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①闇色の月【騎馬隊編】

スンマンが作りたい騎馬隊の章です。

この章からは、スンマン主役でいきます。

スンマンの抱える闇と煌めきを表せたらいいな……(文章力が追いつきませんが)

トンマンとピダム主役では、新しく章を作ります。

ではでは
※※※※※
「では、スンマン。そちが作りたがっている騎馬隊の説明を」
チンピョン王は公主服に身を包んだ美貌の姪に促した。

「はい陛下」

便殿で、王座の前に居並ぶ臣下を集めた会議で王は元より、ミシル宮主もトンマンも、大等達にも臆することなく話し始めるスンマンの玲瓏とした声が響く。

「それは……人馬一体の部隊で、騎乗したまま弓を打ち、戦場を自在に駆け抜けられる機動性も持つような物です」

スンマンの冴え渡る月光のような美貌と、よく通る玲瓏とした声に大等達は見惚れていた。

「……何年かかるか分かりませんが新羅の為、皆様にも賛成して頂きたいと思っております」

王に頭を下げ、後ろに下がったスンマンに代わりトンマンが話そうとした時……

「素晴らしいお話でした。」ミシル宮主が話し出した。

「この様な事を考えるスンマン公主様に私、感服致しております」
小さくスンマンに頭を下げたミシル宮主に、スンマンも微笑みながら頭を下げた。

……ふふっ……どう出る?ミシル……


が、ミシルも騎馬隊に賛同したため、気が抜けるほどあっさりと認められた。

そしてこの日の便殿会議は終了した。

※※※

場所を円卓に移して話し始める王やミシル宮主、トンマン公主とスンマン公主、上大等セジョン、ヨンチュンやソヒョン等が座っていた。

「では騎馬隊の責任者をどうするか」王が言うと。

「陛下、風月主ユシン殿はどうでしょう」トンマンが最も信頼する者の名を出した。

「畏れ多いですが、スンマン公主様に旗頭になっていただければ……」ミシルがやんわりと言い出す。

「私ですか?」
ミシルを真っ向から見つめ優しく公主然と微笑むスンマンに、ミシルも微笑み返した。

「はい、そうです。そして実際に朗徒達を訓練する者は花郎から選ばれたら如何でしょう」

「それは……私としても喜ばしい事ですが……」何を考えてる?古狸……

「担当者はスンマン公主様にお任せしましょうか……」
ミシルの狙いが解らず小首を捻るスンマンだった。

「では風月主ユシン殿と花郎ピダム朗は……如何ですか」
考えていた名前を上げミシルの反応を微笑みながら見るスンマン。

「風月主はお忙しいですし、ピダム朗は花郎になって間もないですね。……心もとないので、補佐にポジョンを置いては如何でしょう」

「……」
スンマンの顔がぴくんと反応したのをミシルは見逃さなかった。

……ポジョンの事を少しは意識しているようだな……ほほっ、善きかな善きかな……
ミシルの顔に笑みが広がる。


王が認め騎馬隊はスンマン公主の指揮のもと、ユシン・ポジョン・ピダムで作る事になった。


「では陛下、認証式は吉日に執り行いましょう」ミシル宮主の言葉で会議は終わった。

※※※

「ポジョン……お前もなかなか……」
ミシルの宮に呼ばれたポジョンは、母が上機嫌で笑っている意味が解らなかった。

「母上?」
父のソルォンは元よりセジョン、ハジョン兄上にミセン叔父まで………にやにやと笑っている。

「スンマン公主がこの度、新羅に騎馬隊を作ることになった」
ミシルが言い出すと、次いでミセンが続ける。

「ユシンとピダムにポジョン、お前達三人がスンマン公主様のもと騎馬隊を作るのだぞ」

「私がお前の名前を出したら……スンマン公主が反応していた」
「女とは男の真心に弱いもの……はぁ~はっはっはっ、やるなぁ~ポジョン」

「お断りします」ポジョンの言葉に皆が驚いた。

「何故だ!」
「もう私はスンマン公主に何の興味もございません。……そんな事に時間を取られるのも迷惑です」

「ポジョン……では、母の命令です! スンマン公主を手伝いなさい! 否やは言わせぬぞ……」
「はい、と御返事するのだポジョン」
ソルォンが焦って息子を見る。

ミシルの性格を熟知している彼は、息子でも容赦なく切り捨てる事を知っている。

ポジョンの身を案じて狼狽える父を見て、諦めたように返事をした。
「……はい、分かりました」

無表情の息子の返事に眉がぴくりと動いたが、畳み込むように次を命じた。

「私の命は前と同じだ……スンマン公主を此方に取り込みなさい」

「……」
「ポジョン!」
また父に急かされ頷かざるおえないポジョンだった。

「はい、分かりました」


母の前を辞した後、深い……深い溜め息を洩らすポジョンだった。

※※※

各花郎の朗徒の中で身体が小さい者を募ると五十人余りが集まった。


「多く集まったな……」
トンマンが傍らのスンマンに言うと、スンマンはまだ増やしたいと言っている。
「最初はこの人数からで、後々は百人の部隊にします」
「倍だな」
「はい、姉上」
「馬の手配はどうだ?」
「騎馬隊の馬を増やすため、新しく馬場と繁殖用の厩舎、それに訓練用の馬場と厩舎を作らせています」
「王宮の近くなのか?」
「訓練用のは王宮の近くに、繁殖用のは郊外に作っております」

トンマンは淀みなく答える従姉妹を称賛の目で見た。

「素晴らしいスンマン」
「ありがとうございます」
「準備にこの頃、忙しかったのだろう……」
「ふふ……やっと事を始められて嬉しくて……」
「うむ、そうだな」
「姉上もたまに馬に乗りませんか?」
「乗りたい……」
「時間を作って下されば私が御一緒いたします」
「分かった」
「ふふ……きっとですよ」

トンマンの宮を辞したスンマンは、騎馬隊の執務室へと向かった。

空いている宮を、そのまま執務室へと替え使っている。


「……誰も居ないか…」
どっか、と椅子に座り長卓に足を乗せ腕を組んでいたら……寝ていた。

明日の認証式や朗徒の手配、あれやこれやの準備に忙しく、この五日ほとんど寝ていない疲れが出ていた。


「失礼します」
ポジョンが入ってきたのは、スンマンがぐっすりと寝込んでからだった。

中に居たスンマンに慌てて出て行こうとしたポジョンだったが、寝込んでいるのを見て部屋に戻った。

「疲れておられるのだな……」

最初、どう顔を会わせていいのか戸惑っていたポジョンだが、スンマンはピダムやユシンと全く同等にポジョンと接していた。

ユシンやピダムの方が、何か思惑があるだろうと探るような目を向けていたが………

余りの忙しさにそんな事を感じる暇さえ無かった。

騎馬隊の準備に忙しく働いていたスンマンが、この五日余り寝ていない事も知っている……

書類を作りながらスンマンの傍らで、番をするか……と持ってきた書類を見直していた。


「……ん……」
体制が苦しいのか、もぞもぞと動くスンマンの顔が椅子の背に仰け反った。

「これでは首を痛めてしまう……」
部屋の中にあった毛布を丸めて、スンマンの首と椅子の間に挟んで………ポジョンの息が止まる。


髪がかかって見えなかった顔が、動かした拍子にあらわになっていた。


「………」
毛布を挟むため、首を触っても起きなかった処を見ると、余程疲れているのだろう。

白く輝く美貌が、ポジョンの目の前にあった……

王宮に戻ってスンマンを見てから日増しに募る想いに……自分でも戸惑い、持て余していた。

しかも今は騎馬隊の準備で、毎日朝から晩まで顔を会わしている。

……嬉しさよりも苦しさが勝つ……


ポジョンの震える手が、スンマンの滑らかな頬に触れたくて伸びた。

《あと…少し》
僅かな隙間を挟んで白い頬に触れられる……

だが……ポジョンは手を引っ込め再び椅子に座った。


……あの方に触れたら最後、正気でいられる自信がない。


無理矢理、書類に没頭して時が過ぎた。

どかどかと誰かの足音が響く。

「ん……」
気配に気づきスンマンが起きた。

まだ寝足りないのか完全に目覚められず、常のスンマンでは考えられないくらい………ぼぅ~っと椅子に座っていた。

しばらくして卓に突っ伏しているスンマンが、また眠りそうで思わずポジョンが話しかけた。


「スンマン様、御自分の宮に帰って眠られたらいかがですか?」
心配そうに言うポジョンを、卓に顔をつけたまま、じっ…と見つめたスンマンの瞳が……閉じられた。


「寝てしまわれたか……」

くすっと笑ってしまったポジョンだった。

先程、丸めた毛布を肩から背中に被せておく。

「おい、スンマンいるか~」
突然、入ってきたのはピダムだった。

「なんだ寝てるのか……疲れたんだな」
スンマンが突っ伏している横に座り、ポンポンと頭を撫でた。

「……ピダムか…」
「全く、だから夜は寝とけって言っただろ」
「ふふ……すまぬ」
「動けそうか?」
「無理だ……もうしばらくこのまま……」
「宮に連れ帰るぞ、スンマン」
「……ん……」

また眠ったスンマンを、ピダムは無造作に担いだ。

「!!!」
「扉を開けてくれ」
ポジョンがぎこちない動作で扉を開けると、ピダムが担ぎ上げたままスンマンと出ていった。

「ったく~…昨日は風呂で溺れそうになってるし。ちゃんと寝台で眠らせないと!」

ピダムの一人言がポジョンの拳を握らせた……

「あの二人、もしや?」
蒼白な顔のまま、ポジョンは執務室を後にした。

※※※

「手間をかけたな、ピダムありがとう」

自らの宮の寝台で眠ったスンマンが、すっきりと目覚めたのは陽が翳り始めた夕方だった。


「明日の朝まで寝てろよ」
「そういう訳にもいかぬのだ……ユシン殿の酒席に誘われていてな」
「ああ……騎馬隊の面子で飲むんだろ?……俺も呼ばれた」
「行くか?」
「いや、俺はいい」
「ふふ……そういう所で繋がりを作ることも大事だぞ」
「ん~……わかってんだけど~」
「まぁ、今宵はユシン殿の屋敷でだからな……ピダムには堅苦しいかな?」
「ああ」
「ならばいいさ」


すっと立ち上がったスンマンは、タンシムの出した服に着替えていく。


「お一人で行かれるのですか?」
心配そうに言うタンシムの頭を撫でながらスンマンは頷いた。

「お前は先に寝てなさい……」
「はい」

着替え終わったスンマンは、どこから見ても貴族の若様だった。

「ピダム、頼まれてくれないか」
「何だ?」
「この中原の書物を姉上に届けてくれ」
「おう!分かった」
「ふふ……物語だから、お前が姉上に読んで聴かせてやれ」
「え!」
「姉上は毎晩遅くまで調べ物やらされているからな……たまには早く休んでもらいたい」
「寝るまで読むのか?」
「ああ……私からの贈り物と伝えてくれ」
「わかったよ」
「では、行ってくる」

すたすたと宮を出たスンマンだが、やはり体調が悪いのか少しふらついた。

「無理をしたかな」

言葉とは裏腹にニヤリと笑ってユシンの屋敷へと向かった。
※※※

「ふぅ~……酔いが早いな……」
ユシンの屋敷からの帰り道……誰かが後をつけていた。

「ふふ……物好きなやつ」

スンマンの足がヨムジョンの賭博場へと向かう。

後をつけている者は殺気も無く、ただ様子を伺っているようだ。


ヨムジョンの店に入るとき、ちらりと後ろを見れば誰もいなかった。

店を通り過ぎ奥にある部屋に入ると、酒を持ったヨムジョンが入ってきた。

「急にお越しで……香酒のいいのがありましたから~~お持ちしました」

「すまぬな、ヨムジョン」
「何を仰いますやら~~」
「私の後に誰か入ってきたか?」
「は?……つけられてたのですか?」
「調べてくれ」
「はい、只今」
ヨムジョンが部屋を出ていった。


「殺気は無かったが……」
香酒の爽やかな薫りを楽しみながら待っていたスンマン。


ヨムジョンが戻ればスンマンが眠っていた。

「やれやれ、そっとしとくか」

ヨムジョンが珍しく静かに部屋を出ていった。

あとには寝台で眠ったスンマンだけが残っていた。

※※※※※

続きま~す(^o^)/
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②闇色の月【騎馬隊編】

スンマンの始まりはチョンミョンなんですよね……

幼い頃、従姉妹を気にかけたチョンミョンに、憧れとも恋とも云える気持ちを持っていた。

そして異形の自分を唯一認め、愛して(チョンミョンは従姉妹としてですが)くれるチョンミョンの力になりたくて……なれなかった哀しさ。

そしてスンマンの【異形】を書きたいです。

ポジョンの一途な感じもだせたらな~

楽しんで頂けたら嬉しいです(^o^)/

※※※※※

「貴女は無茶ばかりするから、心配よ」
小首を傾げながら、頬に触れてくる白い繊手……

「姉上……」
自らの頬にチョンミョンが伸ばした繊手をとり掌に口付ける……
「心配なさるな、私の姉上……」
微笑むチョンミョンを抱きしめた、あの日。


「スンマン、私に友ができたの。朗徒のトンマン……貴女にも紹介したいわ」
頬を紅潮させ嬉しげに言われた姉上……

「トンマンとユシン殿と新羅を変えたいの。 貴女にも手伝ってほしい……いいかしら?」
決意を秘めた厳しい顔をされた姉上……

「はい、姉上……その為に私は準備致しました」
「でもね、くれぐれも無茶はしないでよ」
心配そうに眉を寄せながら言う姉上……
「姉上は心配しすぎですよ……」

くすり、と微笑みながら目を開けたスンマンは、それが夢とはしばらく気がつかなかった。


「ゆ……め?」
きょろきょろと部屋を見渡せば……王宮にあるチョンミョンの宮ではなく、ヨムジョンの店。


がばっ!!
起き上がったスンマンは、体が震えていた。

「くそっ!しまった!!」
両手で自分の体を抱き、変化を止めようとする。


「無理か……ヨムジョン! ヨムジョンはおるか!」

「はいスンマン様」
常には無いスンマンの大声に、慌ててヨムジョンが走ってきた。

「縄を持ってこい!早くだ」
「はい~」

汗が滴るスンマンの変わりように、ヨムジョンが怯えた。


「これでよろしいですか?」
「この部屋は閉めきれるか?」
「はい、外から梁で閉じられます」
「ならば私を縛った後、部屋に閉じ込めておけ……明日の朝、開けよ」
「もしや発作が?」
「ああ……人死にを出したくなければ言う通り……に!」
ドクン!と鼓動が跳ね上がる……

「くぅ!」
苦しさに耐えるスンマンの美貌にヨムジョンがつい見惚れた……その時。


「スンマンが来てるって?」
扉から、ひょこりとチュンチュが顔を出した。


人の気配がした…その瞬間、スンマンの手に小さな刃がきらめく。

掌に隠れる位の小さな短刀は、スンマンの武器だ。

投げる瞬間チュンチュを認めたスンマンが、咄嗟に刃を握りしめ己を止めたが……

掌から血が滴り流れる。

「ヨムジョン!早くチュンチュを遠ざけろ~……早く!」

寝台の上で苦しがるスンマンに、青ざめたチュンチュが駆け寄ろうとしてヨムジョンに引き摺って連れていかれた。


「スンマンはどうしたのだ」
「スンマン様の発作です」
「発作?……どこか悪いのか?」
「私も初めて見ます。……スンマン様の話によると、スンマン様は常々、烈しい気性を理性で抑えておられます」
「ああ……それは判る」
「ある時、その理性が弾け飛んで動く者全てを攻撃するそうです」
「それが、今のか……」
「時が過ぎるのを待つか、人を殺めるまで治らないと聞きました」
「凄まじい……な」

「うあ゛~~~………」
獣のような咆哮が聞こえる。

「は……はやく扉を閉めよ!」
スンマンが叫ぶと、ヨムジョンが素早く扉を閉め、外から梁をかけた。

太い木の棒で閉じた扉の前に部下を置き、見張らせたヨムジョンがチュンチュを連れて店に行った。

「あね……うえーー」
血を吐くような叫びにチュンチュが戻ろうとして、ヨムジョンに止められた。

※※※

ヨムジョンの部屋にきた二人は、茶を飲みながら耳を澄ませていた。

「チュンチュ様の御母上の死が、余程こたえてらっしゃるのでしょう……」
「スンマンが……」
「そもそも私を拾い、組織を作り鍛えたのも御母上の力になりたいからと聞きました」
「スンマンはいつ死の報せを受けたのだ?」
「確か……もう新羅に戻られていた途中だったと……」
「お前は側にいたのか?」
「いいえ……しかし側に仕えていた者によると、それはもう酷く沈まれて……後を追われるかもしれないと心配していたそうです」

「そんなに……」


「う゛あ~~……」
聞こえるスンマンの声が哀しくて……チュンチュは部屋の方角を見ていた。


その頃、スンマンの叫び声にビクビクしながら見張っていた部下に話しかける者が居た。

「中に入れてくれないか」
「ですが、私もよく知りませんよ!どうなるか」
「……これをやろう」
金子の入った袋を渡すと、その部下は簡単に梁を上げた。

「私が入ったら元通りに梁を下ろしてくれ」
「へい、わかりました」

中に入っていった者を見て、部下は首を捻っていたが懐の袋を開けて……思いの外の金額に笑った。

「へっ!金を貰えりゃ何でもするさ」
とはいえ物好きな……と扉を見たが、金をどう使おうかと考えてニヤついていた。

※※※

部屋に入った男はポジョンだった。

傷の手当てをしようと布と消毒用の酒に、水も持って部屋に入った。

寝台の上で苦しがるスンマンを見つめ、静かに近寄ろうとしたポジョンに何かが飛んできた。


咄嗟に避けたのには、さすが花朗と誉められるだろう。

避けたポジョンが居た位置の壁に、短刀が三本並んで突き立っていた。

「う゛……はやく、出ていけ……私が正気なうちに!」

「掌の傷の手当てをさせて下さい」
ポジョンが近寄ろうとしたとき。

「あ゛あ゛あ゛~~」
一際大きく叫び仰け反ったスンマンが……気を失った。

素早く傷の手当てをしたポジョンが、そのまま椅子に座り見守っていると……

ふいに……ゆらり、とスンマンが立ち上がる。

「おまえはだれだ」
「スンマン様……」
「あねうえはどこだ」

スンマンの全身から蒼く焔が立ち昇り、ゆらゆらと陽炎のように見える。

「あねうえ……」
「トンマン公主なら王宮にいます」
「と、ん、ま、ん?」
「スンマン様?」
「わたしのあねうえは……ちょんみょんあねうえだ」
「……」

……錯乱されている

「おまえ、だれ?」
にぃ~っと唇の両端を上げた笑顔が……恐ろしい。

冷たい汗がポジョンの背中を這う……スンマンの気迫に肌は粟立ち、髪はチリチリと逆立つようだ。

「おまえのはなは…どんなはなかな」
「花ですか?」
「ちのはなは…どんなかな」

言うなり卓を足で蹴りポジョンごと壁に寄せた。

スンマンの足が卓にかかり、力を入れ続ける。
壁と卓に挟まれたポジョンが余りの強い力に身動きできず呻いた。

「はぁ~はっはっはっ」
烈しい気性そのままに笑い続けるスンマンが、ポジョンを見て舌舐めずりしている。

「おまえ…しぬ」
手に小さな短刀を持ち刃の光を眺めるスンマンが、ポジョンを見た。

「ちが…みたい」
ふわり…と、音もなく卓に飛び乗り、挟まれたままの動けないポジョンの目の前に来た。

ポジョンの首に短刀をあて、ふと自分の布が巻かれた手を見た。

「これは…なに」
布を外そうとするスンマンの手を思わずポジョンが止める。

「外しては傷に障ります」
「……」
「私を殺せば貴女の苦しみがなくなるのなら……どうぞお気持ちのままに」
微笑むポジョンは、ミシル宮の地下で別れたときの笑顔が蘇っていた。


スンマンの脳裏に浮かんだ情景……
「母に死を賜る覚悟はできています」
潔く、清々しい笑顔。

どこかでみた……こいつしっている……
「ぽ…じょ…ん…」
「はい、スンマン様」
嬉しげに見つめるポジョンの笑顔……

「おまえのねらいはなんだ」
「?」
「ほんとに……ころすよ」
にぃ~っと笑ったスンマンが、興奮しているのか舌で唇をちろちろと舐めている。

ポジョンは余りの煽情的なスンマンの顔に、魅入ったまま凍りついていた。

「貴女が望むのなら……貴女の役にたてるなら、本望です」

それはポジョンの本心だった。
錯乱したスンマンが、血を求めていると感じた時にポジョンは覚悟した。

毎日募る想いが苦しくて……スンマンの手にかかるならそれも喜びになる。


また音もなく卓から降りたスンマンが、長い足を振り上げ落とすと……一撃で卓は壊れて床に散った。

掌の短刀は無く、ポジョンの前に笑顔で立つと……


どすっ!!
「ぐぅ……」
ポジョンの腹に拳で殴る。

「しんじない……私をあいするのは、あねうえだけだ」

痛みに体を折り曲げたポジョンを、下から膝で蹴りあげた。
「がはっ!」

服の襟を掴みポジョンの顔を起こすと壁に放り投げる。

「わたしはいぎょうのもの……」
ポジョンの腹や胸や至る所を、スンマンが殴り続けた。

力尽き、膝をついたポジョンの髪を掴み顔を上げさせ……スンマンが笑う。

「だれからもあいされず……だれもあいさず……それがわたしだ」

「ごほっ……スンマン様?」
「それがわたし……あいされない、ばけもの」

「だれもちかづかない……ばけものが、すんまん」

「ちちうえがころそうとするほど、わたしはきらわれた」

「ははうえは……わたしをみるのも…いやがった」

ふらふらと部屋の中、ポジョンを離し歩き回るスンマンが抑揚の無い声でブツブツと呟いている。

「おまえなど、うむのではなかったと…ははうえはいった」

「わたしはうまれなければよかった……ばけものだから…」

「あねうえだけが、わたしのひかり…」

「だれからもあいされない……わたしはばけもの」

「御父上が殺そうとなさった?」
ポジョンが聞くと、スンマンはにっこりと笑った。

「じじょに、どくをもられた…ちちうえがしむけた」

「ちちうえが、わたしをいらぬともうされた」

「ばけものが、しるらにいてはならんと……」

「よそのくにでどうとでもなるがよい」
「すんまんはばけものだから……」


「ああ……何ということだ」
ポジョンの顔が、スンマンの苦しさに歪んだ。

目の前の想い人が背負っていた苦しみ……なんと哀しいのだ。

それを笑顔で話されている……胸が苦しいです、スンマン様

私は母に愛された事は無いが、父には慈しんでもらえた。

父の厳しさも私を思う故と判っている。

だがこの方は……貴女は……

想いが溢れだしていく……抑え封印していた想いが胸の内から溢れていく……

ポジョンは、うろうろと部屋の中を歩き回るスンマンに駆け寄り抱きしめた。

酷く殴られた痛みはもう感じない……

それよりも目の前の貴女が哀しくて、いとおしい……

ありったけの想いを込め、抱きしめる。

抵抗もせず虚ろなスンマンは、ただ立っていた。

「愛しています、スンマン様」

「だれからもあいされない……わたしは、ばけものだから……」

「私は貴女を愛してる」

「わたしにはあねうえだけだ」

「あねうえがわたしのひかり……」

「貴女が誰を見ていようが構わない……私が貴女を愛しているのだから」

「あい?」
「命かけて愛しています、スンマン様」
「あいしてる?……すんまんを?」
「はい、スンマン様」

「ぽじょんは、すんまんを……」
「愛しています、私は貴女のものだ」

小首を傾げてポジョンを見るスンマンに、躊躇いながら口付ける。

軽く、唇をつけただけの口付け……

スンマンの瞼が一度大きく瞬いた。

「ばけものすんまんは、だれからもあいされない……」
「私が居ます……私が居る……愛しています、スンマン様」

熱を持った熱いポジョンの腕に抱きしめられたスンマン……
その体から殺気が……蒼い焔が消えていった。

再び近づいてきたポジョンの唇を受け……入ってきた舌を感じ、おずおずと応え始める。

「んっ……」
だんだんと深くなる口付けに体から力が抜ける。

そのまま気を失ったスンマンを寝台に寝かせたポジョンは、スンマンの心に受けていた傷を想い静かに泣いた。

※※※※※

暗いですね(^_^;)
     

③闇色の月【騎馬隊編】

※※※※※

東の山々が明るくなってきた。
朝日から夜明けの報せが届くころ……スンマンが目覚めた。

「ここは……私は……」
霞がかかった頭が、ぼうっとして思考が働かない。

「また発作か……」
起き上がったスンマンの足元に、ポジョンが座ったまま寝ていた。

「ポジョン殿……何故ここに?」
……途切れ途切れに記憶が甦る。
「あっ!!」
青ざめたスンマンが寝台を降り、ポジョンの服の前を開くと身体中に痣ができていた。

「あ……すまぬ」
「スンマン様……」
体を触れられた刺激でポジョンが起きた。
「すまぬ、ポジョン殿」
「戻られましたか……スンマン様」
「ああ……戻った」
「良かった」
ほっとしたように言ったポジョンが、スンマンを抱きしめ……口付けた。

「……んっ…」
ポジョンも寝ぼけていたのか、スンマンとの口付けで正気に戻って慌てて離した。

「申し訳ございません」
「……いや、気にするな」
「私は、これで帰ります」
「私も宮に帰らなければ……」
「先に出ます!!」

部屋の見張りに声をかけ梁を上げさせ、出ていくポジョンの慌てぶりが可笑しくて……
「くっくっくっ……」
笑うスンマンがポジョンの後について部屋を出た。
「ヨムジョンにもう戻ったと伝えよ」
「はい、わかりました」


「ポジョン殿!」
早足で店を出たポジョンは、スンマンに会わないよう先に進んだ。

あそこで寝込むとは、私の失態だ!
先に部屋を出て行こうと思っていたのに!

おまけに寝ぼけていたとはいえ口付けなど……
柔らかなスンマンの唇を思い出したポジョンが、つい立ち止まって物思いに耽る。

「わっ!」
「わあ゛ー!!!」
スンマンが気配を消して追いつき、耳元で声を出したらポジョンが叫ぶほど驚いた。

「くっくっくっ……」
「スンマン様……」
「……昨夜の事を詳しく話してくれないか?」
「あの……」
「貴方が初めてなのだよ、ポジョン殿」
「は?」
「発作中の私が、側に居た人を殺さなかったのが……」
「……」
「話してくれないか?」
「……認証式が終わってからでも宜しいですか?」
「ああ……構わない」
「ではまた後で」
一礼し、やはり足早に立ち去るポジョンの後ろ姿を見送ったスンマンが、楽しそうに笑っている。

「私も公主に化けなければな……」
スンマンも宮へと急いで帰っていった。
※※※
練武場が昨日からの準備を終え、開始時間が迫るなか続々と貴族達が席に着き始める。

侍女達と朗徒達が忙しく、抜かりはないかと右往左往していた。

貴族席が埋まる頃、ミシル宮主とトンマン、スンマン公主が現れた。

「おお……美しい公主様達だ」
トンマンの愛らしい美貌も、スンマンの玲瓏とした美貌も貴族達が見たがったものだった。

実際、田舎貴族まで集まったのも公主様達を一目見たい方が理由として多かった。

朗徒と侍女達が準備に追われたのも、余りに席を増やせとせっつかれたせいだった。

「陛下の御成り~」チンピョン王が貴賓席の真ん中に座り、認証式が厳かに始まった。

風月主ユシンの声と共に、騎兵隊がきれいに並んで入場した。

式が滞りなく進みスンマンから騎兵隊に旗印が渡され、終わった。

式の後の鮑石亭での宴席まで、時間があるため王もミシル宮主も各々の宮へと帰っていった。

騎兵隊は高台にある楼閣での宴席となり、気の早い者達はゆっくりと向かっている。

「スンマンはどちらに出るのだ」
「姉上はどちらへ?」
二人とも同じ事を聞いて、微笑みあった。
「私は、陛下と共に鮑石亭での宴席に行こうと思う」
「私は、楼閣での宴席としましょう……皆を労ってやります」
微笑みあう二人の公主を、貴族達が溜め息をつきながら眺めていた。


「どちらも聖骨の公主様……手に入れても損はないな」
「父上なにを?」
「どちらかの公主様を手に入れれば、末は新羅の王だぞ」
「畏れ多いことです父上!」
「何がだ…お前にもっと女を抱かせ、口説けるようしておけばよかったわ!」
「父上……」
「花朗道もいいが、女にはからっきしで真面目一本槍など……頭が痛いわい」
「父上……申し訳ありません」
花朗の一人、イムジョンが父親に謝っていた。

この親子……息子のイムジョンは花朗道と忠義一筋に生きているが、父親の方は野心家だった。

「何とかして、どちらかを……」
嫌な光が父親の目に見えて……イムジョンの頭が痛くなってきた。

しかし二人の公主を見た貴族達全員が、ほぼ同じ事を思ったのも事実だった。

そして……貴族達の筆頭の上大等セジョンも、もちろんミシル宮主も考えていた。

王族の最も高貴な血筋とは、それだけに利用価値が生まれる。

自分の宮に帰ってから、スンマンは敏感にその事を感じて考え込んでいた……

「ポジョン殿を呼んでください」
侍女が出ていくと宮の外にポジョンが居た。
※※※
「香りのよい茶です。どうぞ」
「いただきます」

優美な仕草で茶を煎れたスンマンに、見惚れながらも精一杯顔に出さないよう努めているポジョンだった。

「早速ですが、昨日は迷惑をかけてしまいましたね…」
「いえ」
「傷は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」

目の前の公主服を着たスンマンが余りに美しく、眩しくて目も合わせられないポジョンがずっと下を向いていた。

「つっ…」
スンマンが茶器を掴もうとして落としてしまう。
「大丈夫ですか、スンマン様」
ポジョンが椅子を倒す勢いでスンマンの側に寄り、怪我をしている手を見る。
「怪我をされているのですから……」
巻いてある布を見つめ、そっと外していく。

「今日はまだ替えられて無いのでは?」
「判るか?」
「はい」
「お前が手当てしたからか?」
「……はい」
「公主服を着ているとな…手はせいぜい指先くらいしか見えぬ。だがお前は躊躇いなく怪我をした方の手を掴んだ」
「畏れながら私が手当てを致しました」
「では聞くが、いつからあの部屋に居た?」
「……」
「困ったな…知りたいだけなのだよ、私は。正直に話してくれないか」
「部屋に梁をかけてすぐに見張りに金子をやり入りました」

ポジョンはありのまま話していった……
知りたいと請われたスンマンの為に……

話が進むうち、スンマンの顔から血の気が失せていった。

頭に手をやり、その手が震えて……
「ああ……覚えている……思い出した……」
「スンマン様…大丈夫ですか?」
「ふふ……化物スンマン……そうだ…それが私だ!」
「スンマン様」

だん!!!
両手を思いきり卓に叩きつけたスンマンが苦しげに喘いだ。

茶器が床に落ち乾いた音をたてていた。

「ふふ……ふふふ……誰からも愛されない……化物スンマン……」
「スンマン様」
「発作の時の事はこれで分かった……ポジョン殿、ありがとう」

言いおくと、さっと部屋の奥に行って着替えたスンマン……
いつもの男装だが……顔が青ざめ無表情で出てきた。

「スンマン様」

何も答えず、ポジョンを見もせずに通り過ぎていった。

追いかけたポジョンが、扉の前で捕まえるとスンマンの体が細かく震えている……

振り向かせて顔を見れば……苦し気に歪んでいた。
「思い出した……」
「スンマン様…」
「幼い頃のことを……何故か忘れていたことを……」

「そうだ…父上から言われた……お前は形は美しいが化物だと……」

「ふふ……誰からも愛されず、誰も愛さず……それが私の宿命か……」

また無表情に戻った顔の、光の無い穴のような瞳から涙が一筋こぼれた。

「スンマン様…」
「ふふ……あんな発作を起こすこと自体、化物の証しなのだろう」

ポジョンが掴む腕を外そうと、体を捻るスンマンの肩も掴み壁によせる
「離してくれ……宴席になど出られない……」
「どこに行かれるおつもりですか?」
「……気にするな、私の事など放っておけ」

無表情な顔のスンマンが昨日のスンマンと重なった。

「愛しています、スンマン様……」
「お前は……馬鹿か!! こんな私を……昨日も一緒に居たのだろう?」
「昨日もスンマン様に言ってしまいました」
照れたポジョンが微笑んでいる。

「な!!……なんだと……昨日も?」
信じられずスンマンが、まじまじとポジョンを見た。

「私はどうやら、貴女を諦めることもできない馬鹿者のようです」
「本気なのか?」
「本心です…」
「……」
「愛しています…貴女を」

にやりと笑ったスンマンがポジョンを見た。
「ふふ……物好きな奴だな」
「はあ…」
「宴席には出るのか?」
「はい、これから向かいます」
「そうか……私はもう大丈夫だ。ポジョン殿のおかげだな」
朗らかに笑うスンマンに安心したのか、ポジョンは宮を出て宴席に向かった。

「タンシムいるか」
「はいスンマン様」
ぱたぱたと奥から出てきたタンシムに、指示を出したスンマンが他の侍女達にも命じだした。

「さて……私はどう変わるのかな……ふふ……」

※※※

宴席にいつもの男装のまま現れたスンマンに貴族達が驚いていた。

とはいえ、騎馬隊の面子はいつもの事だから気にもしてなかったし、花朗達も毎日スンマンの男装を目にしているから普通だった。

驚いているのは地方の貴族と花朗達の父親だった。

「よっ!!まさかその恰好でくるとはな~~」
「今夜は堅苦しくしないと聞いたからな」
会場の楼閣に着くとピダムが一番に寄ってきた。
「ふふ……私は、私だ」
「な、どこ座る?」
ピダムと肩を組んで空いた席を探す。
「あそこが空いてるな」

ユシン、ポジョンが座っている席に着くと二人が立ち上がり迎えた。

「スンマン様、皆にお言葉をお願いします」
ユシンが厳かに言う。

「これより騎馬隊の皆には過酷な訓練が待っている」
玲瓏とした声が楼閣に響いていく……

「明日からの地獄に向け、今夜は思いきり飲め!」
おー!!と歓喜の叫びが上がる。

「そして、いずれは! 新羅の誉れある騎馬隊よと、父母が誇れるようになれ」
一同を見回したスンマンが盃を持ち上げた。
「お前達ならなれる! このスンマンを信じるのだ! 乾杯!」

おー!おー!と歓喜の叫びが上がり酒を飲み始めた。

「さ、ピダム飲もう」
「お前、すごいな」
「そうか?……人心を掌握する術を学ぶのだピダム」
「人心を掌握……」
「騎馬隊を作り上げる私を見て学べ」
スンマンの眼が鋭くピダムを見る。

「ピダム…我が友よ。お前ならすぐに学びつくせるはずだ」
「組織の作り方か……」
「ああ……人が集まれば派閥ができる。派閥ができれば対立ができる。対立ができれば?」
「規律が必要になる…」
ピダムも真剣な顔になった。
「そうだ……ならば規律とは?」
「規律とは……」
「規律とは支配だ」
「人心を掌握した者、優れた人材を持った者、その人材を用い目的を見失わない者、目先の事に囚われず先々を見通せる者……それが支配者だ」

「お前になら私の総てを教えてやる」
「スンマン……」
「学べピダム…お前を姉上の楯にしたいのだ」
「判った」
「堅い話はこれ迄だ、飲もう」
「ああ……」


夕刻前に始まった宴が盛り上がり、既に夜となっていた。

皆が酒を飲み、酔っ払い千鳥足になっていた。

ピダムをトンマンの護衛に差し向けたスンマンが、静かにポジョンの横に座った。

「飲まれますか、スンマン様」
「ポジョン殿……」
「はい、スンマン様」
「今宵、誰にも知られず…誰にも見られずに私の宮に来て欲しい」
「はい、わかりました」
「では、また」

静かに席を離れたスンマンが、そのまま楼閣から出ていった。
「今宵……何の御用だろうか」
首を捻るポジョンだが、しばらくしてスンマンの宮へと向かった。

誰にも見られず、誰にも知られずに………

※※※※※

これで【密会】①②へと続きます。

が、怪我とか痣とかは無しにしといて下さいませ(辻褄が逢わなくなっちゃって……)

先に書いちゃったからなぁ~【密会】

よろしくお願いしますm(_ _)m
     

④闇色の月【騎馬隊編】

【密会】①のあと、ポジョンを見送った後のスンマンです。
※※※※※

身体中に痣が散っている……
ポジョンが付けた赤い痣が……
「ふふ……私のものだと印を残して行きおった」

風呂場へ行き、水をかぶり頭を戻す。

着替えた後、寝台に残る情交の跡を消しておく。

そして茶を煎れ香りを楽しんでいると、昨日家に帰したタンシムが戻ってきた。

「おはようございます、スンマン様」
「ああ……おはよう」
「今朝は何を食べられますか?」
「そうだな……タンシムの作る物なら何でもよい」
可愛らしいタンシムの言葉に微笑んで答えた。

「そうだ、昨夜は酒が過ぎたから軽いものがいいな」
「わかりました」

一礼してぱたぱたと奥に行ったタンシムを見送り、今後の予定を紙に書き出す。

「ふふ……今日は騎馬隊の面子は使い物にならないだろうがな……」

書き出した紙を見て考えに沈んでいく。

「ん~馬が足りぬか?」
「良い馬じゃなくても集めちまえば?」
音もなく現れたピダムが紙を覗いている。
「ふふ……来たか」
「良い馬は、そりゃ走るけど練習用には勿体無いぞ」
「それも考えたがな……今の騎馬隊の連中は馬の実力に足元にも及ばないだろ?」
「ん~馬に馬鹿にされてる」
「だがな、普通の馬ならそこそこ形になる実力はついている……朗徒だからな」
「そうだな」
「甘えがでるのだ」
「甘え?」
「ああ……鉄は熱い内に叩かなければ物にはならぬ」
「?」
「未熟で学ぼうとする意欲のあるうちに、最高の水準を叩き込む」

ニヤリと笑うスンマン。
「するとな……不思議なことに、最初の水準を自身の秤として覚えるのだ」
「あ!ってことは」
「知らずに高い技術を覚え、維持して、下の者に伝えていく……それが普通だと思って」
「そして新羅の騎馬隊が最高になる……」
「そう言うことだ」
「はっ!はぁ~…お前に学ぶことは沢山ありそうだな」
「ふふ……ついてこいよ」


タンシムが朝食を持ってきたので、二人は食べ始めた。

「タンシムうまいよ」
ピダムが親指を立てて旨そうに食べている。
「ピダムの分もありがとう、タンシム」
「いえ、スンマン様のついでですから」
「ふふ……」


食事の終わった二人が騎馬隊の執務室に着いたとき、すでに中にはユシンとポジョンがいた。

スンマンの肩を組んだピダムと部屋に入ると、僅かにポジョンの顔色が変わった。

「さ、これからの訓練の事を考えた。見て意見がほしい」
ポジョンには構わずに話し出すスンマン。

「馬が足りないような」
ユシンが見ながら呟いた。

「一人一頭ではなく、二人で一頭とします」
「なら……数はあいますが練習にはどうでしょう」
「騎馬隊は馬の世話も含めます、一人一頭だと世話の時間も勿体無いですから交代で訓練も世話もできるでしょう」

「馬は引き続き集めるのですか?」
ポジョンも真剣に紙を見て意見がでてきた。
「貴族達の所有する馬で良いのが居れば献上してもらいます」
「貴族達が言うことを聞くでしょうか?」

良い馬というのは其だけで一財産だ、利権ばかり追う貴族達が、王命だといえ言うことを聞くはずがない。


ニヤリと笑うスンマンが自分を指差した。
「ふふ……私を餌に使います」
「餌?」ピダムが問い返す。
「私が直接、馬を献上する貴族の屋敷に出向き、検分するとふれをだせば……」

「あ!……聖骨の公主様と話す機会を持てる」
ピダムが口笛を吹いた。
「自分まで使うのか?」
「ふふ……利用価値があるものは残さず使うさ。……昨日の宴に男装で行ったのも私を認識させるためだ」


「貴女は何という公主様だ」ユシンが呻くように感嘆した。
「王命として今日、貴族達に伝達します。 なので、ユシン殿」
「はい、スンマン様」
「しばらく私は訓練に参加できません。 ピダムに訓練の指揮をさせて下さい」
「はい、わかりました」
「昨日の貴族達の様子なら……私を息子に射止めるため我先に申し出てくるでしょうからね……ふふ」

「お一人で大丈夫ですか?」ポジョンが心配そうに尋ねた。

「ユシン殿、護衛も兼ねてポジョン殿をお借りしたいのだが……」
「分かりました」
「そしてポジョン殿、貴方の母御のミシル宮主にお会いしたい……案内して下さい」
「はい、スンマン様」
二人が執務室を出ていった。

「何という豪胆な方だ」
ユシンが言うとピダムも頷いていた。

※※※

二人はミシル宮に向かって歩いていた。
騎馬隊の執務室は、王宮の外れに建ててあった宮を改装して使っていた。

厩舎には近いが、王殿やトンマン公主の宮やミシル宮には遠かった。

「スンマン様…母に何用ですか?」
スンマンが尋ねたポジョンの腕を掴み、近くの建物の使われてなさそうな部屋に入った。

壁にポジョンを立たせ肩を掴み………いきなり口付けた。

「スンマン様、どうなさいました」
「ピダムが肩を組んだくらいで顔色を変えるな、ポジョン」
「申し訳ありません」
「ピダムは我が友だ……妬くな」
「はい、スンマン様」
「私の男はお前だけだ……案ずるな」
「スンマン様……」
再び深く口付けた二人は、しばらく動かなかった。


部屋を出てミシル宮に着いた二人は、ポジョンが一緒なので中には入れた。

侍女に取り次ぎを頼むと待つほども無く、案内された。


「ほほほ……スンマン公主様には、今日は何用でしょう」
「今日は騎馬隊の事できました」

そこでスンマンが、貴族達の所有する良馬を献上してもらうためミシルの名前を使いたいと話した。

「私の名を?」
「はい、いかがでしょう」
「面白い方です。貴女は……御自身を餌に望む物を釣り上げようとしている」
「ふふ……私は私の価値を知っているだけ」
「聖骨の公主様……」
「はい、そうです」
にっこりと微笑むスンマンにミシルが頷いた。

「宜しいです、私からも働きかけましょう」
「ありがとう、ミシル宮主」
「新羅の騎馬隊に私も期待してますの」
「ふふ……」
「ほほっ……」
笑いあう二人は、どこか似ていた。

「そうそう…ポジョンはお役にたってますか?」
「ええ、よく騎馬隊の連中の世話もしてくれます」
「それは良かった」
「では、これにてごめん」
「スンマン公主様……」
「はい?」
「一つ菓子でも食べませんか?」
「ミシル宮主?……」
「これ、菓子と茶器を持て」


しばらくして……色とりどりの菓子と茶器を、侍女に運ばせたミシル宮主。

「私が」
茶器を受け取り、優雅な仕草で茶を煎れるスンマンを……じっと見ている。

「おいしい……スンマン様は何でもお上手なのですね」
「茶は好きなのです……だから煎れますが、それ以外はしません」
菓子を一つ摘まんだスンマンが、何の躊躇いもなしに食べた。

「ん!……美味い」
「ほほっ……よかった」
「これは何処で?」
「倭国の干し菓子です。作り方を知り、試しに作らせてみたのです」
「甘くて疲れた時などに良いですね」

「貴女は……この国を支配したいとは思わないのですか?」
「思いません」
にべもなく即答したスンマンに宮主が笑う。
「なぜでしょうか?…失礼ながら資質も実力もおありなのに」
「望みません」
にっこりと微笑むスンマンが、また菓子を口に入れた。

「私は……この新羅の礎になれればそれでいい」
「礎に?」
「私はどうも、自分が長生きする気が無くて……姉上の為に、新羅の為になるのならいつでも命を捧げる覚悟です」

「眩い方だ…幼い頃より変わらない光を纏うておられる」
「ふふ……ミシル宮主、それは違う」
「はい?」

スンマンが、にやりと笑って菓子を一つ口に放り込んだ。
「私が纏うているのは………闇だ」
「闇?」
「ええ……」
「それならば私も纏うておりますね」
「ふふ……私とミシル宮主は似ているのかもな」

すっくと立ったスンマンが一礼して出ていった。

「ポジョン」
「はい、母上」
「この菓子を持っていきなさい……スンマン様が気にいられた」
「これをですか?」
「心配せずとも毒など入っておらぬ」
「はい、母上」

紙に菓子を包んで懐に入れたポジョンがスンマンを追いかけた。

「全く……息子まで毒入りかと疑う私の菓子を、何の躊躇いもなく食べる公主……」

ミシルが菓子を薦めると、ソルォンでさえ躊躇うので出さなくなったミシルだった。

「ほほっ……豪胆な公主だ、ますます欲しくなった」

ミシルが機嫌良く紙に書き、それを弟のミセンに渡したのはスンマンが宮を出て……そう時は経っていなかった。

「姉上?なんでしょうか」
「ミセン殿、これを貴族達に伝達して下さい」

ふむふむ……と読んでいくミセンがミシルを見た。

「で?姉上……これを貴族達に伝えて、我々の得とは何ですか?」
「ミセン殿、菓子を如何かな?」

目の前に並ぶ珍しい菓子を薦めるが……ミセンは笑うばかりだった。

「はぁ~はっはっはっ!姉上もお人が悪い~~……お!そうだ!」
一人で騒ぐ弟をミシルが見やる。
「これを貴族達に伝えねば!……では姉上、ごきげんよう」
そそくさと逃げていった。
「全く……」
頭をふり、スンマンを思うミシル……

「ほほっ……珍しい菓子をまたスンマン様に薦めてみようか」

※※※

「スンマン様!」
ポジョンが走って追いついた。

「母から菓子を預かっています」
懐から包みを出すポジョンの腕を掴み、建物の陰に隠れた。

「スンマン様?」
「口の中が甘過ぎてな……」
重なる唇が離れると……
「本当に甘いですね……」
「だろう?」
「スンマン様は甘いものは?」
「好きだが……今は此方が好物だな……」
ポジョンを引き寄せ口付けて……深く舌を絡ませ、激しく求めるスンマンにポジョンは幸せを感じた。

「スンマン様…」
「今は…ここまでだな」
「分かっております」
「ポジョン殿は執務室に戻ってくれ、私は陛下にお目通りする」
「はい、スンマン様」
「ふふ……菓子を貰えるか?」
慌ててポジョンが菓子を渡すと、包んである紙を広げ一つ口に放り込んだスンマンだった。

そのまま歩き出したスンマンの背中を見送ったあと、執務室に戻ったポジョンだった。

※※※

「陛下には快諾して頂いたし、さっそく布れも出してもらった……」

スンマンの足はトンマンの宮へと向かっていた。

「姉上~居られますか?」
「おお、スンマンか」
部屋に入ると、トンマンの他にピダムとユシン、アルチョンも居た。

「早かったなスンマン」
ピダムが席を立とうとするのを肩を押さえ座らせた。

「姉上……お茶でも飲みませんか?」
「そうだな」
奥からチョンソが茶器を運んできた。

皆に茶を煎れたあと、椅子を持ってきて座ったスンマンが懐から菓子を取り出した。

「これは……珍しい菓子だな」
物珍しげに見つめるトンマンに、微笑みながらスンマンが……

「倭国の菓子を作ったそうです。頂いた物です」
「誰から?」
「ミシル宮主から」
ピダムが派手に仰け反り、ユシンは固まり、アルチョンは目を開いた。

一つ摘まんだスンマンが口に放り込んだ。
「甘い……」

「スンマン殿はこれに毒があるとは思われないのですか?」
「ふふ……思いません」
「大丈夫かよ~本当に……」
「ピダム…食べてみろ美味いぞ」

誰も手を出さない……
「くっくっくっ……」

すっと手が伸びた。
トンマンが一つ摘まんで口に放り込んだ。

「ん…甘い……」
「でしょう?」
「茶を飲んで丁度よいな」
にやりと笑いながらスンマンが……
「後は、口直しをする事ですね……」
「口直しを?」
「ふふ……さて、私は執務室に戻ります。ピダム、私の分も報告しておいてくれよ」

トンマン以外、手を出さない菓子を残してスンマンが去った。

「……お前、食べろよ」
「お主こそ食べてみるのだ」
「……私は、いい」
男三人が譲り合うのを見て、トンマンが溜め息をついた。

※※※

王命が貴族達に伝達された日、すぐにも献上すると答えた貴族が後をたたなかった。

もちろんスンマンの思惑通りに………

※※※※※
     

⑤闇色の月【騎馬隊編】

騎馬隊の地盤を作るスンマンです。

※※※※※

スンマンの思惑通り、貴族達は献上馬にこぞって申し出した。

数が多く、一旦整理し廻る順番を組み立てる。

騎馬隊の執務室で、貴族の屋敷の場所の地図や、色々と揃えていたポジョンが…ふと笑っていた。

……明日からスンマン様と出かけられる……

もちろん任務の上なのだが、愛しい方と二人で過ごせる事に嬉しさを隠せなかった。

誰も居ないからと油断していたポジョンに……

「何か嬉しそうだな……お前!」
ピダムが音もなく部屋に入ってきて、ポジョンの顔をじっと見ていた。


「別に…そんな事はない」
「……そうかな~」
「ふふ……ピダムそんなに虐めるな」
「でもよー」

スンマンが部屋に入ってきてピダムの肩を叩いた。

「自分が行けなくて拗ねてるかと思えば……ふふ……ポジョン殿を虐めるか」
「俺は~べつに…」
「ポジョン殿には申し訳ないが、貴殿が一緒に居ることでミシル宮主も賛同していると……証しになってもらう」
「母も貴族達に書類で通達したと聞いております」
「尚更よい……さっそく今日から行きたいのだが……」

地図を開き、徐羅伐の貴族達を回ればと話がまとまった。

「スンマン様、すぐに発たれますか?」
「ああ!……ピダム、ふくれてないで姉上に私が今日から出ることを伝えてくれ」
「わかった!……訓練もやっとくさ」
「何かあれば私の宮のタンシムに言伝てよ……」

二人が出ていって、執務室にピダムが残った。

「あいつは何か怪しいんだ……にやにやしてやがった」
ポジョンを怪しむピダムだった。

※※※

「はあっ!」
掛け声と共に走り出した馬は、王宮を出て瞬く間に駆けていく。

一旦遠くの貴族の屋敷まで行き、徐羅伐まで戻りながら廻る事にした二人。

だが、貴族の屋敷に着いて馬を見て献上馬に決めてからが……長かった。

初めて見る聖骨の公主を一目見ようと、夫人や娘達が一緒に出迎え……スンマンの美貌の男っぷりに……騒いだ。

「こんなに美しい方とは……」
「私など……奥方や娘御の方が御可愛らしい……」
「私を可愛らしいだなんて」
娘の頬がポッと染まった。

女達がスンマンを離さず、最初の思惑の息子をも紹介出来ずにいる貴族を尻目に……屋敷を出たのはだいぶ経ってからだった。

「はぁ~……一件でこれだけ時間がかかるとは……私も予想が外れた」
草の上にゴロリと横になってスンマンが呟いた。

「お疲れでしょう、スンマン様」
「だが、今日中にあと三件行かなければ……」
草原で寝転がって休憩していたスンマンに、ポジョンが紙の包みを懐から出した。

「母からです」
「菓子か?……頂こう」
先日の菓子が包みの中に入っていた。

一つ摘まんで口に放り込んだスンマンを、ポジョンが見つめる。
「ポジョン殿も一つ如何かな?」
「私は甘いものは…ちょっと苦手でして」
「そうか」
また指で摘まんで口に放り込んだスンマンが、立ち上がった。

「時間がないな……行こう」
「はい、スンマン様」
菓子を懐にしまってポジョンも後に続く。

……三件の貴族の屋敷を済ます頃には、夜もとっぷりと暮れていた。

やっと徐羅伐まで戻った二人は、腹が減ってたまらず店に入って食事にした。

酒を飲み一息ついたスンマンが静かに話し出した。
「はぁ~……明日から嫌になってきたぞ!」
「どこに行ってもスンマン様を一目見たい女達が出てきますね」
「同じ女だ、見ることもないのにな」
「貴女は……違う」
「ん?…」
「誰でも魅了されるのです」
「ふふ……見た目に惑わされてるだけさ……」
「スンマン様」
「その実、私の本性を知れば化物と……血を好む蛇よと嫌うのさ……」
「スンマン様」
「ふふ……いいさ、慣れている」
ぐいっと盃を空けたスンマンが並べられた料理を食べ始めた。

「さ、ポジョン殿も食べよう。明日もこなさなければな……」
「はい、スンマン様」
「ふふ……美味い」
「美味しいですね」
料理を平らげ店を出た二人は、そこで別れ家路へと向かった。

スンマンはポジョンを見送った後、王宮……ではなくヨムジョンの賭博場へと向かった。

※※※

「スンマン様~~随分です!」
「なんだ来るそうそう…文句か?ヨムジョン」
「同じ新羅に居るのですからもっと来て頂きたいのに~」
「ふふ……口煩いのが来ない方がいいのではないか?」

にやりと笑いながらスンマンが茶を飲んだ。

「またそんな意地悪を……」
「ふふ……」
「密偵を使って何をされているのですか?」
「ヨムジョン?」
「私にもお手伝いさせてください」
「チュンチュの動きを見ててくれ」
「はい、わかりました」

「ヨムジョン……商人は商売が基本だ……道を外れるなよ」
「え?」
「お前には商売に専念してほしい」
「そうですか?」
「ところであの件はどうだ?」

「えっへっへ~~出来ております」
一冊の書物をヨムジョンが差し出した。
「新羅の貴族の中でも、これ!といった名馬を持ってるのを抜き出しました」
「ありがとう、助かるぞ!」
朗らかに笑いかけるスンマンにヨムジョンもニタァ~っと笑った。

「これで献上馬で廻る貴族を絞れる、助かった」
「お役にたてれて私も嬉しいですぅ~~」
「では、貰っていくぞ」
スンマンが立ち去ろうとすると、ヨムジョンの部屋にピダムが入ってきた。

「おっ、スンマン……今までかかったのか?」
「ああ……疲れたよ」
「それは?」
「ふふ……ヨムジョンが作ってくれた名馬を保有する貴族の名簿だ」
「じゃ、廻る貴族を絞れるな」
「そうだ。それに明日からの予定を確認して数を絞らなければな……」
「大変だな」
「ふふ……仕方ない。私が言い出した事だから、では」

部屋を出ていったスンマンが愛馬に跨がりソルォン公の屋敷に向かった。

※※※

客用の部屋に通されたスンマンがソルォン公の注ぐ酒を飲んでいた。

「申し訳ございません。ポジョンの奴まだ帰ってなくて」
「いえ、こちらこそ突然おしかけてしまいました」
「今日はお二人で献上馬の視察に廻られたとか……」
空いた盃に酒を注ぎながらソルォンがにこやかに話しかけていた。

「はい、今まで一緒に廻っておりました」
「うちのポジョンはいかがですか?お役にたつでしょうか…」
微笑んだスンマンが頷いた。
「細かい子細などきちんと処理して頂き大変助かっております」

その時、部屋の扉が開いてチュンチュが顔を出した。

「ああ…やはり貴女の声だった」
「チュンチュ……何故?」

「チュンチュ殿はうちのポリャンに会いに来られるのです……ポジョンの娘です」
「チュンチュもそういう歳になったのだな」
にやりと笑いながらスンマンが酒を飲んだ。

「スンマンはどうしてこちらへ?」
チュンチュがソルォンに勧められ椅子に座った。

「ポジョン殿が持ってる書類が見たくて押し掛けてしまったのだ」
「献上馬の?」
「ああ……しかし明日にします。」
「よろしいのですか?」
「はい、お手数をおかけしました……」
「あ!スンマン……そんなに急がなくても」
「ふふ……チュンチュと愛しい方の邪魔はしたくないからな」
「ポリャンの琴でも聴いていってくださいませんか」
ソルォンが提案したが、スンマンは微笑んでソルォンに耳打ちした。

「ほぉ~そんなことが……ほっほぉ~大変ですな」
「でしょう?ふふ……私はその年頃の娘には妙に好かれるのです」
「いや、私も分かる気がします」
「ソルォン公が?」
「ええ、貴女には人を惹き付ける魅力がおありだ」
スンマンの盃に酒を注ぐと、今度はスンマンがソルォンの盃に酒を注いだ。

「ならば………………………いかがですか?」
悪戯っ子のように輝いた瞳でソルォンの耳に囁いたスンマンにチュンチュが焦れて尋ねた。

「御二人で何を話されているのですか?」

囁かれたソルォンが固まり返事に困っているように見える。

「くっくっくっ……失礼致します」
礼をし部屋を出たスンマンがそのまま馬に跨がり屋敷を出ていった。

「ソルォン公、スンマンは何と言ったのでしょう」
チュンチュが気になり食い下がる。
「……いやはや、はっはっはっ」
珍しくソルォンが大きく笑いだしチュンチュも驚いていた。
「大した御方だ」


………ならば、私に乗り替えてみますか?乗り心地を比べてみるのは……いかがですか?


「私にも教えて下さい」
チュンチュにも教えたソルォンがまた朗らかに笑った。

※※※

宮に戻ったスンマンが部屋でくつろいでいると侍女から目通りの声がかかった。

「ポジョン様が御目通りを願っております」
「ああ…通して」

他の書類に目を通していたスンマンが顔を上げるとポジョンが侍女に案内され入ってきた。

「ポジョン殿、申し訳ない。家まで押し掛けてしまって」
「いえ、私こそ遅くなりました」
「これを見てほしい……名馬を保有する貴族達の名簿だ」
「ではこの書類と比較して明日からの予定を絞ります」
「私も手伝おう」

なぜか目を伏せるポジョン……
「いえ、私が家でしてまいります」
……目のやり場に困ってしまう……

スンマンの着ている服がポジョンを困らせていた。

タンシムが市場で買ってきた青く透ける布に、侍女達が金や銀糸で刺繍を施した長衣と胸までの下衣を帯でしめただけの格好だった。

首から肩や腕など透けた布から見えて艶かしくて……ポジョンの顔が赤らんできた……

「そうか……ならば甘えよう」
「では、失礼致します」
「あ!ポジョン殿これも……後で見てくれ」
折りたたんだ手紙を手渡されポジョンは懐にしまいこんだ。

何故か今度はスンマンが少し目を伏せた。

一礼して部屋を出たポジョンが宮を出てから……気になってスンマンからの手紙を見ようと誰も居ない廊下の灯りで広げてみた。

それはどこかの屋敷の地図だった……

そして文字を読むと……ポジョンが弾かれたように顔を上げ、手紙を手早く懐にしまった。

《明日の夜、此処に来てほしい……逢いたい》

「あれは夢ではなかったのか……」
あの日、あの方を胸に抱きしめ聞いた言葉………

《また逢いたい……》
余りにもスンマンが普通に接してくるのでポジョンは夢かと思っていた。

「明日……」
懐に入れた手紙を大事に押さえながらポジョンが家に帰っていった。

※※※

翌日は名馬を中心に献上馬の視察に行った二人は効率良く廻れた。

「この早さなら後何日かで廻りきれますね」
「ふふ……早く終わるのも寂しいがな……」
「スンマン様……」
「さ、昼にしよう……近くに店はあったかな」
町の中を馬を引き店を探していると一軒の飯屋があった。

「ここでよいか……」
「はい、スンマン様」
馬を繋ぎ空いた卓に座ると店の主人が出てきた。

「何にしましょう」
「飯と汁物と肉でお願いします」
「へい、かしこまりました」

外の卓に座った二人は、青空を気持ち良さそうに見上げるスンマンとその様子に微笑むポジョンがいた。
「スンマン様……中で食べられたらいかがですか?」
「ここの方が気持いい………手紙は見たな」
「はい……」
「ならよい」
ぷぃっとポジョンとは反対の方へ顔を向けているのは……どうやら照れているらしいスンマンだった。
「今から待ち通しいです。……早く夜になればいい」
ポジョンの言葉にスンマンが振り向いた。
その眼には戸惑いが浮かんでいる。
「スンマン様?」
「あっ……」
頭を振るスンマンがいつもの微笑みを浮かべた。

……貴女は自分の心をその笑みで隠しておられるのか……

「どうされました?」
「………あの夜は夢かと思っていたのだ」
「スンマン様……」
「私が……この血を好む蛇が……愛されるなど……手紙を渡しても迷惑ならば……」
「迷惑などと…嬉しくて昨日から待ちきれない私はどうすればよいのですか?」
「ポジョン……」
ああ……可愛い方だ…その戸惑い事、今すぐにも抱き締めて差し上げたい……

二人は、その日の貴族達を急いで回った。
※※※
【密会】②へ続く

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すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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