①月に照らされ、陽に焦がれ……

善徳女王の魅力にとりつかれた私……

こういう事も始めてしまいました(^。^;)

申し訳ないですが、100%自己満足な世界なので受け入れて下さる方のみ見てください。

稚拙で拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸せです。

あと、ドラマでは48話現在スンマンは出ていません。(私の視聴した話数です。全話だと62話になります)


ノベライズからヒントを受けて登場させています。

ノベライズだと、ものすっごい形容なので(馬のように長い顔で背も高く鍋蓋のような掌……と)、そこは私の世界なのでとびきりの美形にしました(笑)

イメージはずばり!!宝塚の男役さまです

誰をイメージしたかは……また今度に
では、ドキドキの開始です(*^∇^*)V

※※※※※

貴族による穀物買い占め騒動もどうやら収拾がつきそうな頃。

トンマンは双子の姉、チョンミョンの霊廟で久方ぶりにゆるりと亡き姉と語り合っていた。


「姉上……」

いくつもの蝋燭の灯りに浮かび上がったチョンミョン公主の絵姿に、心のうちを語りかけるトンマン。


「トンマン公主様……」
控えめに呼ぶ声に我に返ったトンマンが後ろを見た。

入口に侍女のチョンソが立っていた。


チョンミョン公主の幼馴染みでもあり、今は亡き姉の分もトンマンに尽くしてくれる大事な侍女だった。

男の姿で朗徒として過ごしていたトンマンにとって、右も左も分からなかった王宮のしきたりや、公主としての振る舞いや言葉遣いなどをそっと教えてくれる有難い存在だ。


……姉上の霊廟にいるときはなるべく邪魔をしないよう気を配るチョンソにしては珍しいことだな……

トンマンが「なんだ」と返事をすればチョンソが部屋の中に進んできた。


「トンマン公主様に内密に是非お会いしたいと……」
いつもになく歯切れが悪いチョンソだった。

いつもなら名前をハッキリ言うし、その前に取り次ぎも火急の用件以外はしないのに…………それに内密にだと?


私の侍女を味方につける者とは一体誰だろう……まぁ、チョンソの事だ、私に害をなす者など通さぬだろう。

ふふっ……と面白そうに少し微笑みながら頷いたトンマンに一礼し、チョンソが下がると後ろから代わりに入ってきたのは…………


蒼く輝く夜空の月のような………凛と耀くような美貌の長身の男だった。

さっと跪ずいた男はよく通る声で話し始めた。

「初めて御目にかかります。スンマンと申します………」


その名に聞き覚えがあった………

「…………スンマン…………スンマン公主!?」
驚いたトンマンは無礼になることも構わずに……まじまじと目の前の男を見た。


いや、スンマンは男ではない!

トンマンの父、チンピョン王の弟の娘だ!!

確かめるようにチョンソを見ると頷いていた……ということは目の前に居るのは確かにスンマン公主ということだ……


トンマンにとっては従姉妹になる、歴とした聖骨の姫だった。
たしか、唐や中原に見聞を広めに長い間出ていると聞いていた。


その初めて会う従姉妹が目の前にいた。

「私が………不思議ですか?」
くつくつと可笑しそうに笑うスンマンは、丸い茶色の目を真ん丸にして己を見る従姉妹を楽しそうに見ていた。


「今日、内密に伺いましたのには訳があります」
「従姉妹殿、堅苦しいのは止めにしないか?」

目の前のスンマンに手を差し出して立たせたトンマンは、持ち前の人懐こい笑顔で話しかけた。

「私の宮へ行こう……話しはそれからだ」
からりと言ったトンマンは、にこりと微笑んでいた。

前から会いたいと願っていた同族の姫と、心ゆくまで語り合いたかった。

初対面ながらも不思議と情のような温かい気持ちがわいてきていて不思議だった。
亡き姉と姉妹とは知らずに出会った時のように……何か心が惹かれるものを……

「有難い! 堅苦しいのは苦手なもので……」
すらりとした高い背に男物の平服が良く似合うスンマンだった。


二人が霊廟の外に出て、連れだって歩いて行くのを暗闇から見ている者がいた。

「…………誰だ?あの男は……」


ピダムだった。

トンマンから任された穀物の買い付けが上手くいった為、報告しようと探していたのだった。


………ユシンでも、アルチョンでも、ましてやチュンチュでもない…………初めて見る男だった。

ピダムは気がついてなかった…………何も言わずに見送った己れの拳が、固く握られ秘かに震えていたのを。


トンマンと男と侍女達が、歩いて消えていった方をじっと見ていたピダムは、そっと後を追いかけた。

※※※

どれぐらいたったろう…………

トンマン公主の宮に帰った主人が珍しく………いやおそらくは初めてだろう、酒席を侍女に用意させ誰かと話し合い…………時が過ぎた。

時折、僅かに場が賑わっている声が聞こえてくる。

侍女達は美しく盛り付けられた肴をいくつも運び入れていった。

ピダムはまだまだ終わりそうもない賑やかさに独り、外の暗闇の中から窺っていた。


石段に座り込み、膝を抱えて……下唇を噛みながら。

トンマンに報告があるのだから堂々と侍女に取り次ぎをしてもらえばいいのだが…………ふと、躊躇われた。


「………邪魔になる、かな……」
独り、呟いた。

いつもなら、そんなことお構い無しのピダムだが………なぜか今夜だけは躊躇ってしまった。

それにしても…………ピダムは先程見た光景を思い出して、ぎゅっと膝を抱く手に力を込めた。

月の光に照らされた二人が、笑顔で話しながら歩く姿が…………美しかった。

トンマンが可愛らしく輝いているのはいつもの事だが………男に向けた顔が…………無邪気に笑いかけていた顔が…………いつにも増して美しかった。


そんなことが浮かんだ頭をふるふると振ったピダムは、また宮を見上げていた。
賑やかな笑い声が沸き上がっていた。

※※※

宮についたトンマンとスンマンは向かいあって座った。

「話されよ、スンマン公主」
にこやかに促すトンマンに姿勢を正してスンマンが見つめた。

「トンマン公主様、この新羅をどう思われますか?」
スンマンの笑みが消え、目が鋭くトンマンを見ていた。

「貴族がのさばり、王権は弱まり、民が疲弊しきっている…………何とかせねばならない……」


「………何を……ですか?」
スンマンの瞳が迫ってきた。

今、この問いの答え次第では、目の前の従姉妹が味方になるか………離れるのかが決まるとトンマンは悟った。

すぅ~と息を吸い、頭を整理し慎重に言葉を紡ぐトンマンを、スンマンは何一つ見逃さずに見つめ続けた。


「私は民が安心して暮らせる世を作りたい………自分達の土地を耕し、子供や孫に繋げていく。……土地を開墾し、自作農が増えれば税は貴族を通さず王室に入る………ひいては王権強化に繋がろう」

最初は慎重に話し始めたトンマンだったが、語り続けるうちに熱が籠った。

スンマンも鋭い指摘を投げかけ、女性二人で話すには色気のない政治談義で時が流れた。


「……三韓一統ですか?」
トンマンとの政治談義が楽しくて、つい微笑んでいたスンマンの目が細められた………微笑みはそのまま、目だけがすぅ~っと冷ややかに。

「そうだ、三韓一統だ………とはいえ、国力の落ちた今の新羅には手に余るだろう…………何年も、何十年も、もしくは何世代もの王が夢を同じくして歩まなければならない」


「………新羅の見る不可能な夢……ですね」
スンマンが満足そうに微笑んだ。


トンマンの意図した事が分かって、すっきりした顔だった。

椅子から立ち上がったスンマンが、鮮やかに跪ずいた。

艶やかな髪が後を追い、ふわりとその背に広がる。

その手には剣があったが、トンマンにかざすように顔の前に差し出していた。


「私スンマンは、只今この時からトンマン公主に忠誠を誓います。……私の命はトンマン公主に捧げます」
よく通る涼やかな声が高らかに宣言した。

「私も貴女も同じ聖骨の公主なのだ………臣下のようにしなくとも………」

顔だけをトンマンに向け、跪ずいたままスンマンは言った。
「私の気持ちです………ところで、トンマン公主は酒は飲まれますか?」
すっくと立ち上がったスンマンが朗らかに尋ねた。


「飲む………が、公主となってからは久しく飲んではいないな………」
トンマンが男装して朗徒だったころ、たまにチュクパン達と店で飲んでいた事が思い出され懐かしいトンマンだった。


酒はいける口のトンマンがふと、思い出したように言った。
「毎日、気が抜けなかったものだから、酒を楽しむことさえ忘れていたわ………」
と、苦笑するトンマン。

スンマンは後ろで控えていた侍女チョンソに目配せした。


「トンマン姉上、今宵くらいは勉強は止めにして私と酒でも飲みませんか?………いや、私が姉上と飲みたいのです。」
「姉上と?」スンマンの呼び声に嬉しそうに反応したトンマン。


「私はチョンミョン公主も姉上と呼んでましたので………トンマン姉上と呼びたいのですが……ダメでしょうか?」
しゅんっと項垂れたスンマンが可笑しくて、くすり…と笑いながらトンマンは頷いた。


「そう呼んで下さい……では私もスンマンと呼びます」

※※

女性二人で酒を酌み交わしていた。

………飲むより話し込んでいる方が長い二人だった。


「姉上!  姉上の側近はどんな人物ですか?  見てみたいからここに呼んで私を紹介してください」
スンマンが笑いながら言い出した。

トンマンの話に登場する人達に好奇心が沸いてきたスンマンだった。


「そうだな………アルチョン殿なら侍衛府にいるかな?………チョンソ」
信頼する侍女に宮殿にいたら連れてきてくれと頼んだ。


「姉上……しばらくは私の事はただの臣下としておいて下さいね」
悪戯を思い付いたように瞳を輝かせて頼むスンマンを、訝しげにトンマンは見たが従姉妹の頼みを了解していた。

「?………わかった」

※※

外に他の女官と出たチョンソは、手分けして呼びにいくよう手配した。


………姫様方が仲良くなって嬉しいチョンソだった。

トンマン公主様は知らないだろうが…………スンマン様はあれで燃え盛る太陽のように烈しいお方だから……

ホッと肩の荷を下ろせたような安堵を抱きつつ、御酒をもっと用意しようと歩き出したチョンソは暗闇で何かが動いたのを見た。


目の前に真っ黒な塊が飛び出てきた。


「きゃっ!?」
チョンソが驚いて小さな悲鳴をあげた。

「ピ……ピダム様」
驚いて跳ね上がった鼓動を宥めるように、胸に手をあてたチョンソに構わずピダムがぶっきらぼうに立っていた。

「公主様に取り次ぎを………」

我慢しきれず出てきたピダムだった。

※※

部屋に通されたピダムが嬉しそうに椅子に座った。


「ピダム、今日から私の護衛をするスンマン殿だ」
「公主様……スンマン………と、お呼びください」

……くふっと同時に笑った二人は、まるで悪戯っ子が最高の企みを思いついたように楽しげだった。

『な……なんだ、この野郎は!!!』
トンマンの手前、口から飛び出そうな罵りを、ピダムはぐっと我慢した。

目から火を噴くように、殺意まで混じった光線をスンマンに浴びせたピダムとは対照的に…………ゆっくりと盃を口に持っていき酒を飲みながら、悠々とピダムを見詰め返すスンマンの目は……笑っていた。


ピダムは躯中が、かっと怒りの余り燃え上がりそうだった。

「ピダム殿、酒はいかがですか?」

『お前の酒なんか飲めるか~!!』
叫びたいのに口に出せないピダムだった。

黙って盃に注がれる酒を見ていた。

※※※

拙いながらもドラマとは違う筋書きの《善徳女王ワールド》を目指します☆
     

②月に照らされ、陽に焦がれ……

時代考証とかはドラマとガイドブックと雰囲気で突っ走ってるので………大目に見てくださいm(_ _)m
公主様=王女様と同じ意味です。
※※※

「アルチョン様が来られました」

侍衛府に残っていたアルチョンがトンマンの侍女に促され部屋に入ってきた。

見慣れない男に怪訝そうな視線をやるも、トンマンと親しげに酒を酌み交わす様子に少し警戒をときながら見渡せば………ふむ、問題なのはピダムだな。

ぶすったれた顔で酒を飲んでるピダムの、肩を叩いたアルチョンはトンマンに一礼した。

「アルチョン殿、座って下さい。………さ、どうぞ」
「公主様お手から………ありがとうございます」

トンマンが盃に酒を注ぐとアルチョンが感激のあまり涙ぐみそうになった。

「こちらはアルチョン殿。私の護衛花朗です。………アルチョン殿と一緒に私を護衛してくれることになったスンマンだ」
隣に座っているスンマンを紹介したトンマンだった。


「護衛とは………侍衛府(シウ゛ィブ)に配属されるということですか?」
「私は花朗ではないので………公主様の個人的な護衛ということです」
スンマンが柔らかく口をはさんだ。

「そうですか……」
………ふむ、どういう人物なのか見定める必要があるな。
アルチョンの細い目が、目の前のスンマンを疑うように更に細くなった。

ミシル側からの間者かもしれぬ…………公主様の為にも、やはりここは私がどういう輩か確かめねば!!

「スンマン殿といったな?………酒はお強いか?」アルチョンが空になったスンマンの盃に酒を注いだ。

「………どうでしょうか。弱い方ではないと思います」
鼻息荒く酒をすすめるアルチョンに微笑みながらスンマンが盃を空けた。

さっそくアルチョンが盃に酒を注ぐのを見ていたスンマン。
ふふっ………私を酔い潰して尋問でもするつもりかな………姉上に忠義一筋の方らしい。

それに先程から剣呑とした目で私を見ている………ピダムといったか。

こやつはもしや姉上に…………


ああ………面白い。………姉上の周りは実に、面白い人物がいっぱいだな………

今度はスンマンがアルチョンの盃に酒を注ぎながら………スンマンは楽しくて仕方なかった。

※※※

アルチョンとスンマンの飲み比べが始まった。

トンマンが面白そうに見ている。

それを気にしつつ………「公主様、穀物の買付は終わりました」ピダムは嬉しそうにトンマンに報告した。

アルチョン達の盃が次々空になり、酒を注ぎあうのを横目で見ながらトンマンはピダムの報告を聞いていた。
「全ての兵糧米が戻ったんだな」
「はい公主様」
「そうか、ご苦労だった」

トンマンからの労いの言葉に嬉しいピダムだったが………目がすぐにアルチョン達に向けられるのを寂しく感じた。

ふと見れば、トンマンの盃も空になっていた。
ピダムが注いでおくと……
「ありがとう、ピダム」にこやかに酒を飲んだトンマンに嬉しくなったピダムが、また………また、と注いでいた。


「アルチョン殿、明日にでも、私と一つ手合わせして頂けますか?」
「手合わせですか?」
「公主様の護衛花朗のアルチョン殿に、私の腕を判断していただきたいのです」

それもそうだな………アルチョンは納得した。

「公主様の護衛だからな………失礼ながらスンマン殿の腕前も知っておいた方がいいな………うむ」
「では明日を楽しみにしております……………公主様、その辺で御酒はお止めになられた方が………」


つっ……とトンマンの盃を取り上げ自分が飲み干したスンマンは、侍女に茶を頼んだ。


「私はまだ大丈夫だ」
久しぶりの酒だからもっと飲みたかったトンマンが、口を尖らせて不満気に言った。

「余計な事を………」
横で、ピダムが眼を剥いて睨んでいる………
「久方ぶりの酒なのでしょう?……もう十分お飲みになられましたよ」
ピダムの憎悪の光線を、しれっと軽く微笑んだスンマンは受け流した。


チョンソがお湯と茶器を持ってきた。
どうやら予め用意を頼んでいたらしい。

「公主様、これをゆっくりとお飲みください」
スンマンは美しい仕草で茶器を操り、器に茶を満たしトンマンの前に置いた。


「良い香りだな」
「大陸(中国)の花の茶です」
「ほぅ~……スンマン殿は大陸へ行かれたことがあるのか」
アルチョンが尋ねた。
「はい何度か……さ、公主様」
トンマンに飲むよう促したスンマンは艶然と微笑んでいた。

「悪酔いしなくなりますから」

アルチョンとピダムの前にも茶が並んだ。
「かたじけない」
「………」
返事もせずにピダムは茶を飲んだ。
二人が飲むのを見ながらスンマンも、ゆっくりと茶の香りを楽しんだ。


※※※

「う~ん……いい気分だ!」
トンマンが池の上に掛けられた橋の真ん中で伸びをした。

それを見ながらスンマンも伸びをした。


二人は酔いざましに庭園に来ていた………池の灯りに、ふんわりと浮かぶ蓮の花が美しい。


アルチョンと二人、後ろに控えて眺めながらピダムは、ふと思った。


並んで立つ二人の対照的な美貌が不思議と引き立てあい似合っていた………


トンマンの大きな瞳が愛らしく、通った鼻筋にぷっくりした唇すべてが美しかった。

スンマンは切れ長の瞳に薄い唇、すらりとした躯がトンマンより頭一つ分も大きい。

決して似てはいない二人なのに………どこかが似ていて、似合っている………ピダムは、そんな事を思っていた。



だが!! それと奴が気に入らない事とは別だ!!

「明日、奴と手合わせするんだって?」
だしぬけにアルチョンに話をふった。
「ああ………スンマン殿がどういう腕か見定めたいからな………公主様があれだけ親しげにされているならミシル側からの間者とは考えにくいが………」
「ミシルの?」ピダムの目が鋭く光った。
「花朗ではない御仁だからな……氏素性が分からぬから疑いたくもなる」
「明日か………俺も手助けするよ」
「お前がか?」
ついぞピダムの口から出たことのない言葉に驚くアルチョンだった。

「なぁ、公主様にも見物してもらおうぜ……アルチョンが連れてきてくれよ、な!……なぁーってば!」奴に公主様の前で赤っ恥かかせてやるんだ。


さっきから、ぶすったれた顔をしていたピダムが……今はけろり、と笑っている。

「ピダム!……分かっているとは思うが、スンマン殿は公主様の知り人だ。……礼をもってなさねばならない」
不安な考えが頭に浮かび、ピダムに念を押すアルチョン。

「わかってるさ」さも当然、といった顔で返事をするピダムに頭が痛くなったアルチョンだった。

……明日はユシンにも来てもらおう………

ピダムの様子に一抹の不安が過ったアルチョンは、決心していた。

「明日が楽しみだなぁ~」ピダムが呑気につぶやいた。

※※※

「風が涼しくて気持ちいい………」
「酔い醒ましには格別です」
「私はそれほど酔ってません」
「頬も額も、いい色に染まってますよ、姉上」
「そうですか?」
トンマンが自分の頬に手を当てると確かに熱い……久しく飲まなかったから、弱くなったのか?

「姉上………明日御時間はございますか?」
スンマンの瞳がまた悪戯っ子のように輝き始めた。


「明日、アルチョン殿と手合わせいたします。………見物に来られますか?」
「なぜ、手合わせを?」トンマンは不思議そうに尋ねた。


「ふふっ………花朗でもない私が、公主様のお側に居るための通行手形のようなものです」
「………いつまで知らぬふりをする?」
「そうですね………7日位でしょうか?」
「分かりました。……7日たてば私が貴女の事を皆に教えます」
「風が冷たくなってまいりました………そろそろ、宮へ帰りませんか?」

「そうですね、夜も更けてきました。………帰りましょう」
トンマンが歩き出そうとした、そのとき……………



がくん!!
「――っうあ、」自分で思うより酔いが回っていたのか、トンマンの膝が崩れた。


危うく、地面にそのまま転びそうになったトンマンの、宙を泳いだ腕をスンマンと、飛んできたピダムが支えた。

「公主様!」二人の声が重なった。


「だ………大丈夫だ………大事ない」恥ずかしい、恥ずかしい~~……あれくらいの酒で歩けなくなるなんて………穴があったら入りたいっっ……

トンマンの顔は真っ赤になっていた。


「だ………大丈夫だ!……もう、大丈夫だからっっ」

ピダムとスンマンに両腕を取られたトンマンが、真っ赤になって二人を振り払い歩き始めた。

力みすぎて、いつもよりも大股に歩いていくトンマンをアルチョンとピダムが追いかけていった。


スンマンも歩き出そうとした、その時。


「もうし、そこな御仁。………少し、待たれよ」孔雀の扇を手にした男が近づいてきた。


訝しげに見ているスンマンに近づいてきたのは………

※※※

トンマン達が庭園に出る少し前………


新羅において知らぬ者はいない女傑の部屋へ、飛び込んできた者があった。

女傑ミシルの弟、ミセンだった。


「あ……姉上!大変です」
「何です、騒々しい」弟の派手な登場に 片眉を上げてミシルが見た。

「姉上!知ってますか?………ええ、ええ、私はいつかこういう事が起きると思ってましたよ!」
「だから、何ですか!」
止まらない弟の言葉に、両眉を吊り上げ始めたミシルに、怯え始めたミセンがやっと本題に入った。


「トンマン公主の宮に知らない男が入って、なんと、まぁ~酒席を設けたのですよ!姉上」
「酒席くらい、トンマンも設けるでしょう」
なぜそんなに大騒ぎするのか………じろり、と見返すミシル。

「姉上、考えてもみて下さい。トンマン公主の宮で初めての酒席なんですよ」
「酒を飲みたくなったのでしょう。私だとてする事です」
「そうではなくて!………女官の話では初めて見る男が酒席を希望して、トンマンが言われるまま設けたのです」
「よほど………親しいのか……」ミシルが考え始めた。


「ミセン公、その者の素性とトンマンとの関係を調べあげて下さい。」
「はい、姉上」
さっさと腰を上げ、部屋を出ていこうとするミセン。


その背をミシルの声が追った。
「こちら側につかせるのですよ」
「はい、姉上」
恭しく礼をしたミセンが今度こそ部屋を出ていった。

「どのような人物なのか………楽しみだわ」

※※※

ミセンに呼び止められたスンマンは、訝しげに振り向いた。

「これは………また……」
何か世辞を言おうと口を開けたミセンが……ぽかんとスンマンを見詰めた。


自分よりも遥かに年下で、遥かに背が高く、眼を見張るほどに美しい男。

月のように冷たく耀く美貌の………

何も言えず、ミセンの喉が『ごくり』と唾を飲んだ。

「何かご用か?」
涼やかな声が通っていった。

はっ、と我に返ったミセンはいつもの甲高い笑い声を上げた。

「はぁ~っ、はっはっはっ………余りにも貴殿が美しいので、私が……この私が何も言えなくなりましたよ」
「………」
スンマンは無言で、無表情で相手を見詰めた。

「私はミセンと申します。」
「………」
「失礼ですが、今宵は何処で休まれるのでしょう?」
「………」
「もし、宜しければ我が拙宅へご案内致します」
「………」
無表情なまま、一言も発せずに見つめてくるスンマンに、いつもになくミセンが挫けそうになった。


「珍しい酒も御用意致しますが……」
「……なぜ、私を?」
食い下がるミセンに煩わしそうにスンマンが言った。

「……トンマン公主様と、我が姉ミシルとの誤解を解きたく……私が橋渡し役を買って出たのです」
誘う理由としては、些か強引ですが……仕方ない!

ミセンは、わさわさと扇を振った。

「私には行く理由がない……」
艶然と、咲き誇る牡丹のように微笑んだスンマンにミセンの扇が止まった。

そのまま歩きだしたスンマンを、ただ呆然と見送ったミセンだった。

※※※
意外にミセン公も好きなので登場させました。
絡んでもらいます(笑)
     

③月に照らされ、陽に焦がれ……

※※※
「まっ……お待ちください」呆然と見送ったミセンだったが、寸での所で我に返った。


尚も追い縋るミセンに、もはや振り返らずに歩くスンマン。

「待って……待って下さい……はぁ~ひぃ~」追いつけず息が上がったミセンは、それでも見失わないよう早足をしていた。


そこに、数人の朗徒と歩いていたポジョンとソクプムに出くわした。


「天の助けだ!………おぃ、ポジョン!」甥のポジョンを手招きして呼び寄せると、ざっと事情を話した。


「………それで、あの者をどうすればいいのですか?叔父上」

「はぁ~……あ、あの方をだな。丁重にお誘いして……ふ~……我が家の酒席に……はぁ~……招待するのだ」息も切々に説明すると、ポジョンが男を追っていった。

ソクプムもポジョンを追いかけた。



「もし、そこの方」さすがに花朗だけあって、すぐに追いついたポジョンとソクプムだった。


「………何でしょうか」歩みを止め、振り返ったスンマンにポジョンが息を飲んだ。

「……叔父ミセンが貴殿を酒席に招待したいそうです」やっとで声が出た。

男の美貌に息を飲んだ自分を恥ずかしく思いながらも、魅了された。


「お断りします」無表情に言い捨てると、歩き出そうとしたスンマンの前にソクプムが出てきた。

「失礼だろう、お主。ミセン公は宮主ミシル様の弟……その方の誘いを無下に断るとは!」

「私はトンマン公主の護衛です。残念ながら宮に帰り警護にあたらなければなりません……また後日、お誘い頂けますか」後ろを振り返りポジョンにそう言って歩みだしたスンマンの腕をソクプムが掴んだ。



「ソクプム!!」ポジョンが制止するように声をかけた。


だが、自分を無視した態度に腹を立てたソクプムは、腕は離したが不快そうに顔を歪めていた。



「さすが朗徒をしていた公主様だ。………ピダムといい、お前といい、得体の知れない男でも構わずに取り巻きに加えるとはな~~育ちが知れるわ………はっはっはっ」


ポジョンは瞬間、迸る殺意の塊となったスンマンに、無意識に剣に手をかけていた。


※※※

トンマンから「スンマンを捜して連れてきてくれ」と頼まれたピダムが、ぶつくさ言いながらも見つけた時、ちょうどポジョンがスンマンに追いついた時だった。


「何してんだ。あいつら?」


うしろ姿しか見えないスンマンに、駆けて行けばソクプムがトンマンを馬鹿にした言葉が聞こえた。


瞬間……ピダムの頭が怒りで、真っ赤に煮えたぎった。


そのまま、スンマンを追い越してソクプムに殴りかかろうとしたピダムの腕をスンマンが掴んだ。


「!!!」怒りに我を忘れたピダムの目がスンマンを見た。

「お前………」自分の怒りも暫し忘れ、ピダムはスンマンに見入ってしまった。


ぎらぎらと、怒りに張り裂けんばかりに見開かれた瞳が、ソクプムを見ていた。

スンマンの手が、腕に強く食い込むのをピダムは感じた。


「我が忠誠を捧げしトンマン公主を、辱しめたな………」地の底から沸き上がるような声が響く。


先程までトンマンと穏やかに、にこやかに過ごしていたスンマンと……同じ人物とは思えないほどの代わりようだった。


「じ……事実を言っただけだろう」ソクプムが色黒の顔を真っ青にしている。


目の前の……野生の虎と狼のような二人の怒りを買った自分の軽口を怨んでいた。


「私は花朗ではない……が、お前に比才(ピジェ)を申し込む!」スンマンの宣言だった。

「花朗でもないものが……受ける道理はない!」
「なら……俺が申し込む!国仙ムンノの弟子で歴とした花朗の俺がな!」ピダムがすかさず言った。

「お主は朗徒がいないではないか……比才とは花朗と朗徒が闘い、最後の一人が残るまで止められないのだぞ」ポジョンが何とか止めさせようと説得にかかった………無理だとしても。


「私が助太刀する………私達二人と、そいつと朗徒で対戦すればいいのではないか?」暗にお前など敵ではないと言ってるものだ
明らかに嘲ったスンマンがソクプムを見た。

「なんだと?」青かった顔を、今度はどす黒くしたソクプムが叫んだ。

「いいだろう!……そこまで言うなら、やってやる!……ただし、此方の朗徒は大勢だぞ」はっきり数を言わずに受けたソクプムの考えは読めていた。

「いいさ~……雑魚が何十人いたって、雑魚は雑魚だからな……」ピダムが、からかった。

「明日だ!……逃げるなよ」ソクプムが憎々しげに言い捨てた。

「お前がな……」くっくっくっ……笑いながら声をかけたスンマンの瞳が変化していた。

蒼い火柱が立っているように激しい光を湛え、真っ赤な薄い唇を、舌が……ちろちろと舐めていた。

まるで鮮血でも啜りそうな妖しい気配に、ピダムでさえぎょっとしていた。


ポジョンがソクプムを引き摺って、その場を離れた。


「前から気に食わなかったんだよな、あいつ!」ピダムが吐き捨てた。

スンマンが、がしっっとピダムの肩を組んだ。

「公主様が大事か?」覗き込まれたピダムが、にやりと笑った。

「当たり前だろ!……俺が選んだ主だ!」

「私もだ……私が選んだ主だ!……辱しめる輩など、血の海に沈めてやる」
愉しそうに、先程の穏やかなスンマンが戻っていた。

「お前、俺より短気だな」
「そうか?」
「そうさ!」


ぷーっと二人、噴き出していた。


「ソクプムの野郎~……青くなったり顔色変えて可笑しいったらないよな」

「ああ!色が黒いから、どす黒くなって」

二人の高らかな笑い声が辺りに響き渡った。


※※※

「な……何だと?……今、何と言った!」ミセンが意味が分からないと頭を振った。

「ポジョン……私はお前に、丁重にお誘いしてくれと頼んだはずだな……な?」

ミシル宮に戻っていたミセンに報告したポジョンだが、………失態に居ずらかった。


「ポジョン?……どうした」所用に出ていたミシルが、戻ってきた。


「どうしてこの様なことに……あ~、」

「良いではないか……」経緯を聞き終えたミシルがにこやかに言った。

「姉上~~」頭を抱えたミセンにミシルが面白そうに呟いた。

「ピダムとその男……闘い方を見てから考えてもいいでしょう…」

「姉上?……では」
「明日、私も見物に行きます」ミシルの瞳が輝きだした。



………まったく、姉上もこと花朗や比才には目がないお方だからな。……しかも【あの方】は分からぬが、ピダムの腕前は相当だ。


「ソクプムの朗徒は、何人だ?」ミシルがポジョンに聞いた。
「50人です」

「なら……今晩のうちに後、50人は集めなさい」
「母上?」
「もう一人の男は分からないが、相手はピダムだ………数を頼んで勝負をかけるしかあるまい」


たぶん、ポジョンの話しぶりではもう片方の男も相当な手練れ………ソクプムの負けに決まっておろうが、すぐに終わると面白くないわ。


可笑しそうに片眉を吊り上げて笑うミシルを見て、ミセンが呟いた。

「姉上……姉弟でも怖いですよ、その笑い」


※※※

空が青く澄んでいた。
清々しい朝がきた。

しかし、宮殿は花朗達の騒々しいまでの噂話しでもちきりだった。


「何故このような事態になったのだぁー!!!」

風月主の執務室の中では、ユシンの怒鳴り声が響いていた。

咄嗟に耳を塞いだピダム以外は、まともに喰らってしまっていた。


アルチョン、ポジョン、ソクプム、は耳鳴りがしながらも平静を装っていた。


「ですが風月主、ピダムから話を聞けば比才を申し込むのも分かります」アルチョンがピダムを弁護していた。

大事な主を侮辱され、黙っているなど花朗道にも劣る……今回ばかりはアルチョンはピダムの味方だった。


ユシンもピダムの気持ちは分かる………だが、余りにも軽率だった。


先の穀物騒動で貴族達の反感を買っているトンマンの、立場を考えれば……波風は立てたくないユシンだった……


「ミシル宮主が、比才の見届け人になって下さるそうです」ポジョンが報告すると、ユシンの顔が固まった。



………ミシルまで噛んできたなら決行するしかない………ええい、仕方ない!私も見届けよう。



覚悟を決めて比才の会場を整えるよう、他の花朗や女官に指示をだした。


※※※


「公主様、お茶が入りました」穏やかなスンマンの声にトンマンは寝室から出てきた。


お茶の良い香りが辺りに漂っていた。


「今日、アルチョン殿との手合わせですね」

「それが姉上、成り行きで比才になりました」

「比才?」驚いたトンマンが思わず器を置いた。

「誰とですか?」

「ソクプムとかいう背の低い醜男です」

「ソクプム……」

「ピダム殿と私で参加します」どこかに散歩にでも行くと言ってるような口振りだった。

「ピダムと!!」
「はい」
「いつの間に仲良くなったんですか?」
「さぁ~……私も分かりません」


ふふっと二人で笑いあったトンマンとスンマン。


「必ず見に行きます」
「心配しないで下さいね、姉上」
「え?」


ふわりと穏やかな笑顔のままスンマンが……
「私は強いから、雑魚が百人来ても負けませんよ」瞳が前夜の様に変わっていた。

「スンマン………」

※※※


練武場では比才用に場所が整えられていた。

尊い方達が見物出来るように席も拵え、花も飾られた。



設置にかり出された花朗達が面白そうに見ていた。

「ソクプムのやつ、昨晩で朗徒を増やしたそうだな」
「ああ……百人はくだらないそうだ」
「ピダムがいくら強くても百人とは……無理じゃないか?」
「そうだ!聞いた話しだとピダム以外にもう一人加わるそうだぞ」
「誰だ?……アルチョン朗か?」
「そこまでは……」「数ではソクプムの勝ちだな」
「そうだな……百人対二人など、問題にもならんだろう」
「賭けるか?」
「誰かピダムに賭ける奴がいるのか?」

わっはっはっはっ~

花朗達もミシル派が多数だった。


長年、宮殿も徐羅伐(ソラボル=新羅の首都)も新羅も掌握してきたミシルだった。

権力は依然としてミシルが握っていた。

※※※


トンマンの執務室に顔を出したピダムは、スンマンを見つけた。


「なぁ~、もう行くか?」ピダムは支度が終わっていた。

といっても普段と変わらない黒い花朗服だ。

「ああ……少し待ってくれ」
スンマンは袖口から手を突っ込むと服の中から何か出した。

次は服をめくりパジ(ズボン)の上に巻いていた物を外す。


次々と何かを外していた。

「それ……なんだ?」不思議そうに指で摘まんだピダムが重いのに驚いた。

「重りか?」
「ああ……たまに武器にもなるがな……よし、済んだ」

山のように積んであるそれらを全て外して伸びをしたスンマンだった。


「あ~……せいせいした」
「お前、普段からこんなの着けてんのか?」
「ああ……言っただろ?これも武器になるから」
「へぇ~~」
「さ、行くか」
「そだな」


二人が連れだって練武場に現れたとき、ソクプムはもう来ていた。


百人あまりの朗徒を連れて。


ピダムもスンマンも、百人の朗徒を見ても緊張もせずに話しては笑いあっていた。


それよりも周りの方が騒いでいた。

見物に来ていた花朗や朗徒、まだ準備をしている女官達も初めて見るスンマンの美貌に騒いでいた。


伝説となる闘いが始まろうとしていた。

※※※※※※※※※※

善徳女王の用語で記事を一度した方がいいかしら?と思ってます。


善徳女王を見てない方でも楽しんで頂けたらいいなぁ~と思ってます。


意外にピダムとスンマンが【トンマン絡み】だと沸点が一緒なので、この様な流れになりました(笑)

あ、スンマンが体に巻いてた錘は鍛錬用です。
投げつけりゃ痛いだろうけど(笑)


では、次は百人対二人の比才です。
     

④月に照らされ、陽に焦がれ……

※※※

トンマン公主とミシル宮主が座り、銅鑼が鳴り響いた。

「では、比才を開始する。ソクプムとピダム、前に出ろ」風月主(花朗の統率者)ユシンの力強い声が二人を呼んだ。

「使うものは此方で用意した。どれも自由に使ってよい」
「はい」
「花朗道に則り、正々堂々と闘われよ!」
「はい」



「あの男……何処かで見たような……」ミシルが呟いた。

「ミシル宮主も見物に来られるとは思っていませんでした」トンマンが話しかけていた。
「ええ……私も原花(ウォンファ=花朗の女性統率者)ですから、比才と聞くと血が騒ぎました」ほほっと笑いながらも、目は笑ってなどいないミシル……
気にかかるのか、トンマンから直ぐにスンマンへと視線を移していた。

トンマンもつられるように練武場に視線を移す。

百人の朗徒を見て、トンマンはスンマンの言葉を思い出していたが………心配だった。

「どうか、スンマンもピダムも無事で」
両手を握りしめ不安気に二人を眺めると………
ピダムと肩を組んだスンマンが、満面の笑顔でトンマンに手を振っていた。

ピダムが、そんなスンマンに気づいて同じ様に……いや、より大きく、両手で、トンマンに手を振ってくる。

その二人の緊張感など欠片も見当たらない様子に、トンマンは気が抜けた。

「あの二人~!」


トンマンが心配するのも馬鹿馬鹿しくなった頃、当の二人は気楽だった。

「数が多いと鬱陶しいな……」
ピダムが呑気に言うと……
「ま、一撃で動けなくしていけばいいさ」スンマンはけろりと答えた。
「一撃で……か?」
「ああ……骨か筋を絶てば動けないし、鳩尾を突けば気絶する……それを押してまで闘うような気骨のある奴などおらんだろ?」スンマンの瞳にまた蒼い火柱が立っていた
ぺろりと唇を舐める様が妖しくて。

「お前、蛇みたいだな……」ピダムが珍しく人に構っていた。
「ああ、血が騒ぐとでる癖でな……嫌か?」僅かにスンマンの顔に哀しみの影が落ちた。
「別に」
「……そうか」

※※※

ソクプムは百人の朗徒を揃え、意気揚々と練武場へ姿を現した。

が、一向にピダムも無礼な男も焦る気配もない。

「あいつら馬鹿か?」ソクプムは自分の勝利を確信していた。


この前の風月主比才ではピダムに呆気なく負けたが、今度はそうはいかぬ!

「この人数だ……俺がピダムの鼻をへし折ってやる」隣にいるポジョンに話しかけたソクプムだが、興奮のあまりポジョンの様子がおかしい事にも気づいていなかった。

ポジョンの目線の先には、スンマンがいた。

ピダムと肩を組み、公主に手を振っている………笑顔が眩しかった。

ピダムと親しげに話しているスンマンが……みるみる昨夜の様に変貌していた。

その妖しげで、鮮やかな美貌に釘付けになったポジョンだった。

また銅鑼が鳴り響いた。

試合開始の合図だ。
※※

「行くか」
「ああ」


風月主が用意した木刀を持ってピダムが構えると、スンマンも木刀を持った。

ぶぅぅん……ぶぅぅん……何気なく振り回しても空気を切り裂く音がする。

ピダムとスンマン………共に手練れであった。

スンマンの両手にはそれぞれ木刀が握られていた。

「お前、二刀流か!」横を見たピダムが驚いていた。
「ああ……私は剣も、存在さえも異質なんだとさ………」
遠い過去の出来事を思い出したスンマンは、哀しげに微笑んだ。

だが、ソクプムの朗徒が二人を囲むとスンマンの顔が哀しみから妖しげな美貌へと変わっていた。

「行くぞピダム!」
「おう!」

※※※

二人の木刀を一度でも受けた朗徒は、痛みでうずくまり動けなくなった。

手当たり次第、鬼神の様に薙ぎ倒して行く二人に見物している花朗達が驚愕していた。

「何だ……あの強さは……」
アルチョンも例外ではなかった。

ピダムが強いのは分かっていた。
だが、あの背は高いが何処か線の細い印象のスンマンが此れ程とは………

「うう~~む……」
純粋に強い相手と勝負をしたくなった……武人の魂が騒いだアルチョンだった。


ピダムとスンマンは互いを背にして前の相手を倒していた。
息のあった動作でお互いの場所を移動し、次々と朗徒を倒していく。

百人もいた朗徒は、もういくらも立っていない。

そんな………馬鹿な………あいつら……人間か?」ソクプムの顔が、勝利を確信していたものから敗北を予感するものへと変わった。

だが、まだ終われない………さすがに疲れてきた二人の隙を伺う。

ちょうど倒れた朗徒が、倒れながらも必死でピダムの足を打った。

ピダムが痛さに片膝を着き、つい顔を足に向けたその時……隙ができた。


今だ!! 自棄になったように突き進んだソクプムの木刀が、ピダムの頭に振り下ろされる。


渾身の力で振り下ろされる木刀の前では、頭も西瓜も変わらない………割れて砕けるのみ。


※※※

「ああっピダム!!」
トンマンがピダムの後ろから迫ったソクプムを見て、思わず声が出た。


「おお!!あの男……」
ミシルは背後の異変を感じとり振り返ったスンマンが、咄嗟に出した木刀を見ていた。

ソクプムの木刀を弾き飛ばし、もう片方の木刀でソクプムの胴を払った………が、避けようと捻ったソクプムがスンマンの右肩を打った。

「くぅっ~………」唇を噛み、声を押し殺してはいるが相当な痛みに顔を歪めている。

「おい!」
「大丈夫だ!」
「でも」
「大事ない!!あと少しだ、やってしまうぞ」
「……分かった」


ピダムが豹変した。
獣の様に速く鋭く、残っていた朗徒の一人まで叩き倒した。

「残ったのはソクプム~~………お前だけだな」喉元に木刀を突き付けピダムが面白そうに笑っていた。

「トンマン公主様に……謝罪しろ」右肩を押さえながらスンマンが言った。

「それとも……いっそ殺すか?」
「それもいいな……」


くっくっくっ……
へへへっ………
笑いあう剣鬼達にソクプムは、心底ぞっとした。

「あ………謝る、謝るから……許してくれ」
膝ずいたソクプムをトンマンの方へ向かせたピダムは、早く言えとばかりに木刀で突っついた。

「トンマン公主様、昨夜の私の言葉をお許し下さい」
額を土に擦り付けて詫びたソクプムだが………反省なんぞしていなかった。

土を投げて攻撃に移ろうとしたが、スンマンに避けられ呆気なく鳩尾を突かれ気絶した。


ピダムとスンマンが勝利した。

風月主ユシンの勝利宣告を受けたピダムが、スンマンと共に前に出てきた。


「今日のお前達二人の闘いが、花朗達の伝説になるであろう」ミシルがその場の誰より先に言葉を発し、誉めていた。

獲物を見つけた肉食獣のように目をぎらり、と輝かせて……

「勝利を祝い、今宵は宴を用意致します。トンマン公主様もご出席いただけますよう……」
恭しく場を仕切ったミシルにトンマンは出遅れた!と感じた。

「ありがとうございます」
ここまで仕切られたら口の挟みようがなくなったトンマンだった。

「ほほほっ」
ミシルの機嫌良さげな笑い声が、場を支配していた。

※※※

「ポジョン、薬を持っていってやりなさい」
ミシルが手招きした息子ポジョンに命じた。

「あの、スンマンという者……肩が腫れているだろう……我が一族の秘薬を使えば一刻で腫れがひく」
「分かりました。直ぐに届けます」
「ああ……それと……」
「はい、母上」
「あのスンマンを私の宮に連れてきなさい……宴の後でな」「はい、母上」
ポジョンが薬を取りに駆けていった。


ミシルは壇上のトンマンを見た。
もう一仕事しなければ……ミシルの片眉が上がった。


「スンマン大丈夫か?」
トンマンが心配気に声をかけた。
「心配いりません」
「だか……」
「公主様……大丈夫です」にこり、と優しく微笑むスンマンだが……

後ろから、ぐっ!と右肩を掴まれた。

「ぐぅふっ!」悲鳴は上げなかったスンマンだが、痛みに汗が滴ってきた。

スンマンは、肩を掴んだ手を捻あげた。

「いてて~参った!どんな状態か触っただけだよ~」ピダムだった。
「………」ぎりぎりと尚も無言で捻あげるスンマンに、ピダムが治療したいと申し出ていた。

「俺、師匠に医術も仕込まれたんだ……治療させろよ」

「………断りを入れてから触れるのが礼儀だろう」

「いててて………悪かった!手を離してくれよ~」

ふいにミシルが近づいてきた。
「一先ず私の宮へ来られませんか?」ミシルが誘うが………トンマンは頭を横に振った。

「ミシル宮主の申し出はありがたいのですが、私の宮で手当し休ませます」
「そうですか……では、ポジョンに薬を届けさせます。一刻もあれば腫れが引く我が家門の秘薬です」無理だと思えば直ちに引く……後に繋げれば、それで良いわ。
さっと席を立ち、ミシルが退場した。


トンマンもスンマンを気遣いながら自分の宮へ帰った。


※※※

「見せろよ」
「嫌だ!」
「さっきは悪かったって……でも大分腫れてるし、熱も持ってる………治療してやるよ」
師匠仕込みの医術の、腕は確かなピダムがスンマンに食い下がる。

「はぁ~…しつこいぞ!………分かったから、しばし待て」
「何で?」
「……あ、ピダム!そうだ、お前も足を怪我していただろう……先に自分の治療をしておけ」
トンマンが少々わざとらしいがピダムを部屋から出そうと声をかけた。

が、一向に動かないピダムに焦れた。

「アルチョン殿!」
「何でしょう、公主様」呼べば来る来る、飛んで来るアルチョンだった。


「ピダムを宮医に診察させて下さい。………その後、スンマンの治療をするよう宮医を連れてきて下さい」

「はい、公主様」
「わっ!離せよアルチョン………俺が診てやるんだって」
「有り難くも公主様の言いつけだ!先にお前が治療するんだ」

ピダムを引き摺ってアルチョンが部屋を出ていった途端、スンマンの顔が苦痛に歪んだ。

「我慢していたのか……」
「チョンソに私の着替えを持って来させて下さい」
「着替えるのか?」
「血が付いた服では姉上に失礼ですから……」朗徒達と闘った後が血の染みになって服に、ぽつぽつと付いていた。
「分かった……チョンソ」
控えていたチョンソが頷き消えた。

すぐに着替えを持って現れたチョンソが、スンマンの着替えを手伝った。

腕が上がらぬスンマンの上着を、一枚一枚脱がしていくと………露になった両肩の右側が赤黒く変色して、腫れ上がっていた。


服を着ていた時は男性に見えても……鍛えられたしなやかな躯とはいえ……確かに胸に女性の膨らみもあった。

朗徒だったトンマンがそうだったように、しっかりとサラシで巻かれてはいたが………

「スンマン!」
トンマンが思わず声を出すほど、スンマンの右肩は赤黒く腫れていた。

「俺が治療してやるんだ」
「まて、公主様の命が聞けんのか~」

ピダムとアルチョンが縺れ合いながら部屋に飛び込んで来たのは、そんな時だった。

「お主は………」
「お前………」

アルチョンとピダムが目の前の光景に固まったとき。

開きっぱなしの扉からポジョンが顔を出した。

「薬を届けに参り………」ました。と言葉が続かなかった………

ポジョンも呆然と露になったスンマンを眺めていた。


「女?………」


深い溜め息が響いた………スンマンだった。

「ピダム、そこの男から薬を貰って治療してくれ」
「ああ………」


「他の者はどうする?」
にやりと笑うスンマンの目が悪戯っ子のように輝いた。

「これ以上見たいなら、見料とるぞ!」
「ぷっ………お前、金取る気か?」いち早く立ち直ったピダムが治療を始めた。

「いや……失礼した!」
アルチョンとポジョンは揃って部屋から 出ていった。

扉の前で、二人共に今見た光景を思い出していた。

二人共に………頬が赤くなっていた。

「………女か」
「……女だった」

しばらく呆然と扉の前で立ち尽くす、男達だった。

※※※
ポジョン壊れたみたいです(笑)
     

⑤月に照らされ、陽に焦がれ…

※※※※※
「それにしてもよ~」ピダムが酒で傷を消毒しながら聞いてきた。
「なんだ?」
「お前、何でそんな格好してんだ?」
「男の服か?……」
「ああ……」
「…………」
「私も聞きたい。何故だ?」好奇心からかトンマンも聞いてきた。

自分の場合は出生を調べるため、やむを得なかったのだ。

だが、………スンマンは聖骨【ソンゴル=両方とも親が王族で王位継承の資格がある】という立派な出自だ。
わざわざ男の格好などせぬともいい。
何か深い訳でもあるのだろうか………


「私の趣味です」にやりと笑い、堂々と言うスンマンに……真剣に聞こうとしていたトンマンが呆れてしまった。


「ふふっ……私は動きやすさが優先なのです……そうしたら男物が一番なんですよ。  ……しかも、こんな背の高い女物の服など金がかかって仕方ありません!」
「だが、スンマン。いつも男の服ばかりなのか?」……公主なのに……と口から出そうだったが慌てて飲み込んだトンマンだった。
……ピダムがいたのだ、まだ7日たってはいない。約束は守らなければ。


「公主様は見たいのですか?………私の女装を……」瞳を輝かせてトンマンをからかうスンマンに、はぐらかされてしまった。

「まぁ~よい、いずれ話してくれ」トンマンはわざと話を終わらせた。


スンマンが話したくなければいい、いずれ話してくれるだろう………無理強いするトンマンではなかった。


「……所で、この薬使うか?」ピダムがミシルからの薬を持っていた。

「そうだな……使えそうか?」
薬の臭いを嗅いでるピダムが、うん!と頷いた。
「毒は入ってなさそうだ」
「じゃ、使ってくれ」

ぬりぬり……ぬりぬり……ピダムが布に膏薬を塗っていると、興味津々でトンマンも側に寄り見ていた。

「秘薬と言っていたな……どんな感じなのだろう」くんくんと鼻を近づけ、臭いを嗅ぐトンマン。

ピダムの手元にトンマンの顔があり、常より近い距離に鼓動が跳ね上がり……ぎこちない動きになるピダムだった。

「公主様………お顔にかかります……」余りに近付きすぎるトンマンにピダムが注意を促す。
「そうか?」そのまま、くるっとピダムを見上げて笑うトンマンに、ピダムの動きが止まった。

「な………何が、入ってる…か、わ……分からないん、で……ですから」
どぎまぎと変に区切って話すピダムに、後ろのスンマンが笑っていた…………腹を抱えて。


「分からないから知りたいのだ」
「スンマンに貼れば効くかどうかは分かります」ピダムが横目でスンマンを見ていた。  先程笑われた事もしっかり根に持ったピダムだ。
「それもそうか」
「残りを調べたら大体は分かると思いますよ」
「なら早く貼ろう」


「……本当に大丈夫なのか?」二人の会話に微笑みながらも、ちと不安になったスンマンだった。


※※※

「宴の用意が整ったそうです」チョンソが知らせに来た。

「分かった………スンマン肩はどうだ?」心配そうなトンマンがスンマンを見た。
「秘薬というのは本当ですね………一刻(約二時間)で腫れが引いてきました」肩をゆっくり回しながら具合を調べるスンマンだが……
「おい! まだ痛みもあるから無理すんなよ」ピダムが注意した。
「ああ、分かってる」
「では、行こう」
「はい、公主様」

扉の外にアルチョンが居た。
トンマンの側により一礼する。
「宴は楼閣でするそうです……ミシル宮主がお待ちです」
「そうか、行こう」
トンマンを先頭にピダム、アルチョン、スンマンが続く。


「傷の具合はどうだ?」アルチョンがスンマンに尋ねた。
「だいぶ良い。……まだ剣は持てそうにないがな」
にこり、と笑ってスンマンが答えると、アルチョンがほっとしたように笑った。

「そうか。ならば傷が回復した暁には、私と手合わせしてもらいたい」
「ああ……いいぞ」
「そうか、良かった」アルチョンの顔が綻んだ。

「比才を見ていてな、お主の強さにどうにも剣をぶつけてみたいのだ」
「約束しよう。怪我が治れば直ぐにな!」

晴れ晴れとした顔のアルチョンが、トンマンの後ろに行った。

※※※

宮殿の高台に造られた楼閣は、いつもはガランとしているが今日は違った。


紅い敷物がひかれ、立派な長机がいくつも運び込まれていた。

長机の一つは足が長く椅子で座るようになっており、その他は低い……どうやら偉い方々も来られるのか。
用意をしている女官達が噂していた。

ミセン公が指示を出しているので、ミシル宮主が来るのかも……女官達は、そう噂して余計に抜けた所は無いか神経を使った。

長机には色とりどりの料理が、所せましと並べられている。

「はぁ~はっはっはっ」ミセンがいつもの高笑いと共に入ってきた。

「良いか! 料理も酒も、たっぷりと用意しろよ……ミシル璽主に恥をかかすんじゃないぞ………どんな恐ろしい事になるか」孔雀の扇を振りながら細かに見ていたミセンが満足気に頷いた。

「これならば、我が姉上も御満足頂けるだろう」

「さて、用意ができたと知らせに行くか」ばたばたとミシル宮へと急ぐミセンだった。

※※※

「公主様の御越しです」

トンマンが楼閣に着くとミシルも、他の皆も、立ち上がり待った。

トンマンが上座に座ると皆が礼をとり、座る。

アルチョンはトンマンの後ろに控えて立ち、スンマンとピダムは揃って花朗達の席へと行った。


足の長い机には……トンマン・ミシル・ミセン・ソルォン・ユシン・が座った。

「皆の者、……此度の宴は昼間の比才に、感銘を受けたが為に開いたもの。」ミシルの声が楼閣に響いた。

「花朗の伝説になろう比才の勝者を讃えようではないか」ミシルの言葉に花朗達が唸りを上げて賛同した。

宴の始まりだった。
隣同士の者、向かい合う者、皆が酒を注ぎあい飲みあった。
幾つもある低い長机には、ソクプム以外の花朗達が座っている。

「主役が下座では格好がつかないぞ」ポジョンが空いている上座に、スンマンとピダムを連れてきて座らせた。

「すっげぇー、ご馳走だな」好物の鶏肉を見つけたピダムが興奮していた。
「そういえば腹が減ったな……」
「お前、何喰う?……右手使えないだろ?」
「左がある」
「遠慮すんなよ……鶏肉旨そうだぞ」ピダムの手が伸び、スンマンと自分の前に炙った鶏肉が山と積まれた皿を持ってきた。

「皿ごと喰う気か?」
「……ひょりにゅく……ふぉーぶつな……」すでに口一杯に鶏肉で満たしたピダムが、何か言っているが……

「鶏肉が好きなのか……分かったから喰え。酒も注いでやる」思わず右手を使おうとして、眉をしかめたスンマンが左手で酒を注いだ。
「ひゃいびょーぶか?」
「大事ない」にこりと笑って自分の盃に酒を注ごうとした手を止められた。


「私が……」ポジョンだった。
スンマンの隣に座り込んだポジョンが料理を見回し聞いてきた。
「何か好物はありますか?……取りますが」
「そうだな……あれとそこの蒸し物を」遠慮もせずに取らせているスンマンに周りの花朗達が驚いていた。
「何故ポジョンが世話をやく?」
「ソクプムはポジョンの腹心だったのに」
「変だな……」
ざわざわと、騒がしい花朗達などお構い無しに、ポジョンは嬉しそうに世話をしていた。


「次は何を取りましょう」
「ははっ……私はそんなにがつがつ食べれませんよ。 ……ピダムと違って」山のようにあった鶏肉が、もう半分も骨だけになってきた。
「さ、どうぞ」空になった盃に酒を注ぐポジョン……スンマンが訝しげに見詰めていた。
「………ポジョン殿も、どうぞ」
二人、何を話すでもなく酒を飲んだ。


その様子を影から見ていた者がいた。
ソクプムだった。

陰湿な目に憎悪の光を湛えて、スンマンとピダムを見ていた。

昼に終わった比才から宴が始まる夕刻までに………他の花朗達からの嘲りや嘲笑、陰口を散々浴びせられたソクプムは怨んでいた。
「くっそー……彼奴ら許さぬ。恥をかかせおって……」
喧嘩を打った原因が、自分の軽口に在ることも忘れてソクプムが唸るように言い続けていた。
「絶対に彼奴らに恥をかかせてやる!」

※※※

「宴の主役の二人に祝いを述べたいのですが……」ミシルがトンマンに許しを請うように切り出した。
「私も二人と話したいと思っていました」トンマンが頷くとアルチョンより早く、ソルォンが動いた。

「二人を呼んできましょう」ソルォンが目配せすれば、ポジョンがピダムとスンマンを連れてきた。
二人はユシンの隣に、ポジョンはソルォンの隣に座った。

「薬は使われましたか?」ミシルが聞いた。
「有難うございます。お陰で大分、楽になりました」スンマンが礼を述べた。
「それは良かった」ミシルが微笑みながら満足そうに頷いた。
酒を片手にスンマンの隣にきたミセンが扇で口元を隠しながら……
「我が家門には色々な秘薬がありましてな……はぁ~はっはっはっ!女をものにする時に効く秘薬もありますから、必要な時は私に言って下さいね」ミセンが扇を振りながら、自身では小声のつもりでスンマンに話した。

「……ミセン殿!公主様の前ですぞ」ソルォンが眉をしかめたミシルを見て、たしなめた。


「ふふっ……その時はミセン公に相談に参ります」スンマンが愉しそうに笑った。
紅い唇が弧を描き、切れ長の大きな瞳が悪戯っ子のようにきらきらと輝いた……牡丹の花が咲き誇るように艶やかだった。

すぐ隣にいたミセンが口を開けて見惚れていた。
「さ……酒を…どうぞ」直ぐに我に返って酒を注ぐ。
「スンマン殿、今度私と出かけませんか?」
「ミセン公……何処へでしょうか」
「楽しい場所へ、ですよ!」こんな美男を連れていけば店の女達が色めき立つだろう……既に行く店も二つ、三つ決めていた。
「楽しい場所……行ってみたいですね」
「きっとですよ。約束しましたからね!」スンマンの色よい返事に上機嫌なミセンが笑いながら席を立って行った。

※※※

「今更だが、どうして比才になったのだ」トンマンが二人に尋ねた。
「公主様……」ピダムとスンマンが顔を見合わせた。
「ピダム……話してなかったのか」ユシンが驚いてピダムを見た。
「スンマン殿が話しているとばかり……」ばつが悪そうにピダムが言うと。
「私が悪いのです、風月主。……公主様に心配かけたくなくて比才も今朝、話したのです」スンマンがトンマンに頭を下げた。

「申し訳ありません……ソクプムという花郎に辱しめられ我慢ならず私が比才を申し込んだのです」スンマンが経緯を話すと、ピダムもトンマンを見て頷いている。


「公主様の事を言ったそうです……だが、軽率だとは思わないのか?」ユシンがゆっくりと二人を見ながら言うと、スンマンが真っ向からユシンの眼を受けた。
「軽率だった。それは認めよう……だがな風月主、我が主君を嘲られ大人しく出来るほどに……私はまだ年寄りではない。 ……その場で剣を抜かなかった事を褒めてほしいな」にやりと笑ったスンマンがピダムの肩に手をかけた。
「私と同じ短気な奴もいたからな」
「俺か?」
「お前だよ」
二人が高らかに笑いあった。


その様子にユシンとアルチョン、二人が顔を見合せ頭を痛めた。

何をするか分からない無鉄砲な者が、ピダムともう一人増えたのか………二人の目が語り合っていた。


「つっ………」つい動かした右肩が痛むのかスンマンの顔が、痛みに歪む。
「そらみろ! 痛むから気をつけろって言っただろ」
「ははっ……つい、な……ほら、鶏だ。好物だろ?」
「お前も喰うか?」
「ああ……」スンマンが左手だけでは上手くむしれずにいると……
すっと手が伸びてきた。


「ポジョン殿……すまぬな何度も世話をかけて」
いつの間にか隣に来ていたポジョンが鶏をむしり、料理も幾つか取っていた。
「先程と同じ物を取りました。他に食べたい物があれば取りましょう」
「これで十分だ、ありがとう」
「いえ……」ポジョンが嬉しそうに笑った。



ミシルがそんなポジョンを、じっ……と見ていた。

※※※※※

プロフィール

すー※さん

Author:すー※さん
私的妄想世界が広がっております。
イチオシは窪田正孝さんの役柄いろいろ妄想話です♡(その他にも相棒の神戸さん、スネイプ先生や善徳女王など色々でございます)

最近は更新ができてませんが、発作的に投下してます。
8月、9月の試験に受かれば時間ができるので、それまでは見守っていて下さいませ。

合言葉は『シリアスからエロまで』・・・・・楽しんでいただければ幸いです。。。

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