の名を呼ぶ……
身震いするほど、ぞくり…とした。
「スンマン……」
首筋に顔を埋めて肌に口付けた。

そのまま衿を広げれば白い肌があった。
舐めて吸って……強く吸ったら赤い痣が浮かんだ。

何だか俺の印みたいで嬉しくて、また口付けた。

「あ……」
鎖骨に口付けるとスンマンが小さく声を出す。

「ま…待て、ピダム」
「ん?…なに」
「寒いから……火をもっと焚こう」
「寒いか?」
「私がするから」

するり…と寝床から出ようとするスンマンを抱き締めて寝かせる。
「逃げるつもりか?」
「…そうではない」
「俺がするから其処に居て」
軽やかな足取りで枝を取りに行き、あっという間に戻ってきたピダムがこれでもかと薪をくべた。

洞窟の中が明るくなった。

「さ、スンマン!」
「聞きたいのだがな」
「ん?」
「今から私をピダムのものに……」
「うん!!しよう」
「……その後って考えてるのか?」
「え?」
「私が何を成さねばならないか、知っているか?」
ふるふると頭を振るピダムにスンマンが微笑んだ。
「ピダムらしい……」

「だが私を手に入れたければ、ちゃんと考えてくれないか?」
「考えてるさ!」
「どうする?」
悪戯っ子のように目を輝かせるスンマンを見て、面白がってるのが分かる。

「お前が此処を発つとき一緒に行く!そしてお前の剣になる」
「ムンノ殿はどうする?」
「師匠か……」
「……ただ単に女が抱きたいのか?」
「違う!!スンマンがいいんだ」
「私が新羅に居る間だけの関係か?」
「そんなの嫌だ……ずっと一緒にいたい」
ピダムがスンマンに覆い被さっていく。

貪るように口付けてから唇を離さず顎や喉を辿る。
滑らかな肌が気持いい……

「ピダム……私の気持はいいのか?」
動きが止まったピダムの瞳が潤んでいる。
「俺のこと嫌いか?嫌だった?」
じっと見ているピダムの瞳が潤んで揺れている。

微笑んだスンマンの手がピダムの頬を撫でている。

焚火が明々と燃えていた……

※※※※※

どうしても書きたくて書いちゃいました。

何か私の後ろでポジョンが泣いてますが、まだ話は続きます。
     

中.【黒獅子と月の物語】

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下.【黒獅子と月の物語】

さて、この二人どうなるんでしょう(笑)
※※※※※
若様一行はさっさとピダムに追い払われた。

「ピダム、師匠に連絡をとれるか?」
「ああ……」
「ならばすぐに会いたいと伝えてくれないか」
「分かった、今から繋ぎを置きに行ってくる」
「私は洞窟に戻ろう」
山道を物ともせず駆けていくピダムを見送り……スンマンは考え事に耽った。

「ムンノ殿がどう言うかだな……」

洞窟で待っていると思ったより早くピダムが帰ってきた。
「繋ぎを置いたから二、三日で返事か師匠が直接くるだろう」
「二、三日か……」
もしかするとそれが……ピダムと居られる期限になるやも知れぬな……

「待ち合わせはあの寺か?」
「ああ……和尚に繋ぎが来る」

「ピダム……」
「ん?なんだスンマン」
見ると寂しげに笑うスンマンが……居た。
その笑みが俺の不安を掻き立てる………急にスンマンがどこかに行くようで……
俺を置いてどこかに行くようで……
どくん!と胸が騒ぎ苦しくなる。

「スンマン」
抱きしめて髪の中に鼻を埋めて匂いを嗅いだ。
「ふふ……何でもない」
スンマンも俺を抱きしめた。
何だか不安でスンマンに口付けた。
「ピダム……」
「スンマン…俺…俺…」
何を言えばいいのか分からなくて……寝床に抱え込んでスンマンを抱きしめて……求めるしかできなかった………

※※※

三日後、寺で待つスンマンの前にムンノが現れた。
「お久しぶりです。ムンノ殿」
「お久しぶりです。スンマン様……何かお話があるとか」
「はい、さっそくですがよろしいか」
「はい」
スンマンとムンノが寺の一室に入っていく、とスンマンがピダムも一緒に話があると呼んだ。

三人だけになりスンマンが話し出した。
「ピダム……私は新羅の聖骨の公主だ」
いきなり……何を?
「嘘だ……だって剣を習う王族の姫なんて」
「本当だ……私はスンマン公主。幼き時より中原に出されているはずの者だ」
「ピダム、本当だ」
師匠まで……本当なのか? 俺は公主を抱いたのか?

「私が成さねばならない事があると言ったのを覚えているか?」
「ああ……」

そしてスンマンが初めて、成さねばならぬ事を話し出した。

「この国を食い物にしているのは…ミシル宮主もですが、利権を漁る貴族達だと私は思っています」
ムンノが黙って聞いている。

「私はチョンミョン姉上と共にこの新羅を変えたいと思い、密かに騎馬隊や密偵団を作っています」
「何ですと、女の身でですか?」
「はい、ヨムジョンの助けを借り中原の私の領地と新羅の領地で……」
「ヨムジョンも知っているのですか」
ムンノが驚いていた。
「私によく尽くしてくれます」
にっこり微笑んだスンマンをムンノが瞠目してみていた。


「そこでピダムの事でお願いがあります」
「ピダムの事ですか」
……俺のこと?
「私はピダムが欲しい……ピダムさえ心を決めてくれたら生涯、私の傍におきたいのです」
「スンマン様!なりません!」
師匠が叫んだ。……何故?
「ピダムには荷が重すぎます……それに私が書いている三韓地勢を欲しがっています」
「ですからピダムの心のままにと思っています」
……俺の心のまま……

「ピダムに選ばせるのですか?」
「本人の人生です。自分の生き様を決めるのも男でしょう」
静かに微笑むスンマンが俺には怖かった。

※※※

俺は洞窟に来ていた。
泉の畔で水面を見て………さっきまでの二人の言葉を思い出していた。

「三韓地勢……つまり、百済や高句麗を倒し新羅が名を残す三韓一統……これをやり遂げた者は歴史の主になりますね」
「そうです……ピダムには歴史の主になるよう精進してもらいます」
「それは本心ですか?」
ムンノがぎくりと顔色を変えたのをスンマンは見逃さなかった。

「私は新羅の民のための政治を考える王を助けたい……その礎になれればそれでいいのです」

「チョンミョン姉上がそう考えている……早く作り上げ新羅に戻るため、助けてほしい」
スンマンが俺を見詰めている……その眼が余りにも静かで俺はスンマンの真意が分からない……

「ピダム、自分で決めたらいい……歴史の主になるか、ただの礎として私と共に在るか……」

「ピダムお前は下がりなさい、私はスンマン様と話がある」
「はい、お師匠様」
ふらふらと部屋を出て行った俺は、静かに隣の部屋に入って耳を澄ませた。

「スンマン公主様……本気でピダムを?」
「私は本気です。ムンノ殿の方こそ違ってはいませんか?」
先程の動揺をスンマンの鋭い眼が指摘していた。

「ピダムは柄の無い剣のような者、握れば手が切れます」
「ふふ……私も似たようなものでしょう」
「スンマン公主様」
「私達は二人共に親に拒まれ愛を受け取れなかった子供だ……」
「ピダムには貴方がいたが……私には誰もいなかった」

「だが、貴方もピダムを拒んだ……」
スンマンの声が抑えた怒気を含んでいた。
「何故、手を離した! 人を殺すのは悪いと教える前に毒の知識を与えたのは貴方だ……」
スンマンの抑えた叫びがムンノの胸に突き刺さる。

「人を殺すのは悪いと教えなければ分からないのか?」
師匠の声が珍しく動揺していた。

「母親が子供をどう育てるか見たことがありますか?」
「………」
「物を盗るのはいけないこと、人を叩くのもいけないこと、人を傷つけるのもいけないこと、危ない事はするなよと毎日何度でも話して聞かせて叱るのが母親です」

「子供は幼い時は母親から全てを学ぶ……それこそ箸の使い方から……貴方は一人でそれらをしなければならなかった」
「だが、貴方は距離を置きピダムを孤独にした」
「私は……悔やんでいますが、今も分からないままなのです」

スンマンが頭を下げた。
「ピダムを全身全霊で愛してやって下さい……今からでも遅くはない」
「スンマン公主様……」
「ピダムに貴方が思う事総てを聞かせてやって下さい……戸惑いも愛も総てを……」
「スンマン公主様」

顔を上げたスンマンは泣いていた。
「ふふ……男ならば歴史の主になりたいもの。名も残せない生き方を選ばなくともよい………ピダムは貴方を選ぶでしょう……」

「貴方の元に来たピダムを愛してやってほしい………ふふ……このスンマンが欲しがった男だ、粗末に扱えば貴方とて只ではおかない!」
「スンマン公主様はどうなさりますか?」

「私?ふふ……さて、私はどうなるかな……だが、心配せずとも私は大丈夫です」

涙がスンマンの頬を濡らし続けた。
「心を抉られる痛みには慣れている……」

髪をかきあげたスンマンの首筋に赤い痣を見つけたムンノが息を飲んだ。
「もしやピダムにその御体を与えたのでは?」
「ふふ……」
「それほどピダムを思って下さったのか」
「私はよい……」
すっと席を立ったスンマンがムンノを見て静かに微笑んだ。
「ピダムをお願いします」
「はい……貴女はどうされるのですか」
「ピダムが貴方を選べば二度とは会いません……一人で進みます」
「愛はどうされますか」
「ふふ……何年かかるか分からないが探してみます……今度は私の為なら死さえも喜びになる男を……その男に私を与えて愛される事にしましょうか……」

部屋を出ていったスンマンと残ったムンノ……

ピダムは一人、洞窟に戻った。

※※※

水面が日差しで輝いて……次第に茜色に染まり、遂には黒く月明かりに煌めくようになってもピダムは動かなかった。

歴史の主になるか……名も残せない生き方か……俺はどちらを選ぶ……


ふらふらと今朝までスンマンと過ごした洞窟に入り焚火をおこした。

毛皮の寝床に一人で入ったら……スンマンの匂いがする。

「ピダムが貴方を選べば二度とは会いません」
師匠を選べばスンマンと二度と会えなくなる……

ふふ……何年後かは知らないが今度は私の為なら死さえ喜びになる男を探してみます……その男に私を与えて愛される事にしましょうか……

スンマンが他の男に抱かれる……
アイツは俺のものだ……誰にも渡さない……

歴史の主…名を残す……権力…金…俺には実感がない
俺が欲しいのは……あの温もりだけ

スンマンと過ごしたこの年月を思い出す。
アイツが居れば孤独じゃなかった……子供のアイツを抱きしめて眠った夜は、ただ温かかった。

その温もりが師匠とも向き合える力になっていた……

「ははっ! 俺ってスンマンが居ないと何もできない……」
そのスンマンが泣いていた………俺を愛してやってくれと師匠に頼んで泣いていた……
「お姫様のくせに……俺の心配ばかりしてやがる」

俺は……

焚火を消し毛皮をしまいピダムは洞窟を飛び出し夜道を駆けていった。

※※※

「お師匠様、俺は三韓地勢なんかいりません」
寺に走り込んできたピダムがムンノを見て開口一番そう告げた。
「俺はスンマンと共に在ればそれでいい」
「なら早く伝えに行きなさい……宿屋に泊まっていらっしゃる」
飛び跳ねて行く弟子に頭を振りながらムンノの顔は笑っていた。

「スンマン!」
「ピダムどうした」
村に一軒ある宿屋に泊まってたスンマンの部屋に飛び込んで……スンマンを抱き締める。

「俺はお前と生きていく」
「ピダム!」
「名を残すなんかどうでもいい……お前が居ればそれでいい」
「ふふ……悔いは無いのか」
「無いさ!」


もう言葉はいらなかった……二人の影が重なり……

※※※

あれから何年経ったかな……

「騎馬隊整列しました」
「よし、分かった」
天幕の中、ユシンと他の将軍に混じりスンマンが居た。

「スンマン様、騎馬隊整列しました」
「ではユシン殿、手筈の通りに」
鎧姿のスンマンがそこに居並ぶ誰よりも凛々しく美しい……

天幕を出て敵の本陣を誘い出す遊軍としての動きを各小隊長に詳しく説明する。

「では黒獅子将軍はどうされる?」
「私は貴女の部隊を追い掛ける敵を背後から殲滅します」

「行くぞ!」
スンマンが騎乗し騎馬隊の士気が上がる。

俺も愛馬に跨がり部隊を振り返る。
「よいか、我が新羅の宝を狙う敵を討つのだ!」
「おー!」

スンマン公主率いる新羅の騎馬隊は目覚まし活躍をしていると人気だった。

そりゃそうさ、スンマンと俺が手塩にかけてしごき倒した部隊だ。

俺達が中原に着いてしばらくして師匠まで合流したのには驚いた。

それから色々あったが俺は変わらずスンマンの側に居られて嬉しかった。

しかし、戦だとスンマンに触れられなくて苛つく!

早く討ち取って今夜こそ………

「皆!行くぞ!」

馬を駆けさせ敵に向かう。
そこには黒獅子将軍と呼ばれるピダムの姿があった。

勇猛果敢なその将軍は黒一色の衣装を着込み常にスンマン公主と共にあった。

※※※

戦勝祝いの宴が開かれた。
「ユシン殿、ピダム殿、よくやってくれました」
新羅初の女王、トンマン女王が労いの言葉をかける。

「遅れてすみません」
そこに煌びやかな公主服に身を包み化粧も施したスンマンが現れた。

皆と談笑し酒を飲み過ごすスンマンから眼が離せない……

席を立ったスンマンの後を追うと人気の無い池の橋に来た。
「スンマン……どうしてそんな格好した」
「いつも鎧姿だろ?たまには綺麗にしてお前に見せたかったのだ」
「きれいだ……」
「ふふ……宮に行こう」
「ああ……もう我慢できないよ」
四方をさっと見て誰も居ないのを確かめると口付けた。

「んっ……」
スンマンの躯から力が抜ける……人の気配に唇を離す。

「う~……ごほんっ」
後ろを見るとアルチョンが居た。

「邪魔だ」
殺気まで含んだピダムの声を指で抑えてスンマンが微笑んだ。

「何用ですか」
「貴族達がスンマン公主様に挨拶がしたいと」
「私は戦の疲れが出たため宮にて休んでいると伝えて下さい……ピダム行こう」
ふらついたスンマンをピダムが抱き上げ、さっさと運んでいった。

「はぁ~…うまくって……」
アルチョンの苦笑まじりの呟きが風に消えていく。

二人の夜は誰にも邪魔されず更けていった……

※※※※※
     

①【黒獅子と月の物語】

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【黒獅子と月の物語】について……☆11月12日追記あります

このタイトルの記事はスンマン×ピダムですのでご注意ください。

トンマン×ピダムじゃなきゃ嫌よ!
という方は見ない方がお互いの為なので、見ないで下さいね。

パラレルワールドとして、トンマンと出会う前に出会った二人を「まぁ……こんなんも有りかな?」と思える方だけ見てください。

パスワード制にしたので、つい押して見ちゃった……という事も無いようにしました。


勝手ですが……それでも書きたかった私の妄想です。

きっと続きます(笑)

追記***11月12日
設定としては、ピダムがスンマンより7,8歳年上です。
そのため兄貴ぶります(笑)

初めて二人で稽古したときから、兄貴ぶりたいピダムが師匠に教えを乞い素直に従う事で師匠のムンノ公が味を占め・・・それからずっとスンマンを教えていたという流れです。
またその頃のことも書きたいなあ・・・

ピダムがお年頃になり、スンマンを女性として意識し始める頃とか、中原で騎馬隊および密偵団を作り上げてスンマンと新羅に戻った頃も・・・

たぶんそれだとトンマン&ピダムしか好きじゃない方には・・・無理っすね(笑)
ピダムはきっと、惚れたらその人しか見えないし、要らないんだろうと思います。

でもこの【黒獅子と月シリーズ】を書いて自分がピダムが好きで書いてることに気が付きました。
トンマンももちろん大好きですが、ピダムが不憫で可愛くて(見た目も大好物です)・・・に気が付いた私です。

こっちも続きます、話は時系列ではなくて時が飛んで書くと思いますが、良かったら見てください

プロフィール

すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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